先生との1年間

スオン

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2年09月

2年09月 2

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 結局、寝不足のまま大会当日の朝になった。

 みんなで宿の朝食を食べる。先生と一緒に。
 先生も初めての大会だ。食堂でご飯を食べながら、いつもより元気のある声で1ねんたちに声をかけている。
 今日の先生は上下黒のジャージだ。そういうデザインなのか、身体にフィットしたようなシルエットだ。先生のデカイ身体がピチッと浮き上がっている。

 昨日の妄想がフラッシュバックしそうになった。

「おい、どうした?顔色悪いぞ」
「いぇ、なんでもないです。大丈夫です」

 やべ、変な顔しちゃったかな?いつも通りに見えるように気を付けた。

 昨夜、大部屋で一人、先生を自分の知ってるあらゆるプレイで責め立てていた。
 もちろん妄想で。気づいたら午前2時になっていた。
 おかげで、結局寝不足だ。くそ。



 昼の少し前ーーー。

 午前の射では、団体では20射6中・・・
 まぁまぁ?俺と川崎が2中ずつで4、一年二人が1ずつ。

 う、思ったより駄目だ・・・俺個人で3中はしたかったけど・・・

 個人で予選を通るには8射5中以上だ。だから次、午後の4射3中が最低ライン。
 ちょっと辛い。プレッシャーだ。

 他校の結果を見る。森田はどうだったんだろう?
 あ、あいつ皆中だしてる!うわぁ。やっぱすごいなぁ。


 試合の日の昼飯は、コンビニ飯だ。

 別に決めているわけではないけど、みんなでコンビニに向かう。大会だから、あたりは弓道ぎを着た高校生がたくさんいる。

 あれ、そういえば、先生はどうしたんだろう?
 近くにいた1年に聞いてみたけど、誰も知らないみたいだ。

 まぁ、大会当日の顧問は特に役割はないと思うけど・・・
 とはいえ、何も言ってこないというのも、寂しいなぁ。

 みんなでコンビニに行き、昼飯を食い、午後の試合に備える。

 ・・・腹が膨れたからか、眠気が強くなってきた。
 まずいな。緊張はあまりしていないみたいだけど、道場に入るまで、わからないんだよな、自分が緊張しているかどうか。
 1年たちは初めての試合だけど、怖いもの知らずなのか、俺なんかより落ち着いているみたいだ。
 
 各校の生徒の溜まり場になっている控え室の隅でで、一人考える。眠気もあるから、あまりまとまらない。

 ちょっとうとうとしてきた。
 このまま眠ってしまいたい。
 全部をここに置いて、どこかに行ってしまいたい。

 完全に現実逃避だ。
 そんなときに、見覚えのある姿が見えた。先生だ。

「あ、先生。どっか行ってた?」

「ん、まぁな。どうだ、みんなは?」

「のんきだよ。いい体験になったんじゃない?」

「筒井の気分は?」

「うーん、まぁやれるだけやるだけだよ」

「緊張は?」

「少しだけ」

 そんなありふれた会話をしながら、先生は俺の横に腰かける。

 どうしたんだろう、と思っていると急に先生に手を握られた。
 ぎゅつと手を握ってきた。背中を抱かれる。

「大丈夫だ。大丈夫」

 ビックリした。でも、嬉しかった。

 しばらくそうしていた。体感時間は長かったけど、実際は一瞬だったのかも。
 先生が俺の身体から離れる。

 俺は先生の顔を見た。

 自然と笑顔になれた。

 ふと、先生の足元に何かがあるのに気づいた。白いビニール袋だ。中身は見えない。

「先生、それ、昼ごはん?」

「あ、あぁ。そんなところだ」

 他意がある訳じゃなく、そう思ったから聞いたんだ。
 そうしたら、先生はなんだか慌てた感じだった。
 そのまま先生は、試合前にはあんまり邪魔はできないよな、といって、控え室から出ていった。

 先生の後ろ姿をみながら、心の中で、先生に感謝した。



 そのあと、午後の試合。
 何だか、スッキリした気持ちになった。憑き物が落ちたっていうのか?邪念が湧かなかったんだ。
 なんというか、やるしかないっていうか。

 俺は4射3中することができ、個人予選をギリギリ突破した。
 団体は20射5中だった。当然予選敗退だが、まぁこんなもん、という結果だった。
 むしろ、1年全員がこの大会で1中以上を出せたんだ。上出来な結果だと思った。

 表彰式も終わり、バスで学校に戻り、軽くミーティングをした。

 道場から帰るとき、先生の家に呼ばれた。先生の家に寄っていけと。
 もちろんOKした。したけど、何だろう?

 俺は自転車で学校に来ていたから、自転車で先生の家まで行こうとしたけど、車に自転車を乗せてくれた。
 
「先生が家に呼ぶなんて珍しいね」

「今日はお祝いだからな」

「え、何の?」

「もちろん、お前の予選突破のお祝いだ!」

 え、それでお祝いするの?
 そのくらいでお祝いって大丈夫?他校だと、5人全員予選突破しているところとかあるけど・・・

 でも、先生の家か。誘ってくれて嬉しい。

 途中にスーパーによって買い込んだ飯で祝勝会だった。

 先生は缶ビールだ。

「おめでとう!そんでおつかれさん!」

「ありがとう!」

「団体が予選落ちだから、さっきの反省会でも、あまり大っぴらに言えなくてさ。よかったな、筒井」

「いえいえ」

「次は来月の県予選だなー。それで入賞したら地方大会で、それでも入賞したら冬の全国・・・」

 ブーッ!と飲んでいたウーロン茶を拭きだした。

「いや、いや、それは無理!地方大会も無理だからね」

「何言ってんだ!いけるいける!」
 
 先生は喜んでくれた。

 その後も、先生は俺を何度もほめてくれた。

 その間、先生はひっきりなしにビールを飲んでいる。すごいペースだ。

 とりとめのない会話が続いた。



 途中から、違和感があった。
 先生がうろうろしているんだ。
 視線もキョロキョロと、落ち着きがない。自分の部屋なのに、居心地が悪いところにいるような感じだ。

 どうしたんだろう?と思ったけど、そのまま時間を過ごした。

 そのあとは、先生は明らかに行動がおかしくなった。

 あれ、どこやったっけ?コショウいるなぁ。リモコン、リモコン。タオル、これでいっか・・・
 
 妙に落ち着きがない。というか、モジモジしている?

 床にこぼしたゴミ取るときなんて、しゃがまずに腰を浮かしたまま、腕を下げて拾っている。
 俺にケツを突き出すように。

 ・・・なんというか、俺に対してサービスシーンが多くない?尻をこっちに向け屈みすぎ?
 いや、嬉しいけど・・・

 少しだけ先生は困ったような表情をしている。
 一体なんなんだ?わからない。


 先生は、何かを決意したような顔をした。


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