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第三章

41 友人

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「ごきげんよう、シシィ様、スピネル様」

「ごきげんよう、レナータ様」


 朝、教室に行くとレナータ様が微笑んで挨拶してくれる。


「おはようございます、セレンハート様。何度も何度も何度も言っておりますが、私はご令嬢に様付けされるような身分ではございませんのでおやめください」


 スピネルが苦言を呈すものの、レナータ様はその辺を余り頓着しない大らかなお人柄なのでにっこり笑って首をこてんと傾げるだけである。

 何度も同じやり取りをしているんだから、スピネルも諦めればいいのに。


 そう!入学して一週間、女友達が出来ました!

 彼女は、レナータ・セレンハート様。セレンハート侯爵家のお嬢様だ。


 家名でセレンハート様、ファルナーゼ様とお互いを呼んでいたのは最初の一日だけ、二日目には名前を呼び合う仲となった。

 きっかけは席が隣だった事。切っ掛けとしてはありきたりだけど、なんだろう、最初から波長が合う気がして”お友達になりたい”と積極的に話しかけてしまった。


 レナータ様は栗色の髪と青い瞳の可愛らしい方だ。小柄で、笑うと片えくぼが出来て、いつも微笑んでいるような綿菓子のようにふわふわした雰囲気の素敵女子。

 なのに!彼女はなんと主席入学で入学式の時に新入生代表で壇上にも上がった才女なのだ。


 A組20名のうち7割が男子で女子は6人しかいないから、是非みんなで仲良くやっていきたいものだと思う。

 貴族でないのはスピネルともう一人、辺境伯がその才を見出し後見して送り出したと言うコラード君という男の子。ほぼほぼ貴族が占めているクラスである。

 そりゃね、教育の対する意識とかお金のかけ方とかが貴族子弟子女と平民の人たちとは違うからね。


 学年全体で見ると男女比は6:4で男子が多い。そして貴族の割合は8割。下位クラスに行くほど貴族の割合は減っていく。


 そんなクラスでスピネルとコラード君は大丈夫かな――と心配したのは杞憂に終わった。

 このクラスにいる子たちが特別に性格の良い子たちなのか、彼ら自身が優秀だという自負があるからか、それともこの国の貴族に偏った選民意識が無いのかは分からないけど、A組のクラスメートたちは能力がある者を身分で差別することはなかった。


 ほっと一安心だ。このクラスならスピネルもお友達が出来るかもしれない。


 ちらりとスピネルを覗き見ると、いつもの通りの無表情で授業の支度をしている。レナータ様と友情を育むことを邪魔する気は無いらしく、彼女との会話に割って入ることもなければ一緒に昼食を取ることも反対することもない。


 ただし、お喋りしているときも食事をしているときも、必ず私の傍に居るが。


「学園では暴れん坊モードじゃないんですね」と言われたけど、TPOは弁えてるよ、もちろん。


 暴れん坊モードで思い出したけど、Cクラスのミーシャと廊下ですれ違った時に私がお嬢様然としていたためか、ミーシャはちょっと引いてたな。



「ごきげんよう、レオナルド様」

「…………」

「これから同じ学び舎で過ごすのですもの。宜しくお願い致しますわね?」

「…………」


 ミーシャはまだ私に勝っていないので、彼を本名であるレオナルドと呼んだのはこの時が初めてだ。

 気持ちだけでなく体まで引き気味のミーシャは視線をあちこち彷徨わせた挙句、ぺこりと頭を下げて逃げるように去っていった。

 失礼な奴だな。

 令嬢モードの私も見せたことあるだろうに。


 屋敷以外で「ミーシャ」呼びすることが非常識だって事くらいは、ちゃんと分かってるっての。

 そう言ったらスピネルに「屋敷でも普通は勝手につけたあだ名で呼んだりしません」と一刀両断にされた。

 ぎゃふん。


 ミーシャは最初の態度が酷かったから、それを戒める為、忘れさせないために敢えてそう呼んでいると返す。


「子熊は暴れん坊お嬢様の方が好きなようですから、奴に対してはいつもご令嬢モードでいいと思います。私はどちらのお嬢様も好きですが」


「いや、どっちも私だし」


「ええ、そうですとも。子熊はそれが分からないんですよ」


「スピネル。面と向かって本人に子熊とか言ってないよね?」


 ミーシャも貴族子弟だ。従者であるスピネルがそんな呼び方をしていい相手ではない。


「もちろん弁えておりますとも」


 本人に言わないならいいか。


 王子様との接触もないし、楽しい学園生活を送れるように頑張ろう。


 きっとまだゲームが始まるまでは間がある。


 何があっても後悔しないよう、日々を大切に過ごすのだ。



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