うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす

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第三章『新と結衣』

第十八話「こんにゃく」

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「あのときは、もちろん僕が助けに行こうとしたんだけど。悔しいかな、市松の方が遥かに身体能力が高いものだから、彼女に任せる事にしたんだ」
「……それで見ず知らずの、私のために……仕事を、会社を作ったんですか……?」
 説明する新に、結衣は呼吸を整えながら聞く。

 結衣の自殺未遂の原因は、元カレの家と会社を出るお金がないこと――詰まる所、転職先が見つからない事だった。
 その事情をどうやって調べたのかは知らないが、偶然助けた結衣に、会社まで作って助けたということだろうか。

「まさか。知らない人のためにそこまで出来るほど偽善者ではないよ。僕はただ、婚約者が困っていたから助けただけだよ」
「こん……にゃく?」
「……わざと言ってる?」

 固まる結衣。新は強調して言った。
「婚約者ね、こ・ん・や・く」
「……誰が?」
 首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべる結衣に、新は無言で質問主を見つめる。
「君と僕以外に、ここには誰かいるのかい?」
 そう言って、じっと見つめる新の瞳に、結衣は顔を引きつらせた。

「――いやいや、冗談はやめて下さい」
「冗談だと思う?」
 結衣は上体を起こして、ベッドの真ん中に座る。
 その隣にくっつくように、新も並んで座った。

「結婚の約束したでしょ。昔に」
「うーん……そんな約束したら、フツー覚えてると思うんですけど。いつの話ですか?」
「十三年前」
「じゅ……え、は……?」
 結衣は耳を疑った。思わず新を見上げたが、どうやら嘘を言っているようには見えなかった。――冗談じゃない、なにを言い出すのか、この人は。

「十三年前って、私、じゅ……十歳? 小学生……」
「そ、ちなみに僕は十五歳で高校一年だった」
「――」
 言葉が出てこない。
 前からやばい男だと思ってはいたが、子供のときからその性癖は歪んでいたらしい。
「小学四年生の夏休み。結衣くんはなにしていた?」
「え、えと……」
 戸惑いながら、記憶を辿る。

 小学四年生。夏休み。結婚の約束。
 少ないキーワードをどうにか繋げていく。
(そういえば、夏休みの間、ずっと誰かに会っていたような)
 一人で町を探索していて見つけた、お城みたいな大きな家。その庭に毎日忍び込んでは、誰かと遊んでいたような……。

 顔も名前も思い出せないが、楽しかった思い出は微かに覚えている。
「あーー……」
 靄のかかった記憶が徐々に鮮明になっていき、それに比例するように血の気が引いていく。
「……いや、はい。そうですね……あの人、店長だったんですか」
 おずおずと結衣が言うと、新は満足そうに笑顔を見せている。その表情は記憶の中にいる新を思わせる、太陽のような笑顔だった。
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