生徒との1年間

スオン

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顧問2年目04月

顧問2年目04月 1

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 ふいに、目が覚めた。覚めてしまった。

 悪い夢を見たとか、足が痙攣したとか、そういうことではなかった。
 急に何の前触れもなく、脳が覚醒した。そんな感じだった。

 普段、朝起きるときは、もうろうとした頭でなんとか閉じかけの瞼を全力で開いているのだが、そんな必要がないくらいの寝起きだった。
 全くまどろみがない、理想的な目覚めだった。これが朝であったのならば。
 今、目の前に広がる景色は、見慣れた自分の部屋が暗い中で見えている。
 寝るときに照明を消していたので、辺りにはめぼしになるような灯もない。

(あれ、どうして目が覚めてしまったんだ?・・・何かあったっけ?)

 立成は考えるが、思いつくことがない。
 昨夜はとくに深酒もせずに寝床にもぐりこんだ。明日は金曜日で、その次の土曜日は地方進学校特有の休日補習もなく、珍しく学校が休みだから、酒は明日の楽しみにするつもりだったのだ。

 布団に入ったまま、自分の部屋を見渡す。
 きれいというわけでもないが、汚いという印象もない。
 独身男としてはうまく部屋を使っている部類だ。
 その部屋の光景は、いつも見ているとおりであるように見えた。
 部屋の中で何かが落ちたとか、そういう物音が経っている様子もない。 
 単純に、人体の不思議として夜中に目が覚めた。ただそれだけのようだった。
 
 枕元にある自分のスマホを見ると、深夜の2時だった。
 その数字を見て、立成は顔をしかめる。

 変な時間に目覚めちまったな・・・
 こうなったら1~2時間は眠れないぞ・・・

 長年付き合っている自分の身体だから、こういう時にどうなるかはわかる。
 立成はため息をつきながらベッドから立ち上がり、フラフラとよろめきながら洗面所へと移動した。
 どうせ寝られないならと、寝汗をいったん洗い流すつもりだった。
 
 家賃が安いアパートだから、洗面所も狭い。
 洗濯機もあるから自由に動けるスペースも少ないのだ。
 そんな狭い場所で照明をつける。蛍光灯の白い光が狭い洗面所をまばゆく照らしているのが、少し薄気味悪い。

 立成は生欠伸をしながら、長年寝間着として愛用しているグレーのスウェットトレーナと、くたびれたTシャツを身体から抜き取った。

 ふと、目の前の鏡に自分が映っていることに気づいた。
 鏡だから映るのは当然だ。立成が気になったのは、自身の身体だった。

 曲がりなりにも教師をしているから、身だしなみにも気を使っている。
 毎日、シャワーを浴びることは欠かせていないから、己の裸体も見慣れているはずだった。
 しかし、たった今目にした自分の身体、特にその腹部に対してぎょっとしてしまった。
 それはまるで、酒を飲み過ぎている中年オヤジのように、パンと張った腹をしていたのだ。

 また少し太ったのだろうか?この1年の新しい生活でストレスもあるとはいえ・・・
 立成は昨年32歳になった。もはや若者ではなく、世間一般で言えば青年から抜けつつあるが、中年ではない、そんな年齢だ。

(こんな腹を見られちまったら、また、筒井にからかわれるかもな・・・)

 自然とそんなことを考えてしまった。
 また筒井のことを考えてしまった。 

 この1年、部活で苦楽を共にしてきた、弓道部の生徒だ。

(いや、部活だけではない、か・・・)

 筒井と過ごした、昨年の1年間について少し考えてしまった。
 いかんいかん、と立成は頭をふるいながら、スウェットズボンとボクサーブリーフを同時にずり下げ、脚から抜き取り、浴室へ逃げるように飛び込んだ。
 シャワーノズルからは最初は水しか出ないとわかっているのに、冷水を身体に浴びせ続けた。
 まるで何か、憑き物を流すかのように。

(あぁ、やっぱりシャワーを浴びるくらいじゃ、眠くはならないよな・・・)

 タオルで頭や体を拭きながら、立成はあらためて、全身の各部位に視線を回す。
 ひげの生えた顔、広い肩、がっしりとしているが少し脂肪の乗った胸、どっしりした周り、太くて逞しい脚、あまり見たくない、皮を被った局部・・・

 立成は、普段はあまりこのように鏡に自分を映して見ることは無い。
 シャワーを浴びる前に腹が出ているのに気づいてしまったから、他も確認しようとしているのだ。 
 振り返り最後に尻を鏡に映してみた。

(・・・相変わらずなケツだな・・・それに毛深い・・・)

 鏡に映し出された立成の尻は、横にも縦にも大きく、筋肉と脂肪がどっしりとついたデカ尻だった。
 その表面には冬目ではうっすらとではあるが、黒々とした尻毛がびっしりと生え揃っている。

(こんなケツをあいつは好き好んでいるが・・・エロいケツだといっているが・・・そんなにか?それに、このケツタブを・・・)

 そう考えると、さっきとはうって変わって、ドキドキする。
 そんなに、このケツがエロいのだろうか?
 汚いだけじゃないか。滑稽なほどデカいだけじゃないか。
 立成のノンケの感性では全く信じられないことだった。

 筒井に言われたことを思い出していたら、今度は自分の尻タブを開くことを想像してしまった。
 立成はこれまで、自分1人のときにそんなことはしたことはなかった。考えたことすらなかった。
 今、少し想像しただけで体が熱くなった。シャワーを浴びた後だというのに、背中を嫌な汗が伝っていた。

 それでも、立成は恐る恐る、自分の尻に手をもっていき、ケツタブの表面を撫で上げた。尻表面を覆うように生えている長い毛が指にまとわりついた。

(うっ)

 立成は尻を自分の手で撫でただけだった。
 普段ならなんともない感触のはずだ。それなのに、少し感じてしまった。

 筒井に尻を触られることは何度もあった。
 部活に同学年がいないのは寂しいだろうと、顧問でありながら親身になるようになってからは、尻を含めて身体を触れられるのは挨拶みたいになっていたのだ。
 生徒と教師の関係ではあるものの、それは、男同士であれば、よくある話、よくある行為だと立成も思っていた。
 だから、自分の手で、自分の尻をゆっくりと撫でまわしただけで昂る自分自身に立成は驚いていた。

(そういや、こんなこともされたっけ・・・?)

 立成は、自身のケツを撫でまわしていた己の手を一旦尻から離し、再度自身のケツに叩きつけた。

 パシン。
(ぐぅっ・・・)

 柔らかな、優しい打擲音が、洗面所に響いた。
 何度か筒井にされた行為。このデカい脂の乗ったケツ肉を、「スパンキング」する行為。
 本来であれば、目上の者が、しつけのために目下の者の尻を叩く行為。
 それを、生徒である筒井にされたときに、自分の心の芯から熱くなったような、あの感情。

(あれは、一体何だったんだ・・・ただ、尻を叩かれただけなのに・・・)

 当時のことを思い出してしまった。想像しただけで、泣き出してしまいそうだった。
 痛みによるものではない。筒井の尻叩きはそこまで痛いものではなかった。
 それ以上に胸に来る何かがあったのだ。それが何か、今の立成にはわからなかった。

 それなのに、無意識のうちに自分で尻を叩いた自分自身が、立成は自分が自分ではなくなったようで怖くなった。

(俺は・・・普通だ。何ともない、何ともないんだ。こんなことしたって、俺は、俺は・・・・)

 立成は「自分は大丈夫だ」、と己に言い聞かせるように、次の行動に移った。
 それは、自分が正常であることを確信するために、より異常な行為をするというものだった。

 立成は今度は、自分の両手を尻肉に持っていった。
 その両手で尻タブを開く。
 普通の生活であれば絶対にやらない行為だ。
 自分の弱点を自ら晒すようで、自分でやっておきながらびくびくとする。
 その状態で鏡を振り返ってみた。
 そこには縮れた陰毛が密集しいるだけだった。
 立成はさらに上体を屈め、ケツをもっと突き出し、その割れ目の中を鏡に近付けた。両手にさらに力を込めガバッとケツタブを開いた。

 黒々と長いケツ毛の中に、"それ”があった。
 初めて見る、自分の肛門。自分のケツの穴。糞を排出するための器官。
 そこは、赤黒く、幾千もの皺が作られていた、
 32歳にして童貞を守り続けている立成にはイメージできなかったが、それはまるで、性器のようであった。

(な、何をしているんだ、俺は・・・)

 立成は自分がしていることが信じられなかった。
 周りには当然、誰もいない。筒井だっていない。自分1人なのだ。
 それだというのに、立成は鏡に向かって自分のコンプレックスのデカ尻を突き出し、おまけにそのケツの両手で割っているなんて。
 
 スーッ
(!!!!)

 ケツの割れ目に風を感じた。洗面所にある、わずかに開いていた窓から、心地よい夜風が入ってきたようだ。
 それだけでゾクッとした。明らかに、寒さを感じたからではなかった。むしろ、身体が熱くなった。
 昨年、何度か生徒の細い指と一物で、かき回されてきた、その秘孔に。肛門に風を受けただけで。
 あっ と、思わず声が漏れそうになってしまっていた。

 立成は全身が毛深い。これも立成が思春期の頃からのコンプレックスだった。
 しかし、コンプレックスだったのは、主に腕や手、脚の毛深さだった。
 筒井に言われるまで、自分の尻、ましてや尻の割れ目の中が、剛毛に生い茂っていることなど、考えてすらいなかったのだ。
 そんなびっしりと生えた肛門周りの毛が今、風を受けてぱやぱやとなびいていることまでも、風を受けた肛門とともに敏感に意識してしまっていた。
 そんな、ささいな、普段なら意識するほどでもない感触だというのに・・・

「はぁっ、はあっ・・・」

 腰が抜けてしまいそうだった。震える脚でなんとか立っていた。
 風が通りすぎたあとも、立成は己のケツタブを開いたまま、黒々とした長い縮れ毛だらけの肛門を鏡にさらけ出していた。

(お、俺は何をしているんだ!?・・・こ、こんなことをしているなんて、筒井に知られたら・・・筒井に見られたら・・・)

 自分がしている行為に、立成の身体は燃えるように熱くなっていた。
 成人男性であれば、夜な夜な自分を慰める行為をすることは当然だろう。
 しかし、今、立成がしているのは、世間一般の男性が行う自慰行為とは全く異なるものだった。
 恥部を晒し、さらにその恥部や、そんなことをしていることを見られる妄想・・・
 立成は気づいていないが、昨年1年間に、生徒である筒井から受けた数々の無邪気な行為により、「視られる」という行為に興奮する身体に変貌してしまっていたのだ。

(うぅっ・・・くそ・・・どうしてこんな・・・ただ、ケツを鏡に映しているだけなのに・・・あぁっ・・・)

 立成の一物はとうの昔に固くなっている。
 仮性包茎のため、包皮に包まれたままのその先端にある小さな鈴口からはとろっとした先走りが垂れ、洗面所の床を濡らしていた。
 そんなことも気にせず、立成は自分のデカ尻を開き続けた。しなくてはいられなかった。
 夜が深くなっていく。
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