先生との1年間

スオン

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2年03月

2年03月 1

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 3月末。
 普通なら高校は春休みのシーズンだ。
 でも、俺の高校は、一応地方進学校だから課題も出てくるし、春休み講習もある。
 自主参加という建前の強制授業みたいなもんだ。
 だから、ほとんど毎日学校に来ている。
 まぁ、それがなくたって部活があるから結局は変わらないんだけれども。

 卒業式も終わり、3年生たちも卒業した。
 1年とちょっとだけお世話になった先輩たち。
 皆大学に進学が決まっている。
 今となってはあっという間だったけれども、楽しかったな。
 なんだかんだ、色々可愛がってもらったような気がするし。

 5月に入って来た1年たちも、かなり上達している。
 俺が1年のときより、はるかに腕が立つヤツもいる。
 たまに的中、負けるからなぁ。

 そんなこんなで、講習後の部活も終わり、自主練中の夕方。
 厳しい冬が明けて雪もなくなって、少しずつ春の訪れを感じる。
 木々は芽吹き、風も温かくなり、陽の時間も長くなっている。

「先生、4月からも弓道部の顧問だよね」
「さぁどうかな」
「もしかして、俺のクラスの担任だったりする?」
「教えない」
「えぇーいいじゃん!」
「一応まだ秘密ってことになってるからな」

 2人して居残り練習している、春の夕方。
 好き勝手にそれぞれ矢を撃ちながらの、教師と生徒の会話。
 先生も俺も、矢を撃ちながらたわいのないことを駄弁っている。
 先生は、今日の練習は軽くだけでいいから、ってことで、ジャケットを脱いでスーツのままで撃っているけれども、なかなかの的中だ。
 時間にしては俺達生徒よりは少ないけれども、先生もこの1年で弓道を頑張って練習してきたのだ。
 その成果が、最近如実に表れてきているような気がする。

「明日って、新入生が来るんでしょ。何だっけ?入学前のオリエンテーションだっけ?」
「あぁ」
「懐かしいなぁ。俺も昔やったんだよね。バカみたいな量の課題が出されてさ、春休みなのに。あのときいは嫌になったなあ~。ってそのときはまだ先生、この学校に来てなかったっけか」
「そうだな。筒井に1年の時があるなんて信じられん」
「ちょっ、それどーいう意味?」

 矢を撃ち終わってから先生の方を見やると先生がニヤッと笑いかけてくれる。
 俺もそれを見ると、自然と顔が綻んでくる。
 こんな風に冗談が言い合えるようになれて、本当に良かった。
 
 先生は明言してくれなかったけど、話している雰囲気からして、きっと4月からも弓道部の顧問をしてくれるのだろう。
 もし異動になるのなら、先生の方から俺に言ってくるような気がするのだ。
 そうでないと困る。
 数少ない、先生との接点なんだから。

「俺が1年のとき、オリエンテーションでも一応全員自己紹介してたなぁ」
「へぇ、クラスはもう、オリエンテーションから入学前まで変わらないからな」
「最初に先生が自己紹介してさ、その後に」
「ほほう、なるほどね」
「うん。・・・あれ、何今のリアクション!?あ、もしかして先生、1年の担任になるの?」
「ばれたか。あんま他の奴には言うなよ」
「言わないけどさ~、俺、先生が担任だったら良かったのに。そうすればさ、毎日・・・エッヘッヘ」
「筒井!テメェまた変なこと考えてるだろ!」
「イヤイヤ、考えてないです。はい。真面目です。真面目な弓道部員です」
「わかりやすすぎる・・・」

 そんな会話を続けていると、
 でも、先生が担任にならないのは、本当に残念だ。
 残念だった理由は、まぁ、エロい想像をしたからっていうのもあるけど、それだけじゃない。
 高校の最後に、大好きな先生のクラスになれれば、すごく嬉しいって、本当にそう思ったからなのだ。
 だけど、今更先生にそんなことを釈明しても、聞き入れてれないだろうな、こりゃ。
 
 馬鹿話も一通り終わり、弓道場を片付けながら俺は先生に言ってみた。

「先生、1年の担任になるならさ、明日の新入生向けのオリエンテーション大丈夫?」
「馬鹿にすんな筒井。大丈夫に決まってんだろ」
「でもさ、先生。この学校に来て1年間、担任持ってなかったでしょ?ちょっと不安じゃない?」
「んなこたない。前の学校で担任持ってたし、普通に上手くやれてたからな」
「でも、それ前の学校での話でしょ?うちの学校、変な生徒多いよ」
「お前が言うのかそれを・・・」
「えぇ、それちょっとひどい!・・・まぁそうだけどさ・・・でも、新入生も変な奴多いかもしれないし・・・え、何その視線」

 鞄を背負いながら話していたのだが、先生は俺の方を見つめている。
 色っぽい欲深そうな視線・・・ではない表情だ。
 多分、俺の発した言葉で、何か思う所が出てきたのだろう。

「なんだか、お前にそう言われると、結構揺らいでしまうな」
「いや、俺って結構この学校だとまともだからね?ていうか、かなり影薄い方だから」
「そうかぁ?」
「・・・成績があんま良くないからかもだけど・・・でも、学年に10人くらいは、本当に頭おかしいやつが入ってくるんだよね。そいつがいい意味で頭おかしい奴だったらいいけど、逆のこともあるし」
「うーむ、思い当たる節があるから否定できねぇ」
「でしょ。だからさ、不安が残るんだったら、明日の準備、ちょっとだけでも今からやっといた方がいいんじゃないかな?」

 こんな会話をしながらも片付けも済ませて、俺は学ラン姿に戻った。
 先生は胴着に着替えていなかったから、とっくにスーツ姿になっていて簡単に帰り支度が整っている。
 道場内の電気を消し、玄関口で靴を履きながら、ダメもとで再度申し出てみる。

「大丈夫、先生が練習するなら、俺が新入生役をしてあげるからさ」
「その大丈夫ってのが信頼できないのだが」
「えーひどい。でもさ、空っぽの教室だとなんか変じゃない?あんま気持ちが入った練習にならないっていうか」
「それはそうだが・・・」
「じゃ、俺の教室行こうよ。もちろん4月から俺の教室になる、3年の教室だよ」
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