上 下
34 / 129
第二章

33 私、死んだんだった!

しおりを挟む


 ――死んだときの事を覚えていますか?って言ったよね。

 私、生きてるよ?


 問いかけようとした時、王子様が「そうそう」と言いながら両手の平に乗るくらいの箱を私に差し出してきた。


「見舞いの品をお渡しするのが遅くなりました。ファルナーゼ嬢が茶会の席で大変褒めて下さったと侍女から報告を受けております」


 渡された箱を開けるように促され、中身を確認してみる。


「殿下、これは!」


 茶葉だ!小瓶が三つ。乾燥果実が入っているものや花弁が入っているもの、茶葉のみのものと三種類。


「ええ、お茶会で出されたお茶です」


 やったー!心残りだったんだ。

 私は病弱なせいで王子妃候補には入らない事に決まった――ファルナーゼ家で勝手に決めただけだけど――し、どこで死亡フラグが立つのか分からないことと病弱設定に信憑性を持たせることの為に参内する事も出来るだけ避ける方向に方針が決まっている。


 だから、飲む機会が訪れるかどうかも怪しいお茶会で飲み逃したお茶は、とても嬉しい!


 思わず小躍りしそうになって、寸でのところで思いとどまる。

 ここで踊り出したら「病弱」も「病み上がり」も嘘くさくなるではないか。嘘だけども。


 ここは大人しくお礼を言うべきだと判断し、それを行動に移すことにする。


「いえ、喜んでいただけて良かった。――長居をして申し訳ない。ファルナーゼ嬢が思ったよりお元気そうで安心しました。母も気にしていたので伝えたらホッとするでしょう」


 え、元気そう?それはナニか。婚約者候補から外れていないという事か?


 それは拙い。ここは一発目眩の振りでも……って、スピネルに大根役者とディスられたのは記憶に新しい。わざとらしくない程度に体調が悪いですよアピールするには、どう振る舞うのが正解なのだ。


 特に悩む必要はなかった。王子様は私の体を労わるお言葉を残して辞去していったから。


 ふぅ。私の天才的演技が見れなくて残念だったな、王子様。

 スミマセン、言ってみただけです。スピネルが冷たい目で見てます。冷えっ冷えで凍り付きそうです。


 王子様が帰ったから踊ってもいい?


「意外!王子様いい人だった!話は長かったけど!」


 病人の見舞いに来て一時間半も居座っていったもんなぁ。ま、お茶をくれたから不問にしておいてやろうじゃないか。


「……お嬢様、お菓子をくれると言われても付いて行っちゃいけませんよ?」

「信用無い!」


 呆れたようにスピネルが言われたが、こちとら中身は17歳だ。幼児に言い聞かせるようなその台詞はないだろう。


「それにしても殿下も……かもしれませんね」

「何?」


 スピネルと話しながらも目は茶葉に釘付けだ。それ見たスピネルが私から茶葉を取り上げる。

 おーい、それは私の!一人占めなんてけち臭い事はしないから!スピネルにも分けてあげる――というか一緒に飲もうと思っているから奪わないでー。


 ソファから立ち上がって取り返そうとするも、彼のほうが背が高いため頭上に持ち上げられると私がピョンピョン跳ねても届かない。くそう。


「奪ったりしませんから落ち着いてください。これが目の前にあるとお嬢様は会話に集中でき無さそうですから」

「取られてる今の方が落ち着かないよ!」


 そう訴えたら、スピネルはため息を一つ零して瓶の入った箱を私の目の前までおろしてくれた。


「お茶を淹れます。どれがいいですか?」

「え!?スピネル、お茶を淹れられるの!?」


 私についていてくれてはいるけれど、お茶を淹れてくれるのはいつもメイドだったので彼がお茶を淹れられるとは知らなかった。


「お嬢様はお茶を好まれますからね。側付きとしては必要な技術だと判断し、マーサ侍女長にご教授頂きました」


 ほう、出来る男だね、スピネル。

 友達だとは言っても、彼はこの屋敷に仕える身だ。必要とされる技術を培う事は必要な事だろう。そうやって身分の差をあからさまにされると、友達という関係は私が無理に強いているのだろうかと考えてしまう。

 でも、ここで謝ったりすることは彼の矜持に傷を付ける気がして出来ない。


 私がすべきことは彼の淹れてくれたお茶を飲んでお礼をいう事だ。


「美味しい……」


 褒めると決めていたけど、そんな斟酌は要らなかった。素で”美味しい”と言う言葉がこぼれた。うぉう。剣術は前世の記憶があるぶん私にアドバンテージがある筈なのに、すでに追いつかれてしまっている。魔術は魔力量は私の方が多いと言われているのに、コントロールの下手さでスピネルの足元にも及ばない。

 いや、私も大分上達したよ?

 座学と並行して技術面でも教育を受けているし。

 ただ、繊細さに欠けると言うか細かい作業は得意としないと言うか……ようは大きな魔法を行使することは得意でも、日常で使えるこまごまとした魔法は苦手なのだ。

 夢は魔法剣士!なので、頑張るよ。まだ、習い始めたばかりだし乞うご期待、というところだ。


「お嬢様、殿下の事なのですが」


 私がお茶を飲んで落ち着いたころ、スピネルが先ほどの話を再開した。


「うん」


「もしかしたら殿下もお嬢様と同じかもしれないと思われませんでしたか?」


「同じ?」


「死んだときの事を覚えているかと仰っていたでしょう?」


「ああ、それね。私、生きているのに何を言ってるんだろうと思った。あれかな、王族ジョークとか」


 そんなものがあるかどうかは知らないけど。


「スピネル、どうしたの、崩れ落ちる程に王族ジョークが面白かった?」


 何故かスピネルが膝を付いてしまっている。そんなに受けるほどか?


「お嬢様は転生なさっていますね?」


「うん」


「ならば、お嬢様は一度命を落とされたのではないですか?」


「………………あっ!」


 そうだよ!私、今は生きているけど、前世があるんだから死んでるんだよ!全くこれっぽっちも思い至らなかった!


「”あっ”じゃないですよ、”あっ”じゃ……」


 スピネルが呆れたように言うけど、これは流石に呆れられても仕方のない事案だと認めよう、うん。自分で自分に呆れる位だもの、聞いた人はもっと呆れるだろうさ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

日給10万の結婚〜性悪男の嫁になりました〜

橘しづき
恋愛
 服部舞香は弟と二人で暮らす二十五歳の看護師だ。両親は共に蒸発している。弟の進学費用のために働き、貧乏生活をしながら貯蓄を頑張っていた。  そんなある日、付き合っていた彼氏には二股掛けられていたことが判明し振られる。意気消沈しながら帰宅すれば、身に覚えのない借金を回収しにガラの悪い男たちが居座っていた。どうやら、蒸発した父親が借金を作ったらしかった。     その額、三千万。    到底払えそうにない額に、身を売ることを決意した途端、見知らぬ男が現れ借金の肩代わりを申し出る。    だがその男は、とんでもない仕事を舞香に提案してきて……  

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...