側妻になった男の僕。

selen

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#7

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「え?!?嘘でしょ?!?!」
「何がだ?」
お互いシャワーを浴びて、フワフワのタオルで髪の水気をとってパジャマに着替えた。僕の部屋に何故かルイスが居る。
「ここはお前だけの部屋ではない。ベッドの大きさを見ればわかるだろ。」
た、たしかに……!!
「えっと……では、ボクトルイスハオナジベッドデネルトイウコトデカ……?」
動揺を隠しきれずカタコトになってしまった。
「そうだな。嫌か?」
ルイスはサラサラとした手触りの絹のパジャマについているボタンを留めながらそう言った。
「いや、ではないけど……ぉわっ」
僕は軽々と抱き抱えられてベッドにほおり投げられた。なんの抵抗もできなかった自分が情けない。
「いや、やっぱり僕はそっちのソファーで寝ます!」
なんせ僕は元・家で干し草を積んで上からシーツをかけて作った、その名も『 干し草ベッド(簡易使用)』で毎晩寝ていた身なので、ソファーもフカフカで豪華だから、そっちでも快適になんの問題もなく眠れる。
「今更何を言う。ウィルは私の側妻だろう?共に寝るのが普通だろ。」
そうだった……。こういう時、『 側妻』を盾にされるとどうしても断れない。
「あ!そうだ!」
僕は一番楽しみにしていたことを色々ありすぎて、すっかり忘れていた。
もう既にベッドに潜り込んだルイスは、なんだ、まだ何がするのか?と、欠伸をしながらこっちを見た。
「ルイス、お腹減っていません?」

・・・

僕は、ワクワクとした気持ちでキッチンに立った。
こんなに素晴らしい場所を僕が使っていいなんて……。感激だ。
僕がルイスにお腹が減っていないかと問うと、「舞踏会では料理が出される前に出てしまったからな。少々空いている。」との事だった。
僕はキラキラと輝く銀色の調理器具を一つ一つ手に取って、ルイスの為にある料理を作った。
「あまり時間がかかると遅くなるので、簡単なロールキャベツを作りました。」
僕は少し深みのある純白の皿にロールキャベツを2つ乗せてルイスに出した。
「……美味そうな匂いだ。頂くとしよう。」
フォークでロールキャベツを刺し、ふーふーと湯気を飛ばしてからそれを口に運ぶ。
熱い、とハフハフ言いながらロールキャベツを頬張るルイスは不覚にも可愛いと思った。
もぐもぐと咀嚼し、ゴクリと飲み込んだ。
「美味いな。暖かくて眠くなる。ウィル、お前は料理得意だということは知っていたが、ここまで上手いとはな……。感心したよ。」
ルイスにそう言われると、僕は嬉しさを覚えた。一国の王であり、僕の夫でもある彼にそう言われると、どこかこそばゆくなる気がした。
「ありがとうございます。光栄です。」
そのとき、僕のお腹がきゅーっと鳴った。
「お前……。」
こそばゆかった可愛らしい恥じらいは、耳が赤くなるほどの大きさに膨らみ、すごいスピードで変わっていった。結局、2つ目のロールキャベツは僕が食べた。
それから僕は、使った調理器具や皿やフォークなどを流し台(もう懐かしい)に置いた。
ルイスは、洗うのは明日にすればいい、と言ったが僕の中の血が騒いだ為夜の時間の無い中、素早く洗い終えた。
「……ん?何読んでいるんですか?」
ルイスは天蓋付きベッドに上体を起こすように寝そべり、横にあったサイドテーブルに立て掛けてあった分厚い本を読んでいた。
本には布地のブックカバーがかけられていて、僕からは題名が読めなかった。
「……女々しい趣味だが、恋愛物語だ。」
「えっ意外。……いや、もちろんいい意味でですよ?」
ルイスがじとっと睨むから僕は慌てて誤解を招いたであろう言葉を訂正をした。
「この身分上、望んだものは全て手に入ってしまうからな。この物語の男女の様な、甘く切ない恋愛に興味があるのだよ。」

・・・

丑三つ時を回ったとき、僕はふと目を覚ました。
……ロールキャベツを食べたせいなのか、そもそもしばらくトイレに行ってなかったせいなのか、僕はトイレに行きたくなった。
ルイスは仰向けに、死んだように眠っている。寝息が全く聞こえないけど、大丈夫なのか?
僕がちょんと頬の辺りをつつくと、長いまつ毛が動き、深紅の左目が僕を捕らえた。
「…… ……なんだ、ウィル。」
え、まじなのか?触れるか触れないかのレベルで触れても人ってこうも起きれるものなのか?!僕には無理そうだ。
「あっい、いや、トイレに行こうと思って……。」
「それなら右手の廊下から行くといい……。」
彼はそれだけ言ってまた眠りについた。
ルイスが問題なくまた瞼をとじたことに安心し、彼の言う通り右手の廊下へ進んだ。
つきさっきルイスに教えてもらった情報だけど、僕があの日初めて中央棟に呼ばれたとき行った王室は僕の部屋と繋がっているらしい。今まさに僕がいるこの廊下が、王室と繋がる一本道だそうだ。
「……?」
薄いカーテンを透けて差し込む蒼白い月光に照らされた王室。
そこには音もなく何かがうごめく。
ゾワッと僕の背中に悪寒が走った。
ルイスは何千もの人間を殺略してきた。ルイスに恨みをもった亡霊か、なにかか……?!

「ん?違う…… ……ノアさん……?」

彼の身体が飛び跳ねるように見えた。
そして、恐る恐る……と言った様子で僕の方を伺った。ルイスの机の上で、一体何をしているんだ?
「……ウィル様。こんな夜更けに、どうなされたのですか?」
いつもの笑顔でそう言った。僕は得体の知れないなにかに遭遇したような、不気味な気配を覚えた。
「僕はただトイレに行こうとしただけで……ノアさんこそ、何をしてるんですか……?」
一瞬の沈黙が流れた。静かに空調が絶え間なく無機質な音を発するのがよく聞こえた。
「私は国王直属執事ですからね。こうやって、国王がお眠りになられた後に、明日の仕事がスムーズに進むよう机の整理を行っているのです。」
「あぁ!なるほど!」
ノアさんに対する、あってはならない疑惑がきれいさっぱり晴れた気がして、僕は思わず大きめな声を上げてしまった。
「シっ……!!!ウィル様。お静かに願います。」
ルイスの睡眠を妨げる僕に、多少の怒りを覚えたのかノアさんの口元は笑っていたけれど、目は笑っていなかった。
「す、すみません……。今日はノアさんもおつかれだと思いますから、早く休んでくださいね!おやすみなさい。」
僕はそそくさとそう言って王室を立ち去った。そのあとノアさんがなんて言ったかは、よく分からなかった。
廊下を通り過ぎようとすると、僕はトイレに行きたくて起きたことを思い出して一応用を足してからまたベッドに戻った。

・・・

「おい、ウィル。そろそろ起きろ。」
夜の不穏な空気は跡形もなく消え去り、その代わりに温かな朝日がいっぱいに広がっていた。中央棟の最上階は朝日、夕日とともに建物などの光を遮るものがないから常に明るいイメージだ。
「おはようございます……。」
僕は欠伸にして、伸びながらそう言った。本来ならちょっと2度寝したいところだけど、ルイスの前ではそんな事は出来ない(眠い)。
ふと、昨日の夜のことを思い出した。
……ルイスに言うべきなだろうか?
少し迷ってから、言わないことにした。なんとなく、で決めた。
そのうち、コンコンと優しいノックが響いた。
「ルイス、ウィル様。おはようございます。」
「ああ。」
「お、おはようございます。」
ルイスは挨拶は返さずその一言でかえし、僕はなんだかぎこちない挨拶をしてしまった。……だって、なんか気まずい。
ちらっとノアさんを見上げると、目が合った。逸らそうか迷っているとノアさんは自然な笑みで軽くウィンクをしてみせた。
いつもの優しくてふんわりとした雰囲気のノアさんに戻っていた。僕はほっとして笑い返して見せる。
ノアさんとギクシャクした関係にならなくて心の底から良かったと思った。
そんな日常が流れて行った。
僕はルイスの隣で、できる限りやれる仕事は僕が引き受けられるようになった。
側妻になった日から、約1ヶ月程がたった時だ。
「ウィル様。お客様です。」
ルイスとノアさんと僕と3人で書類の片付けをしていると、(といってもルイスは片付けに飽きて今や優雅に紅茶をのんで例の本を読んでいる)あまり知らない顔の年配の執事が王室に知らせに来た。
「え?僕に?」
「誰でしょう……?妹のセレン様でしょうか?」
そう聞いて頭を過った顔は、僕の顔にあまり似ていない妹のセレンだった。
「あぁ、あの農家に嫁いだウィルの妹か。」
「やはりこの城に招いた方が良かったのでしょうかね……?」
うーん、と悩む仕草をみせるノアさん。ルイス、どう思います?とアメジストの様な瞳を彼に向けた。
……ちょっと。サラサラ話進めてるけど、この人たち一体どこまで知っているんだ……?てか、どうやって調べあげたんだよ。
「いいや。辞めておいて正解だろう。農家に嫁いだとなれば、その飼っている家畜共もこちらへやってくるとすると……それだけの土地を用意するのはさすがにまずい。他の国民の目も無視できなかろう。」
そう言ってまたティーカップに口をつけた。
意外と国民思いなのかな、と僕は呑気にそんな事を思った。
たしかに、『この鍵お前にやるよ。無くすなよ。』という突飛でもやは支離滅裂な手紙を添えられ、急に家の鍵を送り付けられて、さぞ意味不明でちんぷんかんぷんだっただろう。きっと、「お兄ちゃんこれどういうこと?!ちゃんと説明してよ!」と親父譲りの金髪を揺らしながら、兄顔負けの気迫で迫ってくるだろう。
「うーん……とりあえず、僕行ってきますね。」
3センチ程の厚さの束になった書類を残したまま僕は席を立った。
年配の執事の方と一緒にエレベーターにのり、1階下の接待室に案内された。
……なんだかんだ、セレンに会うのも久々だなあ。嫁ぎ先でも元気にやっているんだろうか。そんな世間話なんかをゆっくりしよう、と僕は扉を開けた。
「セレン、久々……え?」
「お!ウィル!!」
僕の視界に写ったのは、小柄で華奢だけど僕なんかよりも何倍も気の強い妹のセレンではなく、1ヶ月に顔を合わせたっきりのバラードだった。
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