先生との1年間

スオン

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1年03月

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 筒井はママチャリをこぐ。
 まずい、今日は眠り過ぎた。普段よりも気持ち早く、ペダルを回転させる。

 都会では高校生でも電車通学が普通だというが、このあたりには駅なんかなく、電車も1時間に1本あればいいくらいだ。
 おまけに電車賃も高い。学校には定期券で通っている奴もいるが、毎日遠くから1時間以上もかけて学校に行くなんて信じられない。


 畑と田んぼが近くにあるひび割れたアスファルトの道から、車通りの多い整備された中央の道を経て、市街地から少し離れた筒井が通う高校が見えてくる。


 地方によくある、文武両道 を掲げた地元の進学校だ。

 進学実績もまあそれなり、部活の実績もまあそれなり。
 外部講師の招待だとか、設備投資だとかをしているわけではなく、ただ授業時間と部活時間が長い。

 学校の仕組みではなく、それなりに多い入学生から、たまたま才能に秀でた者が出てくるだけだ。

 筒井は、実家から通える、という点だけ、それ以外に理由はなく、この学校への進学を決めた。

 今は春休み。筒井涼太は明日の4月から高校2年になる。

 中学から高校になるときは、自分が高校生になることに違和感があった。
 いざ高校生になると、そこまで変わらないことがわかった。
 授業を受けて、部活をして、眠るだけ。
 それなりに楽しい、それなりに退屈。

 荒れているわけでも、窮屈なわけでもない。
 別に何かに不満なわけではない。そんな学校生活。
 ただ・・・

 1年間着ていた学生服のサイズが丁度良くなり、身体にも馴染んできた。
 入学前、少しだけ大きめのサイズにしておいたのだが、無事に成長は続いているらしい。

 自分では実感がないが、久しぶりに出会う人からは「背が高くなった」とよく言われる。
 もともと筋肉がある体型ではないため、印象は「ひょろっとした」感じはぬぐえないが、それでも男に近づいてきていると、筒井は自分でも感じていた。

(やっぱり俺は、男なんだなぁ・・・)

 ママチャリを高校の駐輪場にとめて、道場まで歩いていく。

 筒井は弓道部に所属している。今日は3月最後の部活動日。
 後輩ができるまでは、先輩よりも少し早めに道場についていないといけない。

 背後から、車の音が聞こえた。

 道場の近くの駐車場・・・といっても、ただの空き地になっている部分。地面は土と砂の中間で、薄緑の雑草が ところどころに生えている。
 暗めの紺色の車が乗りこんできた。

 誰だろう。この空きスペースを利用する人間は、いない。

 野球やサッカーの練習場は校舎から少し離れたエリアにあるし、柔道部や剣道部の道場は校門近くにある。

 室内競技の体育館への用事なら、ここよりももっと近い駐車場がある。

 教職員駐車場は、校舎入り口とは反対側だ。

 紺色の車は空き地の隅に止まった。男が出てくる。

「すみません。ここって車止めて大丈夫かな?」

「えっと、大丈夫です。普段何も使ってないので」

「わかった。ありがとう」

 にやっとした笑顔をこちらに向けた後、男は玄関の方へ歩いて行った。

 特に気にも止まらないような、グレーのスーツ。

 背は筒井よりも少し高い、身体は筒井よりもずっと大きい。

 そのくらいの印象だった。
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