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ギルドの副支部長
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翌朝、冒険者ギルドへ向かった俺達を待っていたのはいつもとは一風変わった喧騒だった。
「ウチの主人がもう3日も帰ってきてないのよ!簡単な採取依頼だって言ってたのに。ギルドは何故探しに行ってくれないのよ!」
「ですから奥さん。さっきから何度も言ってますけど、冒険者ってのは自己責任の職業です。帰って来ないからって、おいそれと冒険者ギルドが助けにいくことはないんですよ」
恰幅のよい女と男の職員が受付カウンターで押し問答をしていた。その横ではモニカが普段と変わらない表情で淡々と冒険者の列を捌いている。流石だ。
相変わらず依頼掲示板に張り出される依頼の数は多い。
その依頼の中心はレガス周辺の町や村から出される討伐依頼だ。森の浅いところにそこそこ強力な魔物が出る様になったせいで、元々その辺りにいたフォレストウルフやマッドボア等の魔物が押し出されるように森から出てきてしまっているのだ。
また、森の浅いところの危険度が跳ね上がったせいで普段なら冒険者ギルドに依頼されないような採取依頼も多く張り出されている。戻ってこなくなった冒険者もそんな採取依頼を受けて西の森に出掛けたのだろう。普段なら簡単な採取依頼も今は運が悪いと命を落とすような割りに合わないものになっているのだ。
「ちょっといいかな?」
掲示板に群がる冒険者達の様子を眺めていると、眼鏡を掛けた横分けの小綺麗な男が俺達に話し掛けてきた。
「もー、仕方ないわねー!サイン?握手?本当はダメなんだけど、特別よ!」
シシーが無い胸を張って前に立つ。
「うっ、いや、君たちのパーティーに話しがあるんだが……」
シシーに先制されて男はたじろぎながらも話しを進めようとしている。これから何かの話があるのだろうが既にこちらに有利に進み始めたな。シシーもたまには役に立つ。
「失礼ですが、あなたは?」
「おっと、すまない。私は冒険者ギルド、レガス支部の副支部長を務めるマメスという。君たち、シルバーアサルトに話があるのだが、少し時間を貰えないだろうか?」
「わかりました。ここで話ますか?」
「いや、ギルドの応接室に行こう。ついてきたまえ」
「お兄ちゃん!このソファ、フカフカだよ!冒険者から搾取したお金でフカフカのソファだよ!」
シシーの果敢な攻めにマメスが苦笑いを浮かべる。冒険者ギルドの応接室は作りのよい家具が置かれていて、なかなかに豪華なものだった。搾取しているかはともかく、冒険者ギルドが儲けていることは間違いないだろう。
「では早速、要件に移らさせてもらう」
シシーにこれ以上喋らせない為に、マメスは急いで話始めた。
「君たちも気付いている通り、今、西の森に異変が起きている。さっき受付でも騒ぎがあったが、この10日間だけで西の森に行った冒険者が4人、行方不明になっている」
「4人も?」
「そうだ。ギルドではこれを西の森の魔物の生態系の変化に因るものとしているが、何が原因で生態系が変わったのかについてまでは掴めていない。そこで今回、調査団を結成することに決定した」
昨日、ダツマが話していた通りだ。
「君たちにはその調査団に参加して貰いたい」
「俺達はまだDランクの冒険者ですが……」
「確かに君たちはDランクだ。しかし戦闘力についてはCランク上位、状況によってはBランク相当だと見ている。今回、調査団と銘打ってはいるが、強力な魔物と戦闘になる可能性が非常に高い。君たちの力が必要なんだ」
「Bランクの冒険者は参加しないんですか?」
「1人は参加が決まっている。《剛腕》エルムンドだ」
「あの剛腕が?」
初めて聞く名前だが、適当に相槌を打つ。
「ああ、あの剛腕だ。だから魔法戦の得意なシルバーアサルトと組ませて戦力をバランスのよいものにする狙いもある」
うん?どういうことだ?剛腕は魔法が苦手ってことなのか?
「なるほど。分かりました。調査はいつから開始ですか?」
「君たちさえ良ければ明日、他のメンバーと顔合わせをして明後日から調査開始だ。団長はエルムンドになる」
「俺達は明日から動けるので大丈夫です。それで報酬についてですが」
「原因の解明で1人大銀貨5枚、原因の排除でさらに金貨1枚、倒した魔物の素材は調査団のメンバーで山分けしてもらって構わない」
「お兄ちゃん、このソファがフカフカだから眠たくなってきた。帰ろうよー」
シシーが素晴らしいタイミングで牽制を入れた。
「ま、待ってくれ!この手のギルドが結成する調査団は金銭での報酬が少ない代わりに、ランクアップの査定に大きく加点が付くんだ。君たちについては依頼達成で全員Cランクを約束しよう!」
「それにしたって少し安過ぎではないですか?今提示した額は他の調査団のメンバーと同じとは思えません。俺達の実力を買ってくれているなら、そこは同じ額じゃないと納得出来ないですね」
シシーもダツマも黙ってマメスを見ている。
「分かった。原因解明で金貨1枚、原因排除で金貨2枚だ。これは他のメンバーに提示した額と同じだ。文句はなかろう」
「調査団の件、引き受けます」
さて、明日から大変そうだな。主にボスのご機嫌取りに。
「ウチの主人がもう3日も帰ってきてないのよ!簡単な採取依頼だって言ってたのに。ギルドは何故探しに行ってくれないのよ!」
「ですから奥さん。さっきから何度も言ってますけど、冒険者ってのは自己責任の職業です。帰って来ないからって、おいそれと冒険者ギルドが助けにいくことはないんですよ」
恰幅のよい女と男の職員が受付カウンターで押し問答をしていた。その横ではモニカが普段と変わらない表情で淡々と冒険者の列を捌いている。流石だ。
相変わらず依頼掲示板に張り出される依頼の数は多い。
その依頼の中心はレガス周辺の町や村から出される討伐依頼だ。森の浅いところにそこそこ強力な魔物が出る様になったせいで、元々その辺りにいたフォレストウルフやマッドボア等の魔物が押し出されるように森から出てきてしまっているのだ。
また、森の浅いところの危険度が跳ね上がったせいで普段なら冒険者ギルドに依頼されないような採取依頼も多く張り出されている。戻ってこなくなった冒険者もそんな採取依頼を受けて西の森に出掛けたのだろう。普段なら簡単な採取依頼も今は運が悪いと命を落とすような割りに合わないものになっているのだ。
「ちょっといいかな?」
掲示板に群がる冒険者達の様子を眺めていると、眼鏡を掛けた横分けの小綺麗な男が俺達に話し掛けてきた。
「もー、仕方ないわねー!サイン?握手?本当はダメなんだけど、特別よ!」
シシーが無い胸を張って前に立つ。
「うっ、いや、君たちのパーティーに話しがあるんだが……」
シシーに先制されて男はたじろぎながらも話しを進めようとしている。これから何かの話があるのだろうが既にこちらに有利に進み始めたな。シシーもたまには役に立つ。
「失礼ですが、あなたは?」
「おっと、すまない。私は冒険者ギルド、レガス支部の副支部長を務めるマメスという。君たち、シルバーアサルトに話があるのだが、少し時間を貰えないだろうか?」
「わかりました。ここで話ますか?」
「いや、ギルドの応接室に行こう。ついてきたまえ」
「お兄ちゃん!このソファ、フカフカだよ!冒険者から搾取したお金でフカフカのソファだよ!」
シシーの果敢な攻めにマメスが苦笑いを浮かべる。冒険者ギルドの応接室は作りのよい家具が置かれていて、なかなかに豪華なものだった。搾取しているかはともかく、冒険者ギルドが儲けていることは間違いないだろう。
「では早速、要件に移らさせてもらう」
シシーにこれ以上喋らせない為に、マメスは急いで話始めた。
「君たちも気付いている通り、今、西の森に異変が起きている。さっき受付でも騒ぎがあったが、この10日間だけで西の森に行った冒険者が4人、行方不明になっている」
「4人も?」
「そうだ。ギルドではこれを西の森の魔物の生態系の変化に因るものとしているが、何が原因で生態系が変わったのかについてまでは掴めていない。そこで今回、調査団を結成することに決定した」
昨日、ダツマが話していた通りだ。
「君たちにはその調査団に参加して貰いたい」
「俺達はまだDランクの冒険者ですが……」
「確かに君たちはDランクだ。しかし戦闘力についてはCランク上位、状況によってはBランク相当だと見ている。今回、調査団と銘打ってはいるが、強力な魔物と戦闘になる可能性が非常に高い。君たちの力が必要なんだ」
「Bランクの冒険者は参加しないんですか?」
「1人は参加が決まっている。《剛腕》エルムンドだ」
「あの剛腕が?」
初めて聞く名前だが、適当に相槌を打つ。
「ああ、あの剛腕だ。だから魔法戦の得意なシルバーアサルトと組ませて戦力をバランスのよいものにする狙いもある」
うん?どういうことだ?剛腕は魔法が苦手ってことなのか?
「なるほど。分かりました。調査はいつから開始ですか?」
「君たちさえ良ければ明日、他のメンバーと顔合わせをして明後日から調査開始だ。団長はエルムンドになる」
「俺達は明日から動けるので大丈夫です。それで報酬についてですが」
「原因の解明で1人大銀貨5枚、原因の排除でさらに金貨1枚、倒した魔物の素材は調査団のメンバーで山分けしてもらって構わない」
「お兄ちゃん、このソファがフカフカだから眠たくなってきた。帰ろうよー」
シシーが素晴らしいタイミングで牽制を入れた。
「ま、待ってくれ!この手のギルドが結成する調査団は金銭での報酬が少ない代わりに、ランクアップの査定に大きく加点が付くんだ。君たちについては依頼達成で全員Cランクを約束しよう!」
「それにしたって少し安過ぎではないですか?今提示した額は他の調査団のメンバーと同じとは思えません。俺達の実力を買ってくれているなら、そこは同じ額じゃないと納得出来ないですね」
シシーもダツマも黙ってマメスを見ている。
「分かった。原因解明で金貨1枚、原因排除で金貨2枚だ。これは他のメンバーに提示した額と同じだ。文句はなかろう」
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