上 下
61 / 69
another story ~あの彼の小話~

信じるか信じないかはお前次第

しおりを挟む
どうして、燿くんがあたしを初めての彼女に選んでくれたのかはわからない。

あたしが顔で見ていないからとは言っていたけど、そんな人はきっと他にもいる。

きっと、タイミングとかいろんな偶然が重なったんだろう。

やっぱり、あたしはラッキーなんだ。



「すみません、MMコーポレーションのものなんてんすが」



ドアがあいたので、近くにいたあたしが、その人に駆け寄る。

うちの会社は、小さな企業で、特に受付など置いていなく来客は直接用のある部署に来るようになっている。



「あ、はい。どの者とアポイントでしょうか?」


「部長の園田そのださんと」


「かしこまりました。こちらでお待ちください」



その人を応接ブースへと案内する。



「それでは、園田を呼んで参りますので、失礼ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「失礼いたしました。MMコーポレーションの遊佐と申します」



立ち上がって、胸ポケットから名刺を取り出す。



「ありがとうございます。すみまさん、他の部署に行く途中で名刺を所持していなくて.......」


「いえ、お気になさらずに」


「では、園田をよんでまいります」



ペコッと遊佐さんに礼をして、応接ブースを出る。



「副社長.......」



あたしたちとそんなに変わらない年齢に見えた彼は肩書きが副社長と書いてある。
仕事がものすごくできるのか、それとも御曹司なのかどちらかだろう。



「菜津、誰か探してんのか?」


「あ、うん。部長を」


「部長なら、コピーしてたぞ」



コピー機が並んでいる場所を指さす。



「ありがとうー。助かる」


「お前、それ.......」



あたしが手に持っている名刺を指でつかむ。



「あ、そうか。燿くん前はMMコーポレーションだったもんね」


「いま、きてんのかよ」


「うん。部長とアポイントみたい。呼びに行ってくるね」



パタパタと走って部長を呼びにいく。



「部長、MMコーポレーションの遊佐さんが応接ブースで待ってます」


「おお、ありがとう。ちょっとこれ、俺のつくえに置いてくれ」


「はーい」



あたしに指示をしたあと、すぐに応接ブースへと向かっていく。



「そういえば、もうお昼だ」



部長の机に書類を置いて、時計を見ると12時を少し過ぎていた。



「ランチ.......って燿くんはどこかな」



今日は、燿くんとランチに行く約束をしていた。

ふと、スマホをみると「駐車場にいる」と燿くんからメッセージ。
忘れられてなかったことに、頬が緩むのを感じながら「お昼いってきまーす」とドアをあける。

燿くんと付き合うようになって、はや3ヶ月。
燿くんは、彼女がいたことないとは到底思えないほどあたしのことをちゃんと彼女にしてくれていた。



「はは、顔はまぁ遊佐似か?」



駐車場に降りていくと、そんな燿くんの声がきこえる。



「うん、そうだねー。でも爪はあたしじゃない?」


「いや、爪ってなぁ.......どうやってわかるんだよ」



すこしみえた燿くんの表情に進もうとした足が止まる。

あたしだって見た事のない、愛に充ちた笑顔をしていたから。



「ていうか、燿くんよくわかったね。ここにいるって」


「遊佐が会社来てたからさ、ちとせの車出来てんだろーなってさ。だから、ちょっと車探しに来てみた」


「学くんにあった?」


「会ってねーよ。俺にあったら、あとからちとせに当たられても困るしな」



2人の会話はよくきこえる。
でも、あたしとの会話の比じゃないほど、燿くんは生き生きとしてて。

分かってしまった。
1度だけ、彼が本気で好きになった人。
それが目の前にいる彼女だって。



「菜津?なにしてんだ、そんなとこで」



あたしに気づいた燿くんが、怪訝な顔をしている。



「あ、うん。邪魔しちゃ悪いなって」


「何言ってんだよ。行くぞ。じゃあ、ちとせまたな」



ちとせさんの頭を撫でてから、抱いている赤ちゃんの頬に指をあてる。



「よかったの?来ちゃって」


「なにが?」


「一緒にいてあげなくて」



自分でも何を言っているのかわからない。
でも、一度芽生えてしまった疑念は、なくなることを知らない。



「あいつは子供かよ。母親だぞ?」



プッと噴き出す燿くん。



「学くん、あの人のことがすきだったんだね」


「.......っ、なんで」



あたしの言葉に目を見開く。



「表情が全然違った」


「隠せねーもんなんだな」



そうだとも違うとも言わなかった。
でも、その言葉と照れくさそうに笑うのは何よりの肯定だった。



「でも、勘違いはすんなよ」


「.......え?」


「いまは、なんとも思ってないとは嘘になるから言わない。でも、俺に他を見なきゃならないって思わせたのも他でもないアイツなんだ」



運転しながら話す燿くんの言葉を黙って聞く。



「アイツ、親がいなくてさ.......ずっと俺が守らなきゃってどこかでおもってて。母親になった瞬間に俺の肩の荷が降りた気がしたんだ」


「.......そっか」


「だからもう、兄的な気持ちでしか今はみてない。信じるか信じないかはお前次第」


「信じるに決まってる」



燿くんの気持ちを受け入れられないなら、はじめから負け戦みたいなことはしない。

自分のほうが気持ちが強いことなんてわかってる。
ただ、少しでもあたしのことを見てくれるなら。
それでいいんだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ
恋愛
恋愛にも結婚にも程遠い、アラサー社畜女子が、溺愛×スローライフを手に入れるまでの軌跡。

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

前世のことも好きな人を想うことも諦めて、母を恋しがる王女の世話係となって、彼女を救いたかっただけなのに運命は皮肉ですね

珠宮さくら
恋愛
新しい試みで創られた世界で、何度も生まれているとは知らず、双子の片割れとして生まれた女性がいた。 自分だけが幸せになろうとした片割れによって、殺されそうになったが、それで死ぬことはなかったが、それによって記憶があやふやになってしまい、記憶が戻ることなく人生を終えたと思ったら、別の世界に転生していた。 伯爵家の長女に生まれ変わったファティマ・ルルーシュは、前世のことを覚えていて、毎年のように弟妹が増えていく中で、あてにできない両親の代わりをしていたが、それで上手くいっていたのも、1つ下の弟のおかげが大きかった。 子供たちの世話すらしないくせにある日、ファティマを養子に出すことに決めたと両親に言われてしまい……。

処理中です...