先生との1年間

スオン

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2年07月

2年07月 2

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「この人、俺の顧問の立成先生」

「筒井のことよろしくお願いしま~す」

 もうべろべろだこの人。一応、付き添いだから仕事中じゃないの?でも今日は祝日だからいいのか?

 トイレに行くのかと思ったら、先生はソファーに座り込んだ。

「あ、森田です」

「ん?森田?顧問は清野先生?」

「そうですけど・・・」

「清野先生には、今日はお世話になりました!ありがとうございます」

「えっ!こ、こちらこそ・・・」

 どうやら、先生は仲良くなった他校の顧問ができたみたいだ。

 その後も先生は、「いや~」とか「う~ん」とか、よくわからないことを口にしながらソファーでぐだっていた。

「・・・森田、もう帰っちゃっていいよ」

「えっ悪いよ、急に帰ると」

「大丈夫、そういう細かいとこ気にしない人だから」

「ふふっでも面白い先生だね。ありがと。おやすみ」

 森田が部屋に戻ったから、なんとなく先生の隣に座る。

 先生は目が薄目になっているけど、眠ってはいないようだ。


「そういや、総体の会場はここだったな」

 急な話題で言葉を失う。

「お前、あの時はやばかったよなー。もう、大丈夫かー?」

 先生の顔は赤いままだ。酔っている。いや、酔っているから、この話題を出せたのかもしれない。

 俺はため息をするように呼吸を落ち着かせた。

「もうだいぶ前の話じゃん。大丈夫だよ」

「そっか、よかった!あんときは、俺、本当、心配で心配で。もうね、もう、立ち直れないんじゃないかって」

 先生は目を薄めながら、何度も何度も、うなずくように頭をこくこくさせながら話す。

 胸がチクンとした。少しだけ、あのときのことを思い出してしまった。嫌な汗がうなじを流れた。

「ありがとー筒井!よかったよー!」 

「ぬわっ!」

 先生に抱き着かれた。脈絡がなさすぎる。

 背中に回された太い腕に強く抱きしめられる。

 先生の体温を全身に感じる。

 身体全身が酒臭い。

「思ったよりもすぐ元気になってよかったよー。あーよかったー」
  
 恥ずかしかった。酔っぱらいだからテキトーなことをいっていそうだ。でも、先生の本音なのかな?よく分からない。

 先生が落ち着いてきたから、酒臭えなぁもう!と照れ隠しで笑いながら、先生の抱擁をほどいた。

「先生、ありがと・・・あのね、正直、次の試合も、またやっちまいそうで、不安なんだよね・・・」
  
「だーいじょーぶだって!!」

 この酔っぱらいは・・・

「そんなの、、ジンクスしとけばいいんだよ!」

「あー、おまじない的な?そんなのないよ」

「お前、ルーティーンは大事なんだぞ!いざというとき、安心できるぞ!!何か持ってないのか?」

「そんなのないよ・・・先生は?アーチェリーでなかった?こうしとけばあたるな~、みたいな」
  
「俺は色々あったぞー!試合専用の矢を使うとか!練習では全く使わないんだ。試合のときも気分が上がるぞ~」

 あ、それなんかいいかも。それっぽい。

「会場に着いたときには礼を4秒するとかぁ。試合前に弓の下を3回たたくとかぁ。あとはー、ふふふ」

「なになに」

「これは部活での伝統だったんだけどな、大事な試合のとき、ピシッとしたパンツをはいてた」

「ピシッとしたパンツ?」

「あぁ。ビキニパンツだ・・・おぃ笑うな!なんかなぁ、気持ちがぐっとくるってのもあるし、何か集中できた。結構結果残してたしな!よし、お前もやれ!

「えぇ、そんなパンツないよ。あ、じゃあ、先生が履けばいいんだよ!」

「何で俺だよ!」

「だって先生のジンクスでしょ!俺に効くか分かんないし!お願い!一生のお願い!」

 勢いで押してみた。両手を合わせて先生に懇願する。論理が破綻していると思ったけど、酔っ払いが相手だからと、思ったままに言っちまった。

 わかったわかったと笑いながらうなずく先生。やったー!と大げさに喜ぶ俺。

 ロビーの隅で2人で騒がしくしていたときだった。

「あぁ!筒井先生何してんですかぁ!」

「清野先生!」

 森田の顧問のようだ。この人も酒盛りに参加しているのだろう。赤ら顔をしている。

 先生より身長は低いけど、横にも前後にも身体が大きい人だ。いわゆるガチムチってやつ?

 坊主に近い短髪に、少し厳つい面構えをしている。

 普段だったら、会ったら怖そうな雰囲気だけど、酔っ払って目がトロンと下がっているから、それが愛嬌があるように見える。 

「全然戻ってこないからどこいってたかと思いましたよ!こちら生徒さん?かっこいいですねー!」

「そうでしょそうでしょ!ほらっご挨拶!!」

「・・・筒井です・・・」

 酔っぱらいが2人・・・


「いや~立成先生はイイ先生だよね!普段から仲良しだって聞いたよ!」

「えっ、先生そんなこと言ったの?」

「ん~?ダメか~?違うか~?」

 あわわ、間接的に仲良しだと思われているのを聞いてしまった。

「でも、今夜は立成先生を僕にくださいねー!さ、戻って飲みますよ!」

「うわー、もう飲めないっすよー」

 清野先生は笑いながら、先生の両手をつかみ立ち上がらせる。先生も笑いながら立ち上がる。
 
「はっはっはっ 夜のコミュニケーションはまだまだ続きます!」といって尻を叩いた。

「ひ、やめて~やめてくださ~い!」

「はっはっまだまだぁ!お尻が敏感ですなーいいケツです!」 

「あ、あー!」

 二人とも赤ら顔をにやにやさせながらロビーを出て行った。

 清野先生は数発、先生のケツをたたいた後、先生がオーバーなリアクションをするから面白がって、先生のケツを揉みだした。

 先生は両手でケツを抑えながら、逃げるように会議室という名の酒盛り場へと走っていった。清野先生もゲラゲラ笑いながら追いかけていった。

 ノンケおじさんのおふざけみたいだ。

 2人とも大人の教師・・・のはずだが、そうは見えなかった。

 でも、そんな光景が、そんな関係性が、なんだか素敵に見えた。

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