うちの店長レイプ犯!?

貝鳴みづす

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第三章『新と結衣』

第十一話「無理矢理にでも」

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 結衣は考える。
(たしかに、見覚えはある……)
 男たちから助けてもらったとき、おそらく市松は普段、その長い髪を束ねている。後ろに、高い位置で。
 戦っている彼女のポニーテールは、その動きにつられて美しく舞い、見惚れていたのを覚えている。

 だからそのときはわからなかったが、川に落ちたところを助けてもらったとき、彼女は髪をおろしていて。
 濡れたその長い黒髪はとても印象的で、前にも見たと、そう思った。
 ――以前にも、同じ状況で。

「わ……たし、前にも飛び降りて、そのとき……」
 恐る恐る市松を見上げる。
 彼女の流れるような長い黒髪は、変わらず結衣を守るかのように包みこんでいた。
 思い出した。結衣は数ヶ月前にも、同じ場所で飛び降りた。
 元カレと別れたくて、けれどお金がなくて家をでていくこともできなくて。追い詰められた結衣は、気づいたら橋から身を投げていた。

「そう。やっと思い出されましたか。実は私、川に落ちた結衣様を助けたのは二度目なのです」
 言いながら、市松は結衣の頭を優しく撫でた。
「……っ」
 なんとも言えない気持ちよさに、結衣は目を伏せた。
 それはまるで、幼い日の、母親の温かさのような。

「それで、まさか偶然だとは思っていませんよね?」
「それは……」
 どういうことか。
 そもそも、以前飛び下りたとき、つまり数ヶ月前の夏の終り頃。そのとき市松とも、新とも、結衣は会ったことはなかったはずだ。

「まあ、その場に居合わせたのは偶然なのですけれど。私は、誰も彼も助けるほどお人好しではありませんよ。では結衣様、ここで問題です」
 市松は悪戯いたずらっぽく微笑む。
「そんな私が、結衣様を助けるとしたら、どんな理由でしょう?」

 結衣は言葉を失った。
 市松が、自分を助けるとしたら。
 そんなもの、ひとつしか浮かばない。
「店長……? でも、店長はあのとき、私のこと知らないはずじゃ――」
「さぁ、どうでしょうね。これ以上はさすがにお話できませんよ。ちゃんとご自身で、新様に聞いて下さい」

「……」
 黙り込む結衣。
 もう拘束されていなかったので、ベッドから起き上がろうとした。
「新様のところに行かれるのでしたら、お送り致します」
 結衣に続こうとする市松。しかし、結衣は首を横に振った。

「どういう理由だろうと、もういいです。でもさすがに三度も助けてもらったので、ちゃんと生きます。だからもう一人にさせて下さ……いっ!?」
 立ち上がろうとする結衣を、市松は躊躇なくもう一度ベッドへ引き戻し、また同じように押し倒した。

「そんなことを言われて、はいそうですか、って、私が頷くとでも思ったのですか?」
「えっ、えっ……」
 冷や汗が止まらない。
「私は、新様のためならなんでも致します」
 市松は怯える結衣の頭を撫でている。
 まるで大切なものを愛でるように。

「新様は結衣様に戻ってきてほしいと思っている。結衣様が戻らないというなら、簡単な話です。なにをやってでも、また戻りたくなるようにすれば、いいだけですよね?」
 自分の上に跨る市松は、表情こそ笑っているが、空気が凍りついていた――怖い。


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