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after story ~ふたりの小話~
連れてきてくれた場所
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「ちとせ、出かけるぞー」
休日のある日。
ソファーで本を読んでいると、学くんが立ち上がる。
「え?どこに?」
「内緒」
あたしの唇に人差し指を当てる仕草は、あたしの胸を騒がせる。
「えー、気になるじゃん!」
未だドキドキしてるなんて、知られたくなくて、あえて普通に振る舞う。
「いい所とだけ言っとくよ」
どうしても教える気がないらしい学くん。
きちんと婚姻届けを改めて出しに行ったのは、先週のこと。
まだまだ、あたしにとってはドキドキさせてくれる相手でなんら変わらない。
「そういえば、最近霧島は仮眠しにきてないのか?」
「うん、いつまでも俺が近くにいたら気が気じゃないだろうしとか言ってたよ」
燿くんは、毎日徹夜のようなもので時間がもったいないからと会社で寝ることが多い。
最近は、職場の椅子を並べて寝てるんだとか。
そんな様子を見かねて、きちんと医務室のベッドを使うように伝えたら言われた言葉。
「あいつ.......。体壊したら元も子もないだろ」
「あたしもそう思うんだけどね.......」
「俺からも言っとくわ」
前から燿くんに対して、敵視していた学くんだけど、最近はこう心配もしている。
「もう、燿くんに近づくなとは言わないんだ?」
「だって、もうちとせは俺から離れないだろ?」
「.......うん、まぁね」
ストレートに言われると、なんだか照れてしまう。
「ん?歯切れが悪いな?離れるつもりでもあるのか?」
「ま、まさか!違うよ!照れただけ」
顔を近づけてくる学くんにふるふると顔を横に振る。
「だよな?離れるわけないよな」
「うん」
「俺はもう、お前のこと信用してるから、霧島が医務室で仮眠したくらいで何も言わねぇよ」
前とは全然違う表情をあたしに見せてくれる。
「医務室は、そういう場所でもあるんだから。遠慮すんなって言っとくわ」
「お願い」
このままだと燿くんの体が持たない気がしてたけど、それを学くんに言うのも気が引けて困っていた。
だから、学くんから言ってくれて、ありがたいんだ。
「だからといって、仲良くしすぎるのはだめだからな?」
「う、うん」
仲良くしすぎるとはどこまでが入るのだろうか。
「悩みとかは霧島じゃなくて俺に言うこと」
「うん」
その辺は弁えてるつもり。
あたしだって、なにかあったときに違う女の人に相談かされていい気はしないから。
「よーし、行くか」
あたしの手を握って、家から2人で出る。
「もうすぐ結婚式だな」
車の運転をしながら、学くんが言う。
「だね。ちゃんと、会社のみんなにみてもらうのは初めてだからなんだか緊張する」
前にお披露目されたときは、会社関係のひとたちの前での挨拶だったから。
会社のみんなのまえでってのは初めて。
「俺の隣で普通にしていればいんだよ」
ポンっとあたしの頭に手を乗せる。
「よし、ついたぞ」
少し話していたかと思うと、いつの間にかついたいたらしい。
「ここは?」
草花が広がっている風景が見える。
「こっちだよ」
今見ているほうではなく、逆側へとあたしの体をむかせる。
「ここは.......?」
故人が入っているであろう石でつくられたお墓が並んでいる。
「こっち」
学くんがあたしの手を握って、歩いてたどり着いたところのお墓の文字をみて、あたしの目からは涙が溢れる。
「おか、さん.......」
たどり着いたお墓には〝CHINAMI SUZUNO〟と書かれていた。
鈴野 千菜美は、あたしのお母さんだ。
「来たことなかったんだろ?」
「うん、知らなかったから。お母さんのお墓の場所」
「親父は、結構来てるみたいだ。ちとせが来れない分な」
ポンっとあたしの頭を撫でる。
「ありがとう、連れてきてくれて」
お墓の前に座って、手を合わせる。
「お母さん、久しぶり.......」
首からぶら下がっているペンダントに手を触れる。
「ちとせを産んでくれてありがとうございました」
横で学くんも座って手を合わせている。
「.......学くん」
「いまは、感謝してるんだ。ちとせに出会わせてくれたことに」
「うん、お母さん。あたし、幸せになるね!学くんと一緒に」
2人で手をぎゅっと握り合う。
「親父が、ここにちとせを連れて行けってさ」
「お父さんが.......」
自分のお父さんと旦那様のお父さんとが同じ人ってのもなんだか不思議な感覚だろう。
こんな感覚は、あたしたちくらいかもしれない。
でも、これがないときっとあたし達は出会ってないから。
「ちとせのこと、必ず幸せにするので見守っててください」
2人で立ち上がってから、もう一度お母さんが眠るお墓へと告げる学くん。
なんだから、空からお母さんが笑っている気がした。
「もう、ひとりじゃないんだもんね」
ずっと孤独だと思ってた。
でも、1人だと思ってた世界にも、お父さんもタマもいて。学くんもいて。
「もう、ちとせはひとりじゃないよ、ずっと俺と一緒だから」
「うん、幸せになろうね」
ふたりでいれば、怖くないし寂しくない。
もう孤独な夜に泣くこともないし、怖くなることもない。
学くんがいれば大丈夫。
「ずっと、笑って過ごせる」
学くんと一緒なら
休日のある日。
ソファーで本を読んでいると、学くんが立ち上がる。
「え?どこに?」
「内緒」
あたしの唇に人差し指を当てる仕草は、あたしの胸を騒がせる。
「えー、気になるじゃん!」
未だドキドキしてるなんて、知られたくなくて、あえて普通に振る舞う。
「いい所とだけ言っとくよ」
どうしても教える気がないらしい学くん。
きちんと婚姻届けを改めて出しに行ったのは、先週のこと。
まだまだ、あたしにとってはドキドキさせてくれる相手でなんら変わらない。
「そういえば、最近霧島は仮眠しにきてないのか?」
「うん、いつまでも俺が近くにいたら気が気じゃないだろうしとか言ってたよ」
燿くんは、毎日徹夜のようなもので時間がもったいないからと会社で寝ることが多い。
最近は、職場の椅子を並べて寝てるんだとか。
そんな様子を見かねて、きちんと医務室のベッドを使うように伝えたら言われた言葉。
「あいつ.......。体壊したら元も子もないだろ」
「あたしもそう思うんだけどね.......」
「俺からも言っとくわ」
前から燿くんに対して、敵視していた学くんだけど、最近はこう心配もしている。
「もう、燿くんに近づくなとは言わないんだ?」
「だって、もうちとせは俺から離れないだろ?」
「.......うん、まぁね」
ストレートに言われると、なんだか照れてしまう。
「ん?歯切れが悪いな?離れるつもりでもあるのか?」
「ま、まさか!違うよ!照れただけ」
顔を近づけてくる学くんにふるふると顔を横に振る。
「だよな?離れるわけないよな」
「うん」
「俺はもう、お前のこと信用してるから、霧島が医務室で仮眠したくらいで何も言わねぇよ」
前とは全然違う表情をあたしに見せてくれる。
「医務室は、そういう場所でもあるんだから。遠慮すんなって言っとくわ」
「お願い」
このままだと燿くんの体が持たない気がしてたけど、それを学くんに言うのも気が引けて困っていた。
だから、学くんから言ってくれて、ありがたいんだ。
「だからといって、仲良くしすぎるのはだめだからな?」
「う、うん」
仲良くしすぎるとはどこまでが入るのだろうか。
「悩みとかは霧島じゃなくて俺に言うこと」
「うん」
その辺は弁えてるつもり。
あたしだって、なにかあったときに違う女の人に相談かされていい気はしないから。
「よーし、行くか」
あたしの手を握って、家から2人で出る。
「もうすぐ結婚式だな」
車の運転をしながら、学くんが言う。
「だね。ちゃんと、会社のみんなにみてもらうのは初めてだからなんだか緊張する」
前にお披露目されたときは、会社関係のひとたちの前での挨拶だったから。
会社のみんなのまえでってのは初めて。
「俺の隣で普通にしていればいんだよ」
ポンっとあたしの頭に手を乗せる。
「よし、ついたぞ」
少し話していたかと思うと、いつの間にかついたいたらしい。
「ここは?」
草花が広がっている風景が見える。
「こっちだよ」
今見ているほうではなく、逆側へとあたしの体をむかせる。
「ここは.......?」
故人が入っているであろう石でつくられたお墓が並んでいる。
「こっち」
学くんがあたしの手を握って、歩いてたどり着いたところのお墓の文字をみて、あたしの目からは涙が溢れる。
「おか、さん.......」
たどり着いたお墓には〝CHINAMI SUZUNO〟と書かれていた。
鈴野 千菜美は、あたしのお母さんだ。
「来たことなかったんだろ?」
「うん、知らなかったから。お母さんのお墓の場所」
「親父は、結構来てるみたいだ。ちとせが来れない分な」
ポンっとあたしの頭を撫でる。
「ありがとう、連れてきてくれて」
お墓の前に座って、手を合わせる。
「お母さん、久しぶり.......」
首からぶら下がっているペンダントに手を触れる。
「ちとせを産んでくれてありがとうございました」
横で学くんも座って手を合わせている。
「.......学くん」
「いまは、感謝してるんだ。ちとせに出会わせてくれたことに」
「うん、お母さん。あたし、幸せになるね!学くんと一緒に」
2人で手をぎゅっと握り合う。
「親父が、ここにちとせを連れて行けってさ」
「お父さんが.......」
自分のお父さんと旦那様のお父さんとが同じ人ってのもなんだか不思議な感覚だろう。
こんな感覚は、あたしたちくらいかもしれない。
でも、これがないときっとあたし達は出会ってないから。
「ちとせのこと、必ず幸せにするので見守っててください」
2人で立ち上がってから、もう一度お母さんが眠るお墓へと告げる学くん。
なんだから、空からお母さんが笑っている気がした。
「もう、ひとりじゃないんだもんね」
ずっと孤独だと思ってた。
でも、1人だと思ってた世界にも、お父さんもタマもいて。学くんもいて。
「もう、ちとせはひとりじゃないよ、ずっと俺と一緒だから」
「うん、幸せになろうね」
ふたりでいれば、怖くないし寂しくない。
もう孤独な夜に泣くこともないし、怖くなることもない。
学くんがいれば大丈夫。
「ずっと、笑って過ごせる」
学くんと一緒なら
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