上 下
46 / 129
第三章

44 公爵令嬢は見た!

しおりを挟む


 入学して三ヵ月。夏季長期休暇も近くなってきた。

 一学年Aクラスの女子六人でランチをしていたのも最初の頃だけで、今は五人だ。


 抜けたのはマリア様。


 ああ、お母様にクスバート家とファルナーゼ家の関係を聞いたけど、特に付き合いがある訳でもなければ敵対している訳でもないらしい。じゃ、マリア様のあの態度は何だったんだろう?


 最初は「他の子に誘われたから今日はご一緒出来なくて」と申し訳なさそうに言っていた彼女だけど、週に一度から二度三度と増えて今では別々に食べることが当たり前のように声かけもなくなった。


 それは別にいい。


 同じクラスだからって一緒にご飯を食べなきゃならない訳じゃ無し、別のクラスの子で気の合う子がいるならその子と一緒に昼食を取りたいだろう。


 だが、そのお相手が男の子ばっかりというのがなぁ、うん……。

 貴族令嬢として教育されてきている筈の彼女が、婚約者でもない男の子と二人きりでご飯を食べるのはよろしくない。しかも相手は日替わりだそうだ。

 お相手にも婚約者がいる訳でなし、誰に迷惑が掛かっている訳でもないんだけどねぇ。


 マリア様曰く


「皆様のお話を聞いて思いましたの。殿下が18歳になるまで婚約の動きが活発化することもないなら、今のうちに沢山の方と交流を持って将来に備えておくことに利点があるでしょう?」


 だそうだ。


 そうなのかな?そう言い切られるとそんな気がしないでもないけど、やっぱりそれはちょっと違うよなーとも思う


 案の定「はしたない」「慎みがない」「尻軽」などと噂されている。淑女として失格だと判断されれば、却って将来の不利益になるだろうに。

 割と刹那的な方なのかもしれない。


 彼女の日替わりメニューには含まれていないものの、アプローチを掛けられて困惑しているのがミーシャことレオナルドだ。

 ミーシャは女の子より剣の方が大事で、年齢的にも家での立場的にも若いうちから結婚を見据える気はさらさらないという。なのに、ちょっかいを出されていて鬱陶しそうにあしらっている。


「レオナルド様、先ほどの剣術の授業ではとても格好良かったです。先生とも対等に渡り合うなんて、レオナルド様はとってもお強いのですね。将来は騎士を目指していらっしゃるんでしょう?」


「え?授業を見てたって……クスバート嬢も授業があっただろうに何してんの?」


 あからさまに不審がるミーシャにマリア様は慌てて弁解する。


「え、あの。ちょっと気分が悪くて養護室に向かう途中でしたの。通りすがりにレオナルド様の雄姿を垣間見まして――」


 確かに、具合が悪いと言って授業を抜けたことがあった。けど、担任の先生が養護の先生に様子を確認したところ、マリア様が養護室に現れていない事が判明。

 ミーシャを見るためにサボったと考えるのは穿ちすぎでもないだろう。


 当のミーシャは褒められて嬉しがるでもなく引き気味だった。

 マリア様、美少女だけどね。ちょっとこの国とは別物の常識で生きているのか、ずれた行動をとることがままある。そういうところがミーシャを不快にさせているんだけど、マリア様はそれを分かっていない。他国育ちだからなぁ。


「あの、どうぞ私のことはマリアと呼んで下さい、レオナルド様」


「いや、遠慮しておく。俺の事はシュタインと呼んでくれ」


 真っ向からお断りだよ。ミーシャ、もうちょい言いようがあるだろう。

 あー、でも仕方ないか。初対面に私に放った暴言よりはずっと柔らかく言ってるし、ミーシャだし。


 言うだけ言って踵を返したミーシャの背に向かって。マリア様が舌打ちしているのを私は見た。

 おいおい、美少女令嬢が舌打ちはないぜー。いや、暴れん坊お嬢様の私に言われたくはないだろうけど。本人には言わないけど。


 なにかブツブツ呟いたあと、マリア嬢は校舎に戻っていった。


「なんというか……独特な感性のご令嬢ですね。子熊を狙っているんでしょうか」


 スピネルが言う。


 ちなみに今いる場所は校舎からはちょっと距離のある図書館へと向かう小路だ。校舎内にも図書室はあるんだけど新しい本が多い。私たちが今向かっている図書館は書庫も兼ねていて、図書室には収まりきらない本がたくさんあるのだ。


 ちょっと調べたい魔法があって向かっていたのだけれど、まさか、マリア嬢がミーシャと二人でいるとは思わなかった。


 ミーシャが図書館に用があるとも思えないので、マリア嬢に呼び出されたのかも?褒めていい雰囲気を作って告白とか?


「うーん……」


 マリア様がミーシャを好きならそれでもいい。


 けど、日替わりメニューの男子をキープしている状態だったら、お付き合いは賛成できない。元々ミーシャにその気はなさそうだったから関係ないけど、やっぱり8歳のころから知っている幼馴染みたいな子だから、誠実な子とお付き合いして幸せになって欲しいと思う。


 私はミーシャのお母さんじゃないんだし、大きなお世話か。


「見なかったことにしよう」

「そうですね」

「行こうか」

「行きましょう」


 マリア様にもミーシャにも余計な事は言わないでおこうとスピネルと頷き合って、私たちは図書館へと向かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

悪役令嬢、モフモフ温泉をおばあちゃんの知恵で立て直したら王妃にジョブチェン?! 〜やっぱり『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件~

華梨ふらわー
恋愛
第二王子との婚約を破棄されてしまった主人公・グレイス。しかし婚約破棄された瞬間、自分が乙女ゲーム『どきどきプリンセスッ!2』の世界に悪役令嬢として転生したことに気付く。婚約破棄に怒り狂った父親に絶縁され、貧乏診療所の医師との結婚させられることに。 貧民街の生活が改善し、診療所も建て直せそうか……と思いきや、獣人らからも助けを求められることに。大聖女のチート技で温泉の源泉を発見!今度はおばあちゃんの知恵を使って温泉宿を経営することに。『医者の嫁』ハッピーセレブライフ計画の進捗状況はやはり停滞中です。 『悪役令嬢、追放先の貧乏診療所をおばあちゃんの知恵で立て直したら大聖女にジョブチェン?! 〜『医者の嫁』ライフ満喫計画がまったく進捗しない件〜』の続編となります。 『小説家になろう』で2万ptを達成しましたので、番外編を不定期で更新していきたいと思います。 また新作『盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を織る』も合わせてお楽しみいただけると幸いです。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

もしもし、王子様が困ってますけど?〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...