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無人島にて
とにかく逃げろ
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──うおおおおおおお!! 自分の身体が制御できねぇぇ!!
腕を顔の前でクロスにし、露出を最低限にしながら風を切って走る。一度本気で踏み切ると、二十メーター以上飛んでしまうからコントロールが難しい。
少しだけ首を振って背後を見ると、遠くに黒い雲が見えた。蜂の集団が確実に俺を追って来ている。
海岸線を逃げているが、このままではデカムシのバフが切れて追いつかれてしまう。身を隠すためにも森へ入る必要があるか? しかし更なる敵を呼び寄せてしまう恐れもある……。
──ストンと力が抜けた。マズイ! 重ね掛けのバフが一つ減った! もう悩んでいる場合じゃないな。
着地のタイミングでグッと踏ん張り、強引に身体の向きを変えて森の中へ突っ込む。小枝がバシバシ当たるが、無視だ無視だ! 一々リアクションなんて取ってられねえ!!
誰も立ち入っていない腐葉土は恐ろしく柔らかい。踏み抜くと体勢を崩してすっ転んでしまう。忍者よろしく大木に登った俺は枝から枝に向けて特大のジャンプを繰り返す。
踏み込むタイミングで結構折ってしまっているが、省みる余裕は、ないっ!
──ブブブブブブブブブブンンンン!!
凶悪な羽音が迫る。すぐ真後ろに、蜂の気配がある。先発隊か?
ジャンプのタイミングで腰のサバイバルナイフを抜く。身体を捻るように踏み切ると、すぐ目の前に巨大なスズメバチがいた。全長が人の顔ほどある。
「オラッ!!」
──グジュ!
振り回したナイフが蜂の胸部に刺さり、俺はそのまま落下した。その間、スズメバチは大顎をカチカチと鳴らす。ふん。流石に言葉は喋らないか。尻からは毒針が何度も出入りして忙しない。
ダンッ! と着地してしばらく歩くと、ようやくデカバチは静かになってきた。ナイフから抜いてタモ網に放り込むと、脚を痙攣させるだけでもう襲ってくる元気はないようだ。
見渡すとまだ他のスズメバチの本隊は追いついていないらしい。振り切ったか? しかし油断は禁物だ。バフが効いているうちに距離を稼がないと……。
少し走ると地面の感じが随分と変わってきた。相変わらず土だが、大木の生えてないところが続いている。まるで、かつて舗装されていた道路の上に土が被さったように……。
……これは、いよいよ人工物の気配だぞ。俺の足元はぼろぼろになったコンクリートが広がっている。もうバフは残っていないが、近くにデカバチの気配はない。これからは位置を知られないように静かに行動すべきかもしれない。
俺は今までが嘘のようにゆっくりと歩を進める。コンクリートの道の左右には苔むした壁が見え始める。それはどんどん高くなり、俺の背を超え、アーチ状になって陽の光を遮った。
いつの間にか、建造物の中に入っていたらしい。石造りのトンネルにはところどころ扉がある。気になって一番手前の扉を見てみると、小さなプレートがついていた。
『男子便所』
……漢字で書かれてある。ここは異世界ではない。日本だ。
タモ網に目を遣る。過去の日本にこんなデカいスズメバチはいない。つまり……俺は未来の日本に来たことになる。
急に不安になってきた。訳の分からない状況でも、まだ異世界の方がよかった気がする。ケモ耳がっ! エルフがっ! と視聴者と騒いでいた方が、馬鹿のままいられた気がする。俺はこれから、未来の日本を見ることになるのか……。
俺は生き物の気配のない建造物の中で壁に保たれて座り込み、そのまま目を閉じた。暇があったら配信する! がモットーの俺だったが、とても配信をするような気分にはなれなかった。
腕を顔の前でクロスにし、露出を最低限にしながら風を切って走る。一度本気で踏み切ると、二十メーター以上飛んでしまうからコントロールが難しい。
少しだけ首を振って背後を見ると、遠くに黒い雲が見えた。蜂の集団が確実に俺を追って来ている。
海岸線を逃げているが、このままではデカムシのバフが切れて追いつかれてしまう。身を隠すためにも森へ入る必要があるか? しかし更なる敵を呼び寄せてしまう恐れもある……。
──ストンと力が抜けた。マズイ! 重ね掛けのバフが一つ減った! もう悩んでいる場合じゃないな。
着地のタイミングでグッと踏ん張り、強引に身体の向きを変えて森の中へ突っ込む。小枝がバシバシ当たるが、無視だ無視だ! 一々リアクションなんて取ってられねえ!!
誰も立ち入っていない腐葉土は恐ろしく柔らかい。踏み抜くと体勢を崩してすっ転んでしまう。忍者よろしく大木に登った俺は枝から枝に向けて特大のジャンプを繰り返す。
踏み込むタイミングで結構折ってしまっているが、省みる余裕は、ないっ!
──ブブブブブブブブブブンンンン!!
凶悪な羽音が迫る。すぐ真後ろに、蜂の気配がある。先発隊か?
ジャンプのタイミングで腰のサバイバルナイフを抜く。身体を捻るように踏み切ると、すぐ目の前に巨大なスズメバチがいた。全長が人の顔ほどある。
「オラッ!!」
──グジュ!
振り回したナイフが蜂の胸部に刺さり、俺はそのまま落下した。その間、スズメバチは大顎をカチカチと鳴らす。ふん。流石に言葉は喋らないか。尻からは毒針が何度も出入りして忙しない。
ダンッ! と着地してしばらく歩くと、ようやくデカバチは静かになってきた。ナイフから抜いてタモ網に放り込むと、脚を痙攣させるだけでもう襲ってくる元気はないようだ。
見渡すとまだ他のスズメバチの本隊は追いついていないらしい。振り切ったか? しかし油断は禁物だ。バフが効いているうちに距離を稼がないと……。
少し走ると地面の感じが随分と変わってきた。相変わらず土だが、大木の生えてないところが続いている。まるで、かつて舗装されていた道路の上に土が被さったように……。
……これは、いよいよ人工物の気配だぞ。俺の足元はぼろぼろになったコンクリートが広がっている。もうバフは残っていないが、近くにデカバチの気配はない。これからは位置を知られないように静かに行動すべきかもしれない。
俺は今までが嘘のようにゆっくりと歩を進める。コンクリートの道の左右には苔むした壁が見え始める。それはどんどん高くなり、俺の背を超え、アーチ状になって陽の光を遮った。
いつの間にか、建造物の中に入っていたらしい。石造りのトンネルにはところどころ扉がある。気になって一番手前の扉を見てみると、小さなプレートがついていた。
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……漢字で書かれてある。ここは異世界ではない。日本だ。
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急に不安になってきた。訳の分からない状況でも、まだ異世界の方がよかった気がする。ケモ耳がっ! エルフがっ! と視聴者と騒いでいた方が、馬鹿のままいられた気がする。俺はこれから、未来の日本を見ることになるのか……。
俺は生き物の気配のない建造物の中で壁に保たれて座り込み、そのまま目を閉じた。暇があったら配信する! がモットーの俺だったが、とても配信をするような気分にはなれなかった。
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