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第三章

40 変わり過ぎた二回目

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 なぜ、彼女がここに……。


 在校生代表として新入生を寿ぐ挨拶の途中で目に入ったのは、マリアだった。


 前回の生でコウドレイ候と共にシシィと私を陥れたあの女。


 視界に入った瞬間に血が沸騰するかと思えるほどに怒りが全身を巡った。シシィへの断罪、そしてそれが冤罪だと知れ、命を落とした瞬間までの記憶が脳を焼き尽くすほどに蘇る。


 叫び出したい気持ちが沈静化したのは、視界の端に映ったシシィの姿のおかげだった。シシィが座っている位置は壇上に上がった時から確認している。決してそちらを注視しないようにしているが、絶えず様子を確認している。



 マリアの姿を見た瞬間に言葉に詰まったものの、平静を装い挨拶をつづけた。



 シシィ、すまない。

 君が私とマリアに怒りを向けることこそあれ、私に憤る資格などないのに。


 騙された私も罪人。権力を持つ立場の私が謀を見抜けなかった。それこそが罪。


 君にとっては私とマリアは共犯者だろう。


 だがしかし、なぜ彼女がここにいるのだろうか。


 前回の生で高等部に留学してきたマリアが中等部の入学式にいた理由が分からない。シシィの言動も一回目とは違い過ぎる。フィデリオが私の傍に居ないのは、シシィが私の婚約者になっていないせいでファルナーゼ家の継嗣として迎え入れられていないから。それは分かるのだが。


 彼女らの行動以外は前回とさして変わりがないのに、前回の冤罪からの死亡に関わり合いのあった人間だけがこうも異なる行動をしているのは不可解だ。


 お茶会で倒れたシシィを見舞いに行ったときの会話で、彼女に前回に記憶がないと判断したのは間違いだったのか?


 中等部に入学してきたマリアは、前回の記憶を持っているのか?


 同じ学年にいても挨拶程度しか関わりを持っていないフィデリオはどうなのだ?向こうからの接触も無い。ファルナーゼ公爵家の継嗣となっていた前回はともかく、あの家の分家の末端である子爵家次男では、第一王子である私に近づくことは容易ではないだろう。


 ――分からない。


 決まっていることは、シシィを守る事。


 マリアが前回と同じように動いたときの為に婚約者は定めずにいたが、こんなに早く登場するのなら18歳を待たずに彼女を排除することが出来るかもしれない。


 また君を望むのは恥知らずだろうか、ねぇ、シシィ。


 ◇◇◇


 ちょーっとやりすぎちゃった。


 8歳からのリスタートで、留学までの7年間、前回と同じことを繰り返すのってめんどいじゃない?そのうさ晴らしに、私を蔑んだどこぞの令嬢を型にはめたり、異母兄を慕っている振りをして婚約者との仲を邪魔したり、私が傍においてあげようとしたのに断った見目の良い騎士を辺境に飛ばしたり。


 異母兄の婚約者が世を儚んじゃったのは誤算だったけど、なにも王子妃になれなさそうだからって死ぬことないよね?


 やらかしたことの中で、それが一番まずかったみたい。


 うん、そうだね。少し自由にしすぎちゃった、かも?


 一回目の時は王妃と異母兄に虐められている私を演出して、王様や議会を味方につけたんだ。けど、今回は王様も私をちょっと疎んでるし議会は私の排斥を望んだんだよ。酷くない?


 本当なら高等部で隣国に留学する予定だったんだけど、その前に放逐されそうになっちゃった。だから、しおらしーく反省してるふりをした。で、もうこの国にはいられない、顔向けできないと泣いて王様に隣国の貴族の養女にしてもらえるよう誘導したんだ。


 うーん。王の落とし胤ってのは変わらないけど、隣国の王の娘が留学するっていう設定から自国の伯爵の養女が入学するって変わっちゃったなぁ。

 攻略、上手くいくかな。


 今回は設定が変わり過ぎちゃってるから、難易度の高い王子は狙わずにチョロイ子狙いで行こう。


 上手くいかなかったら、また、リセットかければいいや。


 死に戻りってのがムカつくけど。



 さて、二回目を始めますか。



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