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第三章~真実~

秘密の関係の最後の思い出

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「学くん、プリクラとって帰ろう」


「えー?」



歩きながら見えてきたゲーセン。
好きな人もできたことがなかったあたしは、その手のことをしたことがない。



「学くんと撮りたい」


「それ、今日なの?ちゃんと付き合ってから記念に撮ろうよ」


「嫌だ。今日がいい」



こんなふうにわがままを言うのははじめてだったかもしれない。
なんで、こんなわがままを言おうと思ったのかはわからない。

でも、いま撮らないととなぜか思った。



「仕方ねぇなー」



満更でもなさそうに、学くんがゲーセンに向かって歩き出す。



「やった」



渋々だけど、応じてくれたことが嬉しくて。
形に残る思い出を作れることが嬉しくて。



「なんで、今日にこだわんの?」



プリクラの機械に入って早々、学くんが口にする。



「教育実習生と生徒としてこうするのは今日で最後でしょ?」


「そうだな」



あたしたちは、休みの日に会うことはない。



「秘密の関係の最後の思い出に、ね」


「……っ」



あたしがそう話すと、面食らったような顔になる。



「学くん?」


「あ、いや。そんなに秘密の関係が好きなら、森ノ宮に就職する?」



冗談ぽく言い、あたしの頬をつねる。



「誰もそんなこと言ってない」


「嘘だって。ほら、プリクラ撮るんだろ?」



機械にコインを入れる。



「うん。ふふ、嬉しい」



彼氏とかいたことなかったし。
友達だって全然いないあたしは、プリクラを誰かと撮るなんてことはなかった。

燿くんが友達だけど、燿くんとプリクラ撮るなんてことはないし。



「そんな、嬉しい?」


「誰かと撮るのはじめてなの。あ、お母さんとは撮ったかな」



記憶にはあまりないけど。
首にぶら下げてるペンダントを開く。



「それ……?」


「うん。唯一あるあたしとお母さんの写真。プリクラだけどね」



昔あっただろう写真はすべて、親戚によって捨てられてしまったから。
お母さんの顔がわかるものはこれだけだった。



「お前の母親か……」



あたしが開いたペンダントに学くんが触れる。
その瞬間、学くんの顔が険しくなった気がした。



「学くん?どうかした?」



ペンダントに触れたまま、静止してる学くんが気になって袖を引っ張る。



「あー、ごめん。お前の母親はもういねぇんだもんなーって思ってさ」


「そうだね。でも、こうやってずっと一緒にいるよ」



ペンダントはずっと肌身離さずつけている。
これは、あたしの体の1部なんだ。



「そっか。よし、とるぞ」



明るく言い放って、プリクラの操作をする。



「慣れてるね、学くん」


「まぁ……それなりに」


「彼女とか……?」


「まぁ、そうだけど。今じゃねぇから」



あたしの頭をポンッと叩いて、操作を続ける。



「ちとせちゃん」



撮影が始まるという時、学くんに名前を呼ばれて彼の顔を見上げる。

見上げたと同時に触れる唇。



──カシャ



唇が触れたと同時に機械からシャッター音がなる。



「チュープリ」



涼しい顔でそんなことを言う学くんだけど、あたしの顔は間違いなく真っ赤だ。
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