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#17
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「の……ノアさん?こんなところで、どうしたんですか……?」
「……それは貴方が言えることではないでしょう。」
いつもの口調でそう言い、彼は音もなく僕に近寄る。
僕は今まさに蛇に睨まれた蛙だ。片目でありながらも、その紫色の瞳は僕を完全に捉えてる。
「…… ……目、どうしたんですか……?」
ノアさんは少し目を細めてから、失笑の意味を込めたように吐き捨てる笑みを浮かべてから、細い指先で包帯の上をなぞる。
「ここへ来て、私の心配をされるのですね。お優しい方だ。」
そのセリフからは嫌味みたいな感情が見て取れた。
「どうしちゃったんですか、ノアさん……もしかして、誰かに命令されて」
僕が言いかけていた言葉を言わせまいと、いつかのように人差し指で口を封じた。
「そんなスパイ物語ではありませんので、そう上手くできた話ではございませんよ……。それよりも、非常に簡単なことです。」
ノアさんは僕に意見を言わせる暇を与えないように続けた。
「私は、ルイスが好きでした。」
「…… ……?!」
「ルイス・アードラースヘルムとノア・ヘルツシュは王と執事。ましてや専属執事ともなれば、絶対にこの間の恋は許されない。
しかし、長い時間共に居てしまったせいで、私のの気持ちは誤魔化せなくなって行った。彼は国王に即座した時から、正妻はとらないと一点を通してきた。
私はそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。執事である、ルイスを愛すことが許されない身分におけるただ1つの優越だった。」
裏門の隙間から皮膚を切り付けるような冷たい風が入り込んできた。
僕は額に汗が滲んだ。
「それなのに、突然現れた貴方が正妻に着いてしまった。」
この声はノアさんの物だとは思えないくらいにドス黒い。
憎悪、嫉妬、絶望、怒りー色々な感情を全部混ぜたような真っ黒い声だ。
「私はあんなにもルイスに寄り添い続けて来たのに……ルイスの隣を、貴方が奪ってしまった。」
僕は何も言えない。
ずっと優しく接してくれていたノアさんが、こんな風に思っていたなんて……。
僕は、黙ってノアさんの言葉を聞くしか無かった。
「だから、殺そうと思ったんです。」
「え?!」
その言葉だけは聞き捨てられなかった。それってまさか……!?
「ルイスは誰の手にも渡ってはいけない。だから、そうなるまえに、殺してしまえばいいんです。」
満面の笑みで言い切ったノアさん。
僕の視界の上の方が、チリチリと黒い影のようなものが飛び交う。
呼吸がだんだん荒くなっていく。
だんだん耳が聞こえなくなっていく代わりに、世界を埋め尽くすような耳鳴りがしてきた。
「貴方も、そう思うでしょう?」
ノアさんは僕の頬にスルッと手のひらを添える。
その瞬間、バシッという乾いた音が廊下に響き渡った。
彼の手を振り払った。
「僕はそんなこと、微塵も思いません!!」
視界を占領する黒い影も、世界を埋め尽くす耳鳴りも取り払って、僕は走った。
ルイスに、会いたい。ただそれだけだ。
もしかしたら、もうアルヴァマーに居ないかもしれない。その可能性は大いにあったけど、そんなこと関係なしに走った。
振り返ると、ノアさんは、追いかけてくるような仕草を見せなかった。
ただ呆然と、立ち尽くしているように見えた。
・・・
偶然エレベーターが止まっていて、僕は迷わずそれに乗り込む。幸い、どの階にも止まらず、最速で最上階に着いた。
そっと王室の扉を開いた。
「…… ……ルイス……?」
朝日が雲にさえぎられてしまって部屋全体が暗かった。その背景を背に立つルイスはなんだか悲しそうに見えた。
「ウィル……?どこへ行っていたんだ!」
僕を見つけるなり早足で駆け寄ってくる。そんな彼は、ノアさんと同じように何故か左目に包帯を巻いていた。気になったけど、それよりも近づいてくる彼に、強く抱きつく。
「ルイス、死なないで、死んだら僕……!!」
今まで我慢していた、色々な感情が混ざった涙がボロボロと溢れ出てきた。
なんの前触れもなくやってきた戦争が怖かった。ノアさんがそんなふうにおもって毎日を過ごしていたことがびっくりしたし、申し訳なかった。
軍の最高責任者であるぜリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさん、妹のセレン、親友のバラードが心配になってたまらなかつた。
ルイスは、僕が抱きしめたのと同じくらいの力で抱き締め返す。ちょっと痛かったけど、僕にはそれが、一時の幸せに感じた。
「大丈夫だ、ウィル。私は絶対に死にはしない。」
「…… ……本当に?」
「ああ。約束する。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、そこには自信に満ち溢れたルイスが居た。
「だから、お前はどこにも行ってはならない。この王室には、隠し部屋がある……と言ってもとても狭いのだがな。」
ルイスに手を引かれて行ったのは、ベッドの隣にある小さな棚の前だった。そこにはルイスが愛読していた恋愛物語が何冊か立ててある。
それを退けると、壁がずれるような仕組みになっていてその部屋の中は、高さ、奥行き、幅は全ての2メートルほどの正方形のような構造になっている。
「ここに、隠れていれば良いんですね?」
「ああ。少々狭苦しいが我慢してくれ。」
ルイスは僕の両肩をがっしりと掴んで、お互いが向き合うような姿勢を取った。
「いいか、ウィル。この隠し部屋の場所は正真正銘私しか知らない。ノアでさえ知らないのだ。私が再びここて訪れるまで絶対に出るな。いいな。」
「……ルイスはどうしても行くんですか。」
「ああ。私が行かなければいけない……絶対に。」
「左目、どうしたんですか?」
「摘出した。それだけだ。」
「摘出……?!なんで?!」
「すぐにその理由は分かる。不安だろうが、この先には私達の幸せが待っている。」
「……絶対?」
「絶対だ。信じられないか?」
「……。」
「そう気に滅入るな、ウィル。……なんせ、私はまたお前の手料理が食べたいのだから。」
「…… ……え?」
ルイスは隠し部屋の扉を閉めた。それからその前に元通りに棚を置いた。
細い細い隙間からはルイスが遠ざかっていくのがぼんやりと見えた。
「……それは貴方が言えることではないでしょう。」
いつもの口調でそう言い、彼は音もなく僕に近寄る。
僕は今まさに蛇に睨まれた蛙だ。片目でありながらも、その紫色の瞳は僕を完全に捉えてる。
「…… ……目、どうしたんですか……?」
ノアさんは少し目を細めてから、失笑の意味を込めたように吐き捨てる笑みを浮かべてから、細い指先で包帯の上をなぞる。
「ここへ来て、私の心配をされるのですね。お優しい方だ。」
そのセリフからは嫌味みたいな感情が見て取れた。
「どうしちゃったんですか、ノアさん……もしかして、誰かに命令されて」
僕が言いかけていた言葉を言わせまいと、いつかのように人差し指で口を封じた。
「そんなスパイ物語ではありませんので、そう上手くできた話ではございませんよ……。それよりも、非常に簡単なことです。」
ノアさんは僕に意見を言わせる暇を与えないように続けた。
「私は、ルイスが好きでした。」
「…… ……?!」
「ルイス・アードラースヘルムとノア・ヘルツシュは王と執事。ましてや専属執事ともなれば、絶対にこの間の恋は許されない。
しかし、長い時間共に居てしまったせいで、私のの気持ちは誤魔化せなくなって行った。彼は国王に即座した時から、正妻はとらないと一点を通してきた。
私はそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかった。執事である、ルイスを愛すことが許されない身分におけるただ1つの優越だった。」
裏門の隙間から皮膚を切り付けるような冷たい風が入り込んできた。
僕は額に汗が滲んだ。
「それなのに、突然現れた貴方が正妻に着いてしまった。」
この声はノアさんの物だとは思えないくらいにドス黒い。
憎悪、嫉妬、絶望、怒りー色々な感情を全部混ぜたような真っ黒い声だ。
「私はあんなにもルイスに寄り添い続けて来たのに……ルイスの隣を、貴方が奪ってしまった。」
僕は何も言えない。
ずっと優しく接してくれていたノアさんが、こんな風に思っていたなんて……。
僕は、黙ってノアさんの言葉を聞くしか無かった。
「だから、殺そうと思ったんです。」
「え?!」
その言葉だけは聞き捨てられなかった。それってまさか……!?
「ルイスは誰の手にも渡ってはいけない。だから、そうなるまえに、殺してしまえばいいんです。」
満面の笑みで言い切ったノアさん。
僕の視界の上の方が、チリチリと黒い影のようなものが飛び交う。
呼吸がだんだん荒くなっていく。
だんだん耳が聞こえなくなっていく代わりに、世界を埋め尽くすような耳鳴りがしてきた。
「貴方も、そう思うでしょう?」
ノアさんは僕の頬にスルッと手のひらを添える。
その瞬間、バシッという乾いた音が廊下に響き渡った。
彼の手を振り払った。
「僕はそんなこと、微塵も思いません!!」
視界を占領する黒い影も、世界を埋め尽くす耳鳴りも取り払って、僕は走った。
ルイスに、会いたい。ただそれだけだ。
もしかしたら、もうアルヴァマーに居ないかもしれない。その可能性は大いにあったけど、そんなこと関係なしに走った。
振り返ると、ノアさんは、追いかけてくるような仕草を見せなかった。
ただ呆然と、立ち尽くしているように見えた。
・・・
偶然エレベーターが止まっていて、僕は迷わずそれに乗り込む。幸い、どの階にも止まらず、最速で最上階に着いた。
そっと王室の扉を開いた。
「…… ……ルイス……?」
朝日が雲にさえぎられてしまって部屋全体が暗かった。その背景を背に立つルイスはなんだか悲しそうに見えた。
「ウィル……?どこへ行っていたんだ!」
僕を見つけるなり早足で駆け寄ってくる。そんな彼は、ノアさんと同じように何故か左目に包帯を巻いていた。気になったけど、それよりも近づいてくる彼に、強く抱きつく。
「ルイス、死なないで、死んだら僕……!!」
今まで我慢していた、色々な感情が混ざった涙がボロボロと溢れ出てきた。
なんの前触れもなくやってきた戦争が怖かった。ノアさんがそんなふうにおもって毎日を過ごしていたことがびっくりしたし、申し訳なかった。
軍の最高責任者であるぜリムさん、ゲルガーさん、ゼルダさん、妹のセレン、親友のバラードが心配になってたまらなかつた。
ルイスは、僕が抱きしめたのと同じくらいの力で抱き締め返す。ちょっと痛かったけど、僕にはそれが、一時の幸せに感じた。
「大丈夫だ、ウィル。私は絶対に死にはしない。」
「…… ……本当に?」
「ああ。約束する。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げると、そこには自信に満ち溢れたルイスが居た。
「だから、お前はどこにも行ってはならない。この王室には、隠し部屋がある……と言ってもとても狭いのだがな。」
ルイスに手を引かれて行ったのは、ベッドの隣にある小さな棚の前だった。そこにはルイスが愛読していた恋愛物語が何冊か立ててある。
それを退けると、壁がずれるような仕組みになっていてその部屋の中は、高さ、奥行き、幅は全ての2メートルほどの正方形のような構造になっている。
「ここに、隠れていれば良いんですね?」
「ああ。少々狭苦しいが我慢してくれ。」
ルイスは僕の両肩をがっしりと掴んで、お互いが向き合うような姿勢を取った。
「いいか、ウィル。この隠し部屋の場所は正真正銘私しか知らない。ノアでさえ知らないのだ。私が再びここて訪れるまで絶対に出るな。いいな。」
「……ルイスはどうしても行くんですか。」
「ああ。私が行かなければいけない……絶対に。」
「左目、どうしたんですか?」
「摘出した。それだけだ。」
「摘出……?!なんで?!」
「すぐにその理由は分かる。不安だろうが、この先には私達の幸せが待っている。」
「……絶対?」
「絶対だ。信じられないか?」
「……。」
「そう気に滅入るな、ウィル。……なんせ、私はまたお前の手料理が食べたいのだから。」
「…… ……え?」
ルイスは隠し部屋の扉を閉めた。それからその前に元通りに棚を置いた。
細い細い隙間からはルイスが遠ざかっていくのがぼんやりと見えた。
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