6 / 129
第一章
06 乙女ゲーム「ローズガーデンのマリア」
しおりを挟む
「ま、いわゆるドアマットヒロインだね」
「どあまっとひろいん……?」
私は頼まれてチュートリアルまでプレイした乙女ゲームの話をまっつんに聞かされている。
あんまりゲームをする方じゃない、ましてや乙女ゲームに興味のない私がなぜチュートリアルまでとはいえ乙女ゲームに手を出したかというと、よくある”お友達を紹介して便利なアイテムを手に入れよう!”的なアレを頼まれたからだ。
まっつんにはテスト前に大変お世話になっているので、乙女ゲームを少々プレイするくらいは何でもない。
自他ともに認める脳筋で、空手で全国大会に行ける位には体を動かすのが得意な私だが、教科書を眺めると(読むと、ではない)睡魔が襲ってくるという厄介な病持ちである。
対してまっつんは、某全国統一テストで常に上位一ケタ~二ケタの上の方に入る才女だ。なので、テスト前はほんとーにほんとーにお世話になりっぱなしなのだ。まっつんは、いちいちテスト前だからって特別にやりこむことはしないというし。
勉強に向かない私でも入学できた女子高に、なぜまっつんのような秀才がいるかというと、彼女曰く「近場にある高校の中でここが一番制服が可愛かった」からだそうだ。
勉強はどこででもできるが、この制服を着るためにはこの学校に入学するしかない!と力説された時には、頭がいい人って、やっぱどこか変わってんだなーと思った。
「そう!ドアマットヒロイン!ほら、シンデレラとか白雪姫とかそうだけど、苛められても挫けずに純粋な心を失わなかったお姫様が、王子様に見初められて幸せになりましたってやつよ」
「ほうほう」
「なので、ヒロインは幼少時には苛められないといけないのです!これぞ王道!」
「ふむふむ」
良く分からない世界の話を、分からないなりに聞いて相槌を打つ。
「で、シシィが――」
「え?私!?」
乙女ゲームの話で、なぜ私の名前が出てくるのだ。
「え?ああ、違う違う。獅子井じゃなくてシシィ」
まっつんがアプリを起動したスマホを私に見せてくれた。ほうほう、獅子井じゃなくてシシィね。なるほど、乙女ゲーのヒロインか。
ちなみに私の苗字は獅子井。画数が多くて好きじゃないので簡単な苗字の人と結婚したいと常々思っている。結婚できるかどうかは分からないけど。
「違うよー、悪役令嬢」
「アクヤクレイジョウ……」
話を聞くと、シンデレラでいう継母や継姉の役どころをする令嬢らしい。攻略対象者?の婚約者だったり妹だったりして、イケメンに近づいてきたヒロインを排除しようと動くそうだ。
「いやいや、それはイケメン婚約者と、略奪しようとするヒロインが悪いでしょ。妹は、まぁ、ブラコン?かもだけどさ」
それに、見せてくれたスチルはヒロインと勘違いしてもおかしくないほどに儚げで可愛らしい女の子だったのだ。虐げられても折れずにいるけど脆くなってしまったような美少女である。
こんな可愛い子がヒロインを苛めたりするのかぁ?
と思ったら、まっつんがズラズラと並べた罪状がエゲツナイ……。
「でもねー、ステ上げさぼってマリア……あ、ヒロインの名前ね?タイトルにもなってるから変更できないんだよー。そのマリアが王子攻略のためのステを満たしてないバッドエンドだと、シシィの冤罪が晴れてざまぁ返しをされるんだよ。シシィの義兄から」
そこでひとしきり「ざまぁ」と「ざまぁ返し」の説明を受ける。
「ん?本人がやり返すんじゃなくて?」
「うんうん、本来はそういうもんなんだけど、冤罪が晴れるころにはシシィは処刑されてるから」
ひでぇ。冤罪で処刑だなんて、それ、本当に乙女ゲームなのか!?
「普通に考えて、貴族のいいとこ嬢がそんな犯罪を犯せるわけないじゃん。マフィアのボスの娘じゃないんだからさー」
貴族になった事が無いから分からないが、使用人に酷く当たるとかはできても人を売り飛ばすとか娼館に落とすとか、どうやったらお嬢様がそんなアンダーグラウンド系の伝手を持てるというのだ。
「そうなんだけどねー、ほら、ゲームだから」
「冤罪なんだよね?」
「バッドエンドではね。ハッピーエンドの時は言及されなかったから、どうなのかなぁ」
可哀想なシシィ。いや、名前が似てるからという情だけじゃなく、こんなかわいい子が冤罪で処刑だなんて、あんまりだ。乙女ゲームって酷すぎる。
「いやいや、これはちょっとニッチな乙女ゲー、かな」
すべての乙女ゲームがこんなんじゃないらしい。まっつんに頼まれない限りやることはないだろうから、私にとって乙女ゲームは”こんなん”だ。
私が悪役令嬢に同情したのを感じたのか、まっつんが色々とスチルを見せてくれた。
初めての出会いはお茶会で。まだ幼い王子とシシィがいい雰囲気である。
シシィが学園に入学する。王子様は生徒会役員で壇上からシシィを見つけて微笑む。
王城で。王妃様と王子様とシシィでお茶を飲む。
ヒロイン登場。魅かれていく王子。悲しむシシィ。
「こんな王子、見切りつけりゃいいのに」
「王家と高位貴族の婚約だからなぁ……。本人の意思は関係ないんじゃない?」
シシィが気の毒過ぎて、彼女が幸せになる道は無いのかと問えば
「シシィが悪役令嬢やるのは、王子かシシィの義兄のフィデリオを攻略しようとした時。他のキャラの時はモブ同然でちらっちらっとしか出てこないけど、王子とうまくいくんじゃない、かな?」
そうまっつんは言う。
うん。私は王子と義兄は狙わない。
それ以前に、このゲームをする気も無いけども。
この時は、まさかそのゲームの世界に転がり落ちることになるとは思って無かった。……てか思わないでしょ、普通。
そうなると知っていたら、もっとまっつんに乙女ゲームの話を聞いておいたよ、マジで。
「どあまっとひろいん……?」
私は頼まれてチュートリアルまでプレイした乙女ゲームの話をまっつんに聞かされている。
あんまりゲームをする方じゃない、ましてや乙女ゲームに興味のない私がなぜチュートリアルまでとはいえ乙女ゲームに手を出したかというと、よくある”お友達を紹介して便利なアイテムを手に入れよう!”的なアレを頼まれたからだ。
まっつんにはテスト前に大変お世話になっているので、乙女ゲームを少々プレイするくらいは何でもない。
自他ともに認める脳筋で、空手で全国大会に行ける位には体を動かすのが得意な私だが、教科書を眺めると(読むと、ではない)睡魔が襲ってくるという厄介な病持ちである。
対してまっつんは、某全国統一テストで常に上位一ケタ~二ケタの上の方に入る才女だ。なので、テスト前はほんとーにほんとーにお世話になりっぱなしなのだ。まっつんは、いちいちテスト前だからって特別にやりこむことはしないというし。
勉強に向かない私でも入学できた女子高に、なぜまっつんのような秀才がいるかというと、彼女曰く「近場にある高校の中でここが一番制服が可愛かった」からだそうだ。
勉強はどこででもできるが、この制服を着るためにはこの学校に入学するしかない!と力説された時には、頭がいい人って、やっぱどこか変わってんだなーと思った。
「そう!ドアマットヒロイン!ほら、シンデレラとか白雪姫とかそうだけど、苛められても挫けずに純粋な心を失わなかったお姫様が、王子様に見初められて幸せになりましたってやつよ」
「ほうほう」
「なので、ヒロインは幼少時には苛められないといけないのです!これぞ王道!」
「ふむふむ」
良く分からない世界の話を、分からないなりに聞いて相槌を打つ。
「で、シシィが――」
「え?私!?」
乙女ゲームの話で、なぜ私の名前が出てくるのだ。
「え?ああ、違う違う。獅子井じゃなくてシシィ」
まっつんがアプリを起動したスマホを私に見せてくれた。ほうほう、獅子井じゃなくてシシィね。なるほど、乙女ゲーのヒロインか。
ちなみに私の苗字は獅子井。画数が多くて好きじゃないので簡単な苗字の人と結婚したいと常々思っている。結婚できるかどうかは分からないけど。
「違うよー、悪役令嬢」
「アクヤクレイジョウ……」
話を聞くと、シンデレラでいう継母や継姉の役どころをする令嬢らしい。攻略対象者?の婚約者だったり妹だったりして、イケメンに近づいてきたヒロインを排除しようと動くそうだ。
「いやいや、それはイケメン婚約者と、略奪しようとするヒロインが悪いでしょ。妹は、まぁ、ブラコン?かもだけどさ」
それに、見せてくれたスチルはヒロインと勘違いしてもおかしくないほどに儚げで可愛らしい女の子だったのだ。虐げられても折れずにいるけど脆くなってしまったような美少女である。
こんな可愛い子がヒロインを苛めたりするのかぁ?
と思ったら、まっつんがズラズラと並べた罪状がエゲツナイ……。
「でもねー、ステ上げさぼってマリア……あ、ヒロインの名前ね?タイトルにもなってるから変更できないんだよー。そのマリアが王子攻略のためのステを満たしてないバッドエンドだと、シシィの冤罪が晴れてざまぁ返しをされるんだよ。シシィの義兄から」
そこでひとしきり「ざまぁ」と「ざまぁ返し」の説明を受ける。
「ん?本人がやり返すんじゃなくて?」
「うんうん、本来はそういうもんなんだけど、冤罪が晴れるころにはシシィは処刑されてるから」
ひでぇ。冤罪で処刑だなんて、それ、本当に乙女ゲームなのか!?
「普通に考えて、貴族のいいとこ嬢がそんな犯罪を犯せるわけないじゃん。マフィアのボスの娘じゃないんだからさー」
貴族になった事が無いから分からないが、使用人に酷く当たるとかはできても人を売り飛ばすとか娼館に落とすとか、どうやったらお嬢様がそんなアンダーグラウンド系の伝手を持てるというのだ。
「そうなんだけどねー、ほら、ゲームだから」
「冤罪なんだよね?」
「バッドエンドではね。ハッピーエンドの時は言及されなかったから、どうなのかなぁ」
可哀想なシシィ。いや、名前が似てるからという情だけじゃなく、こんなかわいい子が冤罪で処刑だなんて、あんまりだ。乙女ゲームって酷すぎる。
「いやいや、これはちょっとニッチな乙女ゲー、かな」
すべての乙女ゲームがこんなんじゃないらしい。まっつんに頼まれない限りやることはないだろうから、私にとって乙女ゲームは”こんなん”だ。
私が悪役令嬢に同情したのを感じたのか、まっつんが色々とスチルを見せてくれた。
初めての出会いはお茶会で。まだ幼い王子とシシィがいい雰囲気である。
シシィが学園に入学する。王子様は生徒会役員で壇上からシシィを見つけて微笑む。
王城で。王妃様と王子様とシシィでお茶を飲む。
ヒロイン登場。魅かれていく王子。悲しむシシィ。
「こんな王子、見切りつけりゃいいのに」
「王家と高位貴族の婚約だからなぁ……。本人の意思は関係ないんじゃない?」
シシィが気の毒過ぎて、彼女が幸せになる道は無いのかと問えば
「シシィが悪役令嬢やるのは、王子かシシィの義兄のフィデリオを攻略しようとした時。他のキャラの時はモブ同然でちらっちらっとしか出てこないけど、王子とうまくいくんじゃない、かな?」
そうまっつんは言う。
うん。私は王子と義兄は狙わない。
それ以前に、このゲームをする気も無いけども。
この時は、まさかそのゲームの世界に転がり落ちることになるとは思って無かった。……てか思わないでしょ、普通。
そうなると知っていたら、もっとまっつんに乙女ゲームの話を聞いておいたよ、マジで。
0
お気に入りに追加
197
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
(完結)親友の未亡人がそれほど大事ですか?
青空一夏
恋愛
「お願いだよ。リーズ。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」
婚約者がいる私に何度も言い寄ってきたジャンはルース伯爵家の4男だ。
私には家族ぐるみでお付き合いしている婚約者エルガー・バロワ様がいる。彼はバロワ侯爵家の三男だ。私の両親はエルガー様をとても気に入っていた。優秀で冷静沈着、理想的なお婿さんになってくれるはずだった。
けれどエルガー様が女性と抱き合っているところを目撃して以来、私はジャンと仲良くなっていき婚約解消を両親にお願いしたのだった。その後、ジャンと結婚したが彼は・・・・・・
※この世界では女性は爵位が継げない。跡継ぎ娘と結婚しても婿となっただけでは当主にはなれない。婿養子になって始めて当主の立場と爵位継承権や財産相続権が与えられる。西洋の史実には全く基づいておりません。独自の異世界のお話しです。
※現代的言葉遣いあり。現代的機器や商品など出てくる可能性あり。
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
夫は寝言で、妻である私の義姉の名を呼んだ
Kouei
恋愛
夫が寝言で女性の名前を呟いだ。
その名前は妻である私ではなく、
私の義姉の名前だった。
「ずっと一緒だよ」
あなたはそう言ってくれたのに、
なぜ私を裏切ったの―――…!?
※この作品は、カクヨム様にも公開しています。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる