14 / 60
東京
到着
しおりを挟む
崩れ落ちているのは首都高速湾岸線だろうか? その下をくぐり抜けると、幾つもの島が見えてきた。どれも深い森に覆われ、人の気配はない。
退廃した東京の様子に、視聴者達は言葉を失っていた。コメント欄に、無人島を出発した時の元気はない。デカムシのバフでパドルを漕ぎ、高速航行していた時はあんなに盛り上がっていたのに……。
丸木舟をつけるのにちょうどいい砂浜を見つけた。これは島ではないだろ。つまり、本島。俺はついに東京にたどり着いた。
「東京に着いたぞー!!」
砂浜にパドルで「着いたー!!」と書いてカメラに映す。
コメント:……おう。おめでとう
コメント:そっか。これが東京か
コメント:昭和島かな?森だったけど
コメント:羽田空港どうなってた?
コメント:飛行機も飛んでなかったし……
コメント:そも、船とすれ違わなかった
クソ! こいつらいつまで凹んでやがるんだ!! 未来は未来だって開き直るしかないだろ!!
砂浜に「怒」の字を書いて映す。
コメント:いや、だってなぁ……
コメント:ごめん。普通にショックなの。
コメント:もしかして、人間滅んでる?
コメント:世界にルーメンしかいない?
コメント:せつねえええ
コメント:はぁ……
全く! いじけやがって!! 俺がとっとと未来人を見つければいいんだろ? そんな簡単に人類が滅ぶわきゃねーんだよ!
波に攫われないところまで丸木舟を引き上げ、いよいよ探索を開始する。ボロボロに朽ちたアスファルト、樹木に侵食されたマンション。どのような経緯でこんなことになったのかは分からないが、自然の逆襲を受けたような光景だ。
大きな自然災害や日本本土が巻き込まれるような戦争があったのかもしれない。しかし、人間が滅んだなんてことはない筈だ。人間はしぶとい。それは俺自身が実証している。
パドルをアスファルトに立て、人差し指で支える。
「よーし、パドルが倒れた方に進むぞ!」
視聴者には聞こえていないだろうが、絵でなんとなくわかるだろう。いくぞ!
「とりゃ!」
──カラン。と、倒れたパドルがある方向を指す。それをカメラに映す。
コメント:そっちに行くってこと?
コメント:ルーメンさん、ポジティブ
コメント:俺達が凹んでても仕方ない
コメント:一番辛いのはルーメンさんか
コメント:えっ、西にいくの?
コメント:さっきのが昭和島なら、西方面に進むのかな?
うーん。たぶん、西なのかな? 正直自信はない。ただ重要なのは未来人に会うことだ。俺は、パドルを信じるぞ。
「それでは、行ってみましょうー!!」
俺は穴ぼこのアスファルトの道を進み始めた。
#
森に飲まれた街にいるのは、今のところ小動物だけだ。今も赤い目をしたコオロギをパドルで叩き殺したところだ。このコオロギ、十五センチぐらいあるぞ。カメラに映すとコメント欄が悲鳴で溢れていた。
とりあえず焼いて食うか。幸いなことに薪は何処にでも落ちている。
廃屋で見つけてきたダイニングチェアに座り、アスファルトの上で焚き火をする。現代でこんなことをしていれば即通報だろうが、ここでは俺を咎める者はいない。妙な解放感がある。
胴体から外した後あしを火で炙ると香ばしい。少し海老に似ているかもしれない。カメラの前で食べるとしよう。
「いっただきまーす!」
コメント:オエエエエエエエー!!
コメント:コオロギは食べられるよね
コメント:あしのトゲトゲ痛そう
コメント:蟹の脚みたいなもんやろ?
コメント:デカい昆虫が普通に見える
コメント:わかる現代の虫が小さいよな
大分コメント欄に活気が戻ってきたな。やはり、賑やかな方がいい。
「いやー、これは美味い。車海老に近いな」
しかし、未来のゲテモノはどうしてこんなに美味いのか。昆虫や節足動物、何を食べても外れがない。食糧問題の救世主は昆虫なんてことが言われるが、少なくともここでは本当のことだ。
「お、そろそろ胴体も焼けて来たかな?」
遠赤外線で焼いていた胴体もこんがり焼けてきた。そろそろ──。
……たす……て……
うん? はるか遠くから人の声が聞こえる。遠過ぎて、自分の耳で聞いているのではないような感覚だ。これはもしや、この巨大コオロギのバフか?
……たす……て……
やはり間違いない。人が助けを求めている。俺は焚き火から炭になりかけた薪を取り出し、廃屋の壁に黒く書き殴った。その文字は「人」だ。カメラにその文字を映すとコメント欄が凄まじい速さで流れ始めた。
さて、面白くなって来たぞ! 配信者冥利に尽きるぜ。
乾燥デカムシを頬張ると、俺は焚き火の後始末もせずに声のする方に向かって走り始めた。
退廃した東京の様子に、視聴者達は言葉を失っていた。コメント欄に、無人島を出発した時の元気はない。デカムシのバフでパドルを漕ぎ、高速航行していた時はあんなに盛り上がっていたのに……。
丸木舟をつけるのにちょうどいい砂浜を見つけた。これは島ではないだろ。つまり、本島。俺はついに東京にたどり着いた。
「東京に着いたぞー!!」
砂浜にパドルで「着いたー!!」と書いてカメラに映す。
コメント:……おう。おめでとう
コメント:そっか。これが東京か
コメント:昭和島かな?森だったけど
コメント:羽田空港どうなってた?
コメント:飛行機も飛んでなかったし……
コメント:そも、船とすれ違わなかった
クソ! こいつらいつまで凹んでやがるんだ!! 未来は未来だって開き直るしかないだろ!!
砂浜に「怒」の字を書いて映す。
コメント:いや、だってなぁ……
コメント:ごめん。普通にショックなの。
コメント:もしかして、人間滅んでる?
コメント:世界にルーメンしかいない?
コメント:せつねえええ
コメント:はぁ……
全く! いじけやがって!! 俺がとっとと未来人を見つければいいんだろ? そんな簡単に人類が滅ぶわきゃねーんだよ!
波に攫われないところまで丸木舟を引き上げ、いよいよ探索を開始する。ボロボロに朽ちたアスファルト、樹木に侵食されたマンション。どのような経緯でこんなことになったのかは分からないが、自然の逆襲を受けたような光景だ。
大きな自然災害や日本本土が巻き込まれるような戦争があったのかもしれない。しかし、人間が滅んだなんてことはない筈だ。人間はしぶとい。それは俺自身が実証している。
パドルをアスファルトに立て、人差し指で支える。
「よーし、パドルが倒れた方に進むぞ!」
視聴者には聞こえていないだろうが、絵でなんとなくわかるだろう。いくぞ!
「とりゃ!」
──カラン。と、倒れたパドルがある方向を指す。それをカメラに映す。
コメント:そっちに行くってこと?
コメント:ルーメンさん、ポジティブ
コメント:俺達が凹んでても仕方ない
コメント:一番辛いのはルーメンさんか
コメント:えっ、西にいくの?
コメント:さっきのが昭和島なら、西方面に進むのかな?
うーん。たぶん、西なのかな? 正直自信はない。ただ重要なのは未来人に会うことだ。俺は、パドルを信じるぞ。
「それでは、行ってみましょうー!!」
俺は穴ぼこのアスファルトの道を進み始めた。
#
森に飲まれた街にいるのは、今のところ小動物だけだ。今も赤い目をしたコオロギをパドルで叩き殺したところだ。このコオロギ、十五センチぐらいあるぞ。カメラに映すとコメント欄が悲鳴で溢れていた。
とりあえず焼いて食うか。幸いなことに薪は何処にでも落ちている。
廃屋で見つけてきたダイニングチェアに座り、アスファルトの上で焚き火をする。現代でこんなことをしていれば即通報だろうが、ここでは俺を咎める者はいない。妙な解放感がある。
胴体から外した後あしを火で炙ると香ばしい。少し海老に似ているかもしれない。カメラの前で食べるとしよう。
「いっただきまーす!」
コメント:オエエエエエエエー!!
コメント:コオロギは食べられるよね
コメント:あしのトゲトゲ痛そう
コメント:蟹の脚みたいなもんやろ?
コメント:デカい昆虫が普通に見える
コメント:わかる現代の虫が小さいよな
大分コメント欄に活気が戻ってきたな。やはり、賑やかな方がいい。
「いやー、これは美味い。車海老に近いな」
しかし、未来のゲテモノはどうしてこんなに美味いのか。昆虫や節足動物、何を食べても外れがない。食糧問題の救世主は昆虫なんてことが言われるが、少なくともここでは本当のことだ。
「お、そろそろ胴体も焼けて来たかな?」
遠赤外線で焼いていた胴体もこんがり焼けてきた。そろそろ──。
……たす……て……
うん? はるか遠くから人の声が聞こえる。遠過ぎて、自分の耳で聞いているのではないような感覚だ。これはもしや、この巨大コオロギのバフか?
……たす……て……
やはり間違いない。人が助けを求めている。俺は焚き火から炭になりかけた薪を取り出し、廃屋の壁に黒く書き殴った。その文字は「人」だ。カメラにその文字を映すとコメント欄が凄まじい速さで流れ始めた。
さて、面白くなって来たぞ! 配信者冥利に尽きるぜ。
乾燥デカムシを頬張ると、俺は焚き火の後始末もせずに声のする方に向かって走り始めた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話
亘善
ファンタジー
【点滴穿石】という四字熟語ユニークギフト持ちの龍泉麟瞳は、Aランクダンジョンの攻略を失敗した後にパーティを追放されてしまう。地元の岡山に戻った麟瞳は新たに【幸運】のスキルを得て、家族や周りの人達に支えられながら少しずつ成長していく。夢はSランク探索者になること。これは、夢を叶えるために日々努力を続ける龍泉麟瞳のお話である。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜
ネリムZ
ファンタジー
この世界にはいくつものダンジョンが存在する。それは国ごとの資源物資でもあり、災害を引き起こすモノでもあった。
魔物が外に出ないように倒し、素材を持ち帰る職業を探索者と呼ぶ。
探索者にはありきたりなスキル、レベルと言った概念が存在する。
神宮寺星夜は月月火水木金金の勤務をしていた。
働けているなら問題ない、そんな思考になっていたのだが、突然のクビを受けてしまう。
貯金はあるがいずれ尽きる、生きる気力も失われていた星夜は探索者で稼ぐ事に決めた。
受付で名前を登録する時、なぜか自分で入力するはずの名前の欄に既に名前が入力されていた?!
実はその受付穣が⋯⋯。
不思議で懐かしな縁に気づかない星夜はダンジョンへと入り、すぐに異変に気づいた。
声が女の子のようになっていて、手足が細く綺麗であった。
ステータスカードを見て、スキルを確認するとなんと──
魔法少女となれる星夜は配信を初め、慣れない手つきで録画を開始した。
魔物を倒す姿が滑稽で、視聴者にウケて初配信なのにバズってしまう!
だが、本人は録画だと思っているため、それに気づくのは少し先の話である。
これは魔法少女の力を中途半端に手に入れたおっさんがゆったりと殴り、恋したり、嘆いたり、やっぱりゆぅたりする話だ。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる