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第二章

27 死亡フラグを説明します

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 ギ……ギギギ……ギ……と油切れの機械かのような動き方でスピネルが顔を上げた。


「17歳で……死ぬ?」


「お?」


「今、仰いましたよね。最悪の場合17歳で死ぬと」


「ん?」


 ぽろっと口から洩れた言葉を、スピネルは聞き逃してくれなかったようだ。というか、口から出ちゃってたかぁ。失敗失敗。ドンマイ、自分。


「どういう事ですか。説明してください」


 あれ?何故ここに大魔神?


 さっきまでの弱った小鳥さんのようだったスピネルは何処へ行った?

 クロスさせた両腕を外側に開くようにして、私の手を外したスピネルの目が座っている。私の可愛い弟 (のようなもの)が、大魔神になってるぞ。


「大丈夫!そうならないように手は打つし!」


「最悪の事態とは?」


「お父様とお母様に協力をお願いするし!」


「最悪の場合とはどんな?」


「スピネルは心配しなくても!」


「……心配するな?これだけ心配かけておいて?友達なのに?」


 うぐっ。

 それを言われては私に勝ち目はない。


 乙女ゲームの死亡フラグ回避は、お父様とお母様の協力があればある意味簡単なのだ。

 まっつんは言っていた。「シシィが悪役令嬢になるのは、ヒロインの狙いが王子か義兄の場合だけ」だと。


 王子の婚約者になって且つヒロインが王子狙いだったら、悪役令嬢シシィが生まれる。


 そして、王子の婚約者になるとファルナーゼ家の跡取り問題が出てくる。後継として選ばれるのはフィデリオ。このフィデリオもヒロインに狙われる可能性があって、その場合にシシィが悪役令嬢として登場する筈。


 王子ルートでは冤罪かけられて断罪されて死ぬというのは知っているけど、義兄ルートの時の悪役令嬢シシィがどんな結末だったのかは聞いてないな、そういえば。


 ああ、まっつんにもっと内容を聞いておけばよかった!


 しかし!要は婚約者にならなければ万事オッケーじゃないか?


 王子ルートの悪役令嬢にもならず、私が公爵家にいるんだから継嗣問題も起きずにフィデリオが我が家に来ることもなく、義兄妹の関係も無いのだから悪役令嬢にはならない。


 ただ……まっつんが言っていたけど、王家と高位貴族との婚約だから私の意見が通るとは限らない。日本の庶民だった獅子井桜としては「そんな王子、見切りつけりゃいいのに」という感想になったが、実際に公爵家令嬢として生きているシシィ・ファルナーゼとしては「そんな簡単に言われても」という感じだ。


 そこで、お父様とお母様を味方にしたいのだ。

 あちらから婚約の打診があったとしても「いやー、うちの娘はちょっと……」とお父様が断ってくれれば、それでフラグはバッキバキに折れる。



・私の言葉を信じてくれた場合

 → 私が死ぬ可能性があると言ってなお婚約させるような両親ではない。


・私の言葉を信じてくれなかった場合

 → 妄想癖ありで王家に嫁入りさせるには難がある。


 と、いう事になりませんかね?ふふふふふっ。脳筋と言われていた私だけれど、ちょっと賢くなったぞ。こちとら命が懸かってんだ。ポンコツでも死なないために一生懸命に考えるとも!


「と、いう訳で本当に最悪の場合が来るとは思えない。ね?だから、大丈夫」


 スピネルの友達発言で全面降伏した私は、前世の事から死亡フラグの事までざっくりと説明した上で”大丈夫”を前面に押し出して、安心してね?と小首をかしげて笑って見せる。

 うん。前世の私がこの仕草をしたら熱でもあんのかと言われそうだけれど、今の私は美少女!あざと可愛いを目指して何が悪い。


 中身がこんなんだっていうのは置いておいて、ガワはすこぶる上等なのだ!


 なのに何故だ。――渾身の一撃の筈が、めっちゃ胡散臭い者を見るような目で見られている。あざと可愛いを発揮するには、私には何か足りないものがあるようだ。


「相手は王家ですよね?それで済むんですか?あちらが強硬に推し進めてきた場合でも公爵様はお嬢様を守ってくれるんですか?」


「それは……多分、大丈夫じゃないかなーと」


「希望的観測ですね」


 スピネルが私の構想をバッサリと切る。希望的観測いいじゃないか。ハッピーな未来を夢見ちゃいかんのか。


「こういう時は最悪の事態を想定して動くんですよ、お嬢様。殿下の婚約者にさせられ冤罪をかけられると仮定し、その上で計画を立てなくてはなりません。もちろん、公爵様と奥方様が婚約を受け入れなければそれで良し。そもそもお茶会で失神したお嬢様相手に婚約の申し入れがあるかどうかも分かりませんが」


 そりゃそうだ。

 お話して好感度を上げるどころか、挨拶すらまともに出来なかった私なのに「王子様から婚約の話が来ても私は受けたく有りません」って……。


 どんだけ自惚れが強いんだよって話だよ。


「それはそれとして、最悪の場合ですが」

「うんうん」


 ベッド脇に立っていたスピネルがその場に跪いて私の手を掴むと、それを額に押し当てた。


 うぉ?

 何をしてらっしゃりやがるんでよーか、スピネル君。


「その時は、僕がお嬢様を攫って逃げましょう」


 ………はい?


「大事な大事なお嬢様をお守りできるよう、これから一層精進いたします」


 ……スピネル。幾ら私が命の恩人且つ唯一のお友達だからって、そこまでの献身は重いんじゃないかなーと思うよ。



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