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休息話『三人の、聖なる夜に』
「クリスマスプレゼント②」
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「何ヶ月も私の為に、会社作ったり、色んな手続きしたり、私の相手をしたり……結構、無茶したんでしょう?」
「……ええ、まあ、多少の無茶はしていますが」
笑顔を見せる私に、葵さんは控えめに頷いた。
私は、新にも、葵さんにも、田中さんや、恐らくそれ以外の人にも沢山迷惑をかけた。
「それなら、今こんなに仕事に追われるのは仕方ないです。ちょっと会えないからって文句は言えない……むしろ私のせいで大変な思いをさせて、申し訳ないくらい」
新がいないのは寂しいが、少なくても本当の意味で一人ではないし、コンビニのおにぎりで済ませるクリスマスでもない。
――私の貧相な食生活には、新に何度も文句を言われているからね……。まだ忙しくて自炊はできてないけど、新のおかげで、ちゃんとしたご飯は食べられている。温かいご飯幸せ……。
相変わらず上の空の私に、葵さんは少し考えるように黙ってから、にこりと微笑った。
「結衣様、私とデートしましょう!」
楽しそうに提案する葵さん。先程と一転して上機嫌だった。
「本当はこれからホテルに連れて行こうと思っていたのですが、その前にデートしましょう」
「……ホテルは元々予定だったんですね」
突っ込みを入れる私に、葵さんは「当然じゃないですか」と言いながら、進んでいた道をUターンした。ああ、行き先変えた……。
「女子っぽいデートをしましょう」
「女子っぽい?」
「はい。おしゃれして、ショッピングです」
「お……おしゃれ……いや、その前にお金が……勘弁して下さい」
縁のない二つの単語に、私は項垂れた。
ショッピング、というのは悪くないけど、如何せんお財布が寂しいよ……。だからといって奢って貰ってばかりはいやだ、ちゃんと自分のお金で生きたい。
気乗りしない私に、しかし葵さんは引かなかった。
「私、お金を使う時間がないんですよね。家とか車とか、大きな買い物する必要もないですし……。たまには散財してストレス解消がしたいのです」
独り言のように呟く葵さん。
――たしかに彼女は働きすぎだ。今この瞬間私といることも、仕事であることには変わらない。楽しそうに私の相手をしてくれているが、本気で気を抜いているな、と思ったことはなかった。
それに言われてみれば……いつお金を使うの? 今まで新といたなら、行く先々で掛かる費用は、当然新が払ったよね。必要経費だもんね。それでも人並み以上に給料を貰っているというのなら……うん、すごいお金持ってそう。
思わず息を呑み、頭の中でそろばんを弾いている私を面白そうに横目で見ながら、葵さんは言った。
「――そういうわけなので、私からのクリスマスプレゼントだと思って、付き合って頂けませんか? あ、気にしないでなんでも買って下さいね! 気になるなら、お礼は今夜ホテルで頂きま――」
「全然気にならないです! いっぱい買って欲しいなあ~!!」
葵さんが言い終わる前に、私は慌てて叫ぶ。ほとんど条件反射だった。
しまった、と焦って運転席を見れば、そこには満足そうな表情をして、ハンドルを持つ指をリズムよく動かしている葵さんがいた。
――やられた。
「……ええ、まあ、多少の無茶はしていますが」
笑顔を見せる私に、葵さんは控えめに頷いた。
私は、新にも、葵さんにも、田中さんや、恐らくそれ以外の人にも沢山迷惑をかけた。
「それなら、今こんなに仕事に追われるのは仕方ないです。ちょっと会えないからって文句は言えない……むしろ私のせいで大変な思いをさせて、申し訳ないくらい」
新がいないのは寂しいが、少なくても本当の意味で一人ではないし、コンビニのおにぎりで済ませるクリスマスでもない。
――私の貧相な食生活には、新に何度も文句を言われているからね……。まだ忙しくて自炊はできてないけど、新のおかげで、ちゃんとしたご飯は食べられている。温かいご飯幸せ……。
相変わらず上の空の私に、葵さんは少し考えるように黙ってから、にこりと微笑った。
「結衣様、私とデートしましょう!」
楽しそうに提案する葵さん。先程と一転して上機嫌だった。
「本当はこれからホテルに連れて行こうと思っていたのですが、その前にデートしましょう」
「……ホテルは元々予定だったんですね」
突っ込みを入れる私に、葵さんは「当然じゃないですか」と言いながら、進んでいた道をUターンした。ああ、行き先変えた……。
「女子っぽいデートをしましょう」
「女子っぽい?」
「はい。おしゃれして、ショッピングです」
「お……おしゃれ……いや、その前にお金が……勘弁して下さい」
縁のない二つの単語に、私は項垂れた。
ショッピング、というのは悪くないけど、如何せんお財布が寂しいよ……。だからといって奢って貰ってばかりはいやだ、ちゃんと自分のお金で生きたい。
気乗りしない私に、しかし葵さんは引かなかった。
「私、お金を使う時間がないんですよね。家とか車とか、大きな買い物する必要もないですし……。たまには散財してストレス解消がしたいのです」
独り言のように呟く葵さん。
――たしかに彼女は働きすぎだ。今この瞬間私といることも、仕事であることには変わらない。楽しそうに私の相手をしてくれているが、本気で気を抜いているな、と思ったことはなかった。
それに言われてみれば……いつお金を使うの? 今まで新といたなら、行く先々で掛かる費用は、当然新が払ったよね。必要経費だもんね。それでも人並み以上に給料を貰っているというのなら……うん、すごいお金持ってそう。
思わず息を呑み、頭の中でそろばんを弾いている私を面白そうに横目で見ながら、葵さんは言った。
「――そういうわけなので、私からのクリスマスプレゼントだと思って、付き合って頂けませんか? あ、気にしないでなんでも買って下さいね! 気になるなら、お礼は今夜ホテルで頂きま――」
「全然気にならないです! いっぱい買って欲しいなあ~!!」
葵さんが言い終わる前に、私は慌てて叫ぶ。ほとんど条件反射だった。
しまった、と焦って運転席を見れば、そこには満足そうな表情をして、ハンドルを持つ指をリズムよく動かしている葵さんがいた。
――やられた。
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