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まさかの訪問
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「ミオーネ様! 大変です!」
まだ眠たい休日の朝。侍女のエマが激しいノックの後に部屋に踊り込んできた。
「騒々しいわね。どうしたの?」
「お茶会で会われたケイロス様が訪ねて参りました!」
「えっ、いきなり……!? どうしよう……」
社交辞令じゃなかったの? まさか本当に会いに来るなんて……。
「とりあえず応接室でお待ち頂いております! 早く若返りの秘薬を飲んでください!! 着替えにお化粧、急ぎますよ!」
エマに促され、鏡台の引き出しから秘薬の入った瓶を取り出して飲み干す。約二十歳若返る量に調整してある。お茶会でケイロス様に会った時と、同じ容姿になる筈だ。
「エマ、どんな服を着ればよいかしら? やはりドレス?」
「いえ、ケイロス様は軽装でしたので、それに合わせた服を用意します!」
なるほどね。いつでも豪華に着飾れば良いってものではないのか……。勉強になる。
「お化粧も?」
「そうですね。お茶会の時より軽めにします。ミオーネ様本来の美しさを引き立たせる方向性でいきます!」
エマは鏡台の上にバッとメイクボックスを広げ、鋭い目つきになる。そして凄まじい速さで手を動かし始めた。
#
「お待たせしました」
扉を開けて現れたのは、以前会った時よりも親しみ易い雰囲気のミオーネだった。茶会の時の近寄り難い美貌ではなく、どこか温かで柔らかい。
「……いや。突然訪ねて済まなかったな。急に休みが取れたから、そのまま来てしまった。迷惑ではなかったか?」
ソファーから立ち上がりミオーネと向き合う。美しい刺繍の施されたチュニックがとても良く似合っている。
「まさか……! 本当に来てくださって嬉しいです」
ミオーネは頬を赤らめた。やはり美しい。
誰にも渡したくない。そんな感情がわいてくる。まさか四十歳を前にして二十歳にも届かぬ娘に恋をするとは。茶会を勧めてくれた国王に感謝せねばなるまい。
「……どうなさいました?」
ミオーネが上目遣いで首を傾げた。
「いや、見惚れていただけだ」
自分で言って恥ずかしくなるが、これも国王の教えだ。「女性には素直に自分の気持ちを伝えるべし」と茶会の前に教えられたのだ。
「もう……! 揶揄わないで下さい」
揶揄ってはいないのだが……。さて、そろそろ要件を切り出そう。
「ところでミオーネ。君は華の泉を知っているか?」
「華の泉……ですか?」
「あぁ。そうだ。王都の西の森にある泉だ。今の季節、色とりどりの花に囲まれてとても美しいそうだ。今日はそこへ行ってみないか?」
ミオーネが一瞬考え込む。うっ……駄目だったか?
「はい、是非行ってみたいです! 案内して下さりますか?」
「表に馬車を停めてある。早速行こう」
なるべく自然に。
俺はミオーネの手を取り、歩き始めた。
まだ眠たい休日の朝。侍女のエマが激しいノックの後に部屋に踊り込んできた。
「騒々しいわね。どうしたの?」
「お茶会で会われたケイロス様が訪ねて参りました!」
「えっ、いきなり……!? どうしよう……」
社交辞令じゃなかったの? まさか本当に会いに来るなんて……。
「とりあえず応接室でお待ち頂いております! 早く若返りの秘薬を飲んでください!! 着替えにお化粧、急ぎますよ!」
エマに促され、鏡台の引き出しから秘薬の入った瓶を取り出して飲み干す。約二十歳若返る量に調整してある。お茶会でケイロス様に会った時と、同じ容姿になる筈だ。
「エマ、どんな服を着ればよいかしら? やはりドレス?」
「いえ、ケイロス様は軽装でしたので、それに合わせた服を用意します!」
なるほどね。いつでも豪華に着飾れば良いってものではないのか……。勉強になる。
「お化粧も?」
「そうですね。お茶会の時より軽めにします。ミオーネ様本来の美しさを引き立たせる方向性でいきます!」
エマは鏡台の上にバッとメイクボックスを広げ、鋭い目つきになる。そして凄まじい速さで手を動かし始めた。
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「お待たせしました」
扉を開けて現れたのは、以前会った時よりも親しみ易い雰囲気のミオーネだった。茶会の時の近寄り難い美貌ではなく、どこか温かで柔らかい。
「……いや。突然訪ねて済まなかったな。急に休みが取れたから、そのまま来てしまった。迷惑ではなかったか?」
ソファーから立ち上がりミオーネと向き合う。美しい刺繍の施されたチュニックがとても良く似合っている。
「まさか……! 本当に来てくださって嬉しいです」
ミオーネは頬を赤らめた。やはり美しい。
誰にも渡したくない。そんな感情がわいてくる。まさか四十歳を前にして二十歳にも届かぬ娘に恋をするとは。茶会を勧めてくれた国王に感謝せねばなるまい。
「……どうなさいました?」
ミオーネが上目遣いで首を傾げた。
「いや、見惚れていただけだ」
自分で言って恥ずかしくなるが、これも国王の教えだ。「女性には素直に自分の気持ちを伝えるべし」と茶会の前に教えられたのだ。
「もう……! 揶揄わないで下さい」
揶揄ってはいないのだが……。さて、そろそろ要件を切り出そう。
「ところでミオーネ。君は華の泉を知っているか?」
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「あぁ。そうだ。王都の西の森にある泉だ。今の季節、色とりどりの花に囲まれてとても美しいそうだ。今日はそこへ行ってみないか?」
ミオーネが一瞬考え込む。うっ……駄目だったか?
「はい、是非行ってみたいです! 案内して下さりますか?」
「表に馬車を停めてある。早速行こう」
なるべく自然に。
俺はミオーネの手を取り、歩き始めた。
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