転生令嬢シシィ・ファルナーゼは死亡フラグをへし折りたい

柴 (柴犬から変更しました)

文字の大きさ
上 下
49 / 129
第三章

47 事件 3

しおりを挟む


 過保護スピネルは「お嬢様をここから出しません」という意思を目に浮かべ、尚且つ扉のすぐ横に陣取っている。さっきまで普通に対面に座っていたのに。


 信用の無さが浮き彫りになってちょっと悲しい。


 そう言えば今更なんだけど、この三ヵ月の間、私とスピネルは二人っきりで馬車に乗ってるんだけど、年頃(?)の男女が密室空間に二人でいていいのだろうか?


 今まで気にもしてなかった私も問題あるけど、スピネルにも両親にも問題ありなんじゃなかろうか?


 それをスピネルに言ったら「今更ですか」と鼻で笑われた。

 確かに今更だというのは同意だ。なので話題を変えることにする。


「夏季休暇明けにはマリア様も噂も落ち着いてくれるといいね」


「そうですね。理由は分かりませんが、彼女が本気で言っているのか何か企みがあっての虚言か、或いは空想癖があって現実にあったと思い込んでいるのか、被害妄想癖持ちで何でもないようなことを大袈裟に言っているのかが気になるところです」


「それと、ミーシャとの事も」


「アレは見なかった事にしたのでは?」


 確かに人気のない場所でミーシャにマリア様が迫っていたことは見なかった事にした。しかしそれは、当人たちや第三者に言わないという事であって、私とスピネルの間で話すのは問題ないと思う。


「んー。そうなんだけどさー。マリア様が日替わりメニューで男子と居るのさえやめてくれれば、ミーシャとお付き合いなり何なりして落ち着いてくれるのもアリっちゃーアリかなーと」

「あー……ですが、子熊は女子の事をあんまり個別認識していないですよね?」


 そうなのだ。ミーシャは12歳にもなってまだお子様なのか、女子に対するアンテナがまるで立っていない。好きなものは剣術。一緒に遊びまわれる男子とは仲が良く友達も多い。けれど、気を使わなくてはならず、剣術の話も出来ず、一緒に動き回る事も出来ない女子は一人一人を識別すのではなく「女子」という大きな括りでしか捉えていない。


 もちろん個人個人の名前くらいは把握しているが、女子Aが「ピンクのバラが好き」と言い女子Bが「苺のクリームが好き」女子Cが「運動は苦手」と言ったとして、彼の中ではピンクのバラが好きな女子がいる、苺クリームが好きな女子がいる、運動音痴の女子がいる、とインプットされるだけで、それぞれが誰の事だかは脳に刻まれないのだ。


「その中でお嬢様は、”とりあえず女子”っていう大きな括りじゃなくて”シシィ・ファルナーゼ”として子熊の中に確立されています」

「私はミーシャにとって女子じゃないからって言いたい?」

「いえ、そうではなく。いや、それもあるのかもしれませんが私が言いたいのは……」


 あるのか!確かに、屋敷に来るたびに剣を交えている私は、ミーシャにとって女子枠ではないかもしれないけども、スピネルの発言は私に失礼じゃないだろうか。


「私が言いたいのは、もしクスバート嬢が子熊に思いを寄せていたら、お嬢様の事は邪魔に思うのではないかと」

「え?それが苛められてる発言の元?まさかー」


 だって、私だけじゃないよ?レナータ様たちだって一緒くたに加害者扱いされてる。あ、ヴィヴィアナ様の悲しそうな顔を思い出してしまった。キュン。


「稚拙ではありますけどね。騎士も貴族もレディーに対して紳士であれという風潮がありますから、弱い自分を見せれば味方にすることは左程難しくないと思います」


 そうかなー。そういうものかなー。幾ら女性を守ろうとする紳士でも真偽確認くらいはするでしょう。


「男は単純ですからね。頼られれば力になりたいと思う者です」


「……ス……スピネル、も?」


 ええっ!?スピネルもか弱い女性に頼られたらコロッといっちゃうわけですか!?それはヤダ。友達増やせと言っておいて申し訳ないが、そんなあざとい女子には引っかからないでほしい。世の中にはちゃーんと真っ当な女子がいるから!


「私は紳士じゃありませんから。私が尽くしたいのはお嬢様だけですよ」


 スピネルが満面の笑みで言ってくれてホッとした。


「お嬢様は、私が他所の女性に優しくしたら嫌ですか?」

「え、嫌って言うか……ん?あれ?嫌、なのかな?」


 スピネルの独占欲を笑えない。私も初めての友達に固執しているのかもしれない。いっちゃんもそうちゃんもいるのに。レナータ様達もいるのに。


「お嬢様、その意味を私が都合の良いように汲み取ってはいけませんか?」

「都合の良いようにってどういう……あっ」


「どうなさいました?」


 会話の途中で突然窓に張り付いた私に、スピネルが当惑したように尋ねてきたがそれどころではない。


「スピネル、扉を開けて!」

「え?嫌です」

「嫌ですじゃ無ーいっ!今、そこで!私の目の前で女の子が路地に無理やり連れ込まれた!行くよ、スピネル!」

「私が行ってきますからお嬢様は馬車の中で待って……いてはくれませんよね」


 分かってるじゃないか、スピネル。

 私を一人で残したって止める者がいない馬車の中で大人しくしている訳ないぞー。


 渋々……本当に渋々とスピネルが馬車のドアを開けてくれたので、彼の肩をポンと叩いてから路地に向かってダッシュする。

 大丈夫、ちゃんとスピネルが私の後をついてきてくれるから。


 それにしても、やっぱりこの辺りは危険な場所なんだろうか……。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...