37 / 78
第三章『新と結衣』
第十八話「こんにゃく」
しおりを挟む
「あのときは、もちろん僕が助けに行こうとしたんだけど。悔しいかな、市松の方が遥かに身体能力が高いものだから、彼女に任せる事にしたんだ」
「……それで見ず知らずの、私のために……仕事を、会社を作ったんですか……?」
説明する新に、結衣は呼吸を整えながら聞く。
結衣の自殺未遂の原因は、元カレの家と会社を出るお金がないこと――詰まる所、転職先が見つからない事だった。
その事情をどうやって調べたのかは知らないが、偶然助けた結衣に、会社まで作って助けたということだろうか。
「まさか。知らない人のためにそこまで出来るほど偽善者ではないよ。僕はただ、婚約者が困っていたから助けただけだよ」
「こん……にゃく?」
「……わざと言ってる?」
固まる結衣。新は強調して言った。
「婚約者ね、こ・ん・や・く」
「……誰が?」
首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべる結衣に、新は無言で質問主を見つめる。
「君と僕以外に、ここには誰かいるのかい?」
そう言って、じっと見つめる新の瞳に、結衣は顔を引きつらせた。
「――いやいや、冗談はやめて下さい」
「冗談だと思う?」
結衣は上体を起こして、ベッドの真ん中に座る。
その隣にくっつくように、新も並んで座った。
「結婚の約束したでしょ。昔に」
「うーん……そんな約束したら、フツー覚えてると思うんですけど。いつの話ですか?」
「十三年前」
「じゅ……え、は……?」
結衣は耳を疑った。思わず新を見上げたが、どうやら嘘を言っているようには見えなかった。――冗談じゃない、なにを言い出すのか、この人は。
「十三年前って、私、じゅ……十歳? 小学生……」
「そ、ちなみに僕は十五歳で高校一年だった」
「――」
言葉が出てこない。
前からやばい男だと思ってはいたが、子供のときからその性癖は歪んでいたらしい。
「小学四年生の夏休み。結衣くんはなにしていた?」
「え、えと……」
戸惑いながら、記憶を辿る。
小学四年生。夏休み。結婚の約束。
少ないキーワードをどうにか繋げていく。
(そういえば、夏休みの間、ずっと誰かに会っていたような)
一人で町を探索していて見つけた、お城みたいな大きな家。その庭に毎日忍び込んでは、誰かと遊んでいたような……。
顔も名前も思い出せないが、楽しかった思い出は微かに覚えている。
「あーー……」
靄のかかった記憶が徐々に鮮明になっていき、それに比例するように血の気が引いていく。
「……いや、はい。そうですね……あの人、店長だったんですか」
おずおずと結衣が言うと、新は満足そうに笑顔を見せている。その表情は記憶の中にいる新を思わせる、太陽のような笑顔だった。
「……それで見ず知らずの、私のために……仕事を、会社を作ったんですか……?」
説明する新に、結衣は呼吸を整えながら聞く。
結衣の自殺未遂の原因は、元カレの家と会社を出るお金がないこと――詰まる所、転職先が見つからない事だった。
その事情をどうやって調べたのかは知らないが、偶然助けた結衣に、会社まで作って助けたということだろうか。
「まさか。知らない人のためにそこまで出来るほど偽善者ではないよ。僕はただ、婚約者が困っていたから助けただけだよ」
「こん……にゃく?」
「……わざと言ってる?」
固まる結衣。新は強調して言った。
「婚約者ね、こ・ん・や・く」
「……誰が?」
首を傾げ、クエスチョンマークを浮かべる結衣に、新は無言で質問主を見つめる。
「君と僕以外に、ここには誰かいるのかい?」
そう言って、じっと見つめる新の瞳に、結衣は顔を引きつらせた。
「――いやいや、冗談はやめて下さい」
「冗談だと思う?」
結衣は上体を起こして、ベッドの真ん中に座る。
その隣にくっつくように、新も並んで座った。
「結婚の約束したでしょ。昔に」
「うーん……そんな約束したら、フツー覚えてると思うんですけど。いつの話ですか?」
「十三年前」
「じゅ……え、は……?」
結衣は耳を疑った。思わず新を見上げたが、どうやら嘘を言っているようには見えなかった。――冗談じゃない、なにを言い出すのか、この人は。
「十三年前って、私、じゅ……十歳? 小学生……」
「そ、ちなみに僕は十五歳で高校一年だった」
「――」
言葉が出てこない。
前からやばい男だと思ってはいたが、子供のときからその性癖は歪んでいたらしい。
「小学四年生の夏休み。結衣くんはなにしていた?」
「え、えと……」
戸惑いながら、記憶を辿る。
小学四年生。夏休み。結婚の約束。
少ないキーワードをどうにか繋げていく。
(そういえば、夏休みの間、ずっと誰かに会っていたような)
一人で町を探索していて見つけた、お城みたいな大きな家。その庭に毎日忍び込んでは、誰かと遊んでいたような……。
顔も名前も思い出せないが、楽しかった思い出は微かに覚えている。
「あーー……」
靄のかかった記憶が徐々に鮮明になっていき、それに比例するように血の気が引いていく。
「……いや、はい。そうですね……あの人、店長だったんですか」
おずおずと結衣が言うと、新は満足そうに笑顔を見せている。その表情は記憶の中にいる新を思わせる、太陽のような笑顔だった。
0
お気に入りに追加
355
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
ちょいクズ社畜の異世界ハーレム建国記
油揚メテオ
ファンタジー
【祝漫画化】
ギャグ✕エロ✕RPG✕村作り✕たまに戦争。
アサギリ・コウはクズである。
様々なヒロインとエロいことをしまくってやる!!!
でも、たまに熱血します。
【ヒロイン紹介】
・銀髪巨乳吸血鬼 セレナ(当店?人気ナンバー・ワン)
・金髪チョロエルフ ルーナ
・ゆるふわ(はらぐろ)シスター ミレイ
・むっちり姉メイド カンナ
・メガネツンデレ(デレデレ) エレイン
・どMダークエルフ リュディア
・数百年の処女姉 カレリア
・剣聖な彼女 ゼービア
他にもケモミミロリ、人妻、ババアなどなど。
絶対に好きなヒロインに出会えます。
※ヒロインは『第13話 エルフ』から登場致します。それまで少し長いですが、お付き合い頂けたら幸いです。
※諸事情により137話あたりからエロさが増します。それまで少し長いですが、お付き合い頂けたら幸いです。
異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記
鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身
父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年
折からの不況の煽りによってこの度閉店することに……
家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済
途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで
「薬草を採りにきていた」
という不思議な女子に出会う。
意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが……
このお話は
ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です
騎士団長の俺が若返ってからみんながおかしい
雫谷 美月
BL
騎士団長である大柄のロイク・ゲッドは、王子の影武者「身代わり」として、魔術により若返り外見が少年に戻る。ロイクはいまでこそ男らしさあふれる大男だが、少年の頃は美少年だった。若返ったことにより、部下達にからかわれるが、副団長で幼馴染のテランス・イヴェールの態度もなんとなく余所余所しかった。
賊たちを返り討ちにした夜、野営地で酒に酔った部下達に裸にされる。そこに酒に酔ったテランスが助けに来たが様子がおかしい……
一途な副団長☓外見だけ少年に若返った団長
※ご都合主義です
※無理矢理な描写があります。
※他サイトからの転載dす
夫と妹に裏切られて全てを失った私は、辺境地に住む優しい彼に出逢い、沢山の愛を貰いながら居場所を取り戻す
夏目萌
恋愛
レノアール地方にある海を隔てた二つの大国、ルビナとセネルは昔から敵対国家として存在していたけれど、この度、セネルの方から各国の繁栄の為に和平条約を結びたいと申し出があった。
それというのも、セネルの世継ぎであるシューベルトがルビナの第二王女、リリナに一目惚れした事がきっかけだった。
しかしリリナは母親に溺愛されている事、シューベルトは女好きのクズ王子と噂されている事から嫁がせたくない王妃は義理の娘で第一王女のエリスに嫁ぐよう命令する。
リリナには好きな時に会えるという条件付きで結婚に応じたシューベルトは当然エリスに見向きもせず、エリスは味方の居ない敵国で孤独な結婚生活を送る事になってしまう。
そして、結婚生活から半年程経ったある日、シューベルトとリリナが話をしている場に偶然居合わせ、実はこの結婚が自分を陥れるものだったと知ってしまい、殺されかける。
何とか逃げる事に成功したエリスはひたすら逃げ続け、力尽きて森の中で生き倒れているところを一人の男に助けられた。
その男――ギルバートとの出逢いがエリスの運命を大きく変え、全てを奪われたエリスの幸せを取り戻す為に全面協力を誓うのだけど、そんなギルバートには誰にも言えない秘密があった。
果たして、その秘密とは? そして、エリスとの出逢いは偶然だったのか、それとも……。
これは全てを奪われた姫が辺境地に住む謎の男に溺愛されながら自分を陥れた者たちに復讐をして居場所を取り戻す、成り上がりラブストーリー。
※ ファンタジーは苦手分野なので練習で書いてます。設定等受け入れられない場合はすみません。
※他サイト様にも掲載中。
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
わがまま公爵令息が前世の記憶を取り戻したら騎士団長に溺愛されちゃいました
波木真帆
BL
<本編完結しました!ただいま、番外編を随時更新中です>
ユロニア王国唯一の公爵家であるフローレス公爵家嫡男・ルカは王国一の美人との呼び声高い。しかし、父に甘やかされ育ったせいで我儘で凶暴に育ち、今では暴君のようになってしまい、父親の言うことすら聞かない。困った父は実兄である国王に相談に行くと腕っ節の強い騎士団長との縁談を勧められてほっと一安心。しかし、そのころルカは今までの記憶を全部失っていてとんでもないことになっていた。
記憶を失った美少年公爵令息ルカとイケメン騎士団長ウィリアムのハッピーエンド小説です。
R18には※つけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる