上 下
1 / 2

婚約破棄

しおりを挟む
「ライラ! 君との婚約を破棄させてもらう!」

 貴族街にある閑静な公園に、ロメロの声が響いた。驚いて小鳥が飛び立つ。

「何故? 私、何かした?」

 ロメロと私は幼い頃からの許嫁だ。それを今になって婚約破棄だなんて……。

「私は真実の愛を見つけてしまったのだ! その前では親同士が決めた結婚など、無意味だと気が付いた!」

 その声を合図にして、木の影から一人の女が歩み出てくる。ロメロに近づくと、腕を絡めてしなだれた。

「おぉ、ミーニャ。私の愛しい人よ」
「ロメロ。早く行きましょう」
「そうだな。もう用事は済んだ」

 わざとらしい。諦めさせる為にやっているの? それとも、恥をかかせる為?

 二人を見ていると、息が苦しくなる。

 悔しくて、悲しくて、涙が落ちる。

 二人は何も言えなくなった私を見て、笑いながら行ってしまった。

 自分の泣き声だけが公園に広がる。

 このまま家に帰る気にはならない。酷い顔を両親に見せたくない。涙が止まらない。

 私は下を向いたまま、王都を歩き始めた。


#


 貴族街を抜け、大通りを歩いていると色々な人に振り返られる。貴族の娘が一人で歩いているのが珍しいのだろうか? それとも泣き腫らした顔が滑稽なのか?

 居心地が悪くなって裏道へと入る。

 人通りの少なさが、私の心を癒した。

 少し気持ちが落ち着き、顔を上げるとある看板が目に付く。

『失恋茶房』

 まるで、今の私の為に作られたような店だ。センスの良いレンガ造りの外構に引き寄せられ、ドアノブに手を掛けた。

「いらっしゃいませ」

 低く落ち着いた男性の声が迎えてくれた。カウンターだけの店内には、切長の目をした店主と二人の女がいた。

 服装を見る限り、女達は貴族令嬢のようだ。

「どうぞ、おかけ下さい」

 水の入ったグラスを置かれ、席につくよう言われた。店主の声には、進んで従いたくなるような不思議な魅力がある。

「どうされましたか?」
「……婚約破棄されて、呆然として王都を歩いているうちにここへ辿り着きました……」

 初対面なのに、全てを打ち明けたい。と思ってしまう。

「貴方もなのね」
「私達もよ」

 私の告白を聞いていた二人が、こちらを向く。見事に泣き腫らした顔だ。

「ここにいる三人とも、今日婚約破棄された。ってことですか?」

 少しだけ、声が弾んでしまった。仲間を見つけたような感覚になる。

「そういうことになるわね」と手前の女。

「不思議な出会いもあるものね」と奥の女。

 三人で顔を見合わせて驚いていると、スッとカウンターにティーセットが出された。

「ワインに果実をつけて、温めたものです」

 店主はそう言いながら、三つのカップに赤い液体を注ぐ。芳醇な香りが店内を漂った。

 一口飲むと、泣き疲れていた身体が急にはっきりとした。血が全身を巡り、火照る。

 自然と三人は饒舌になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹
恋愛
「君だけを愛している」 「サム、もちろん私も愛しているわ」  伯爵令嬢のリリー・スティアートは八年前からずっと恋焦がれていた騎士サムの甘い言葉を聞いていた。そう……『私でない女性』に対して言っているのを。  告白もしていないのに振られた私は、ショックで泣いていると喧嘩ばかりしている大嫌いな幼馴染の魔法使いアイザックに見つかってしまう。  泣いていることを揶揄われると思いきや、なんだか急に優しくなって気持ち悪い。  リリーとアイザックの関係はどう変わっていくのか?そしてなにやら、リリーは誰かに狙われているようで……一体それは誰なのか?なぜ狙われなければならないのか。 どんな形であれハッピーエンド+完結保証します。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...