5 / 5
凱旋と……
しおりを挟む
王都では至る所に国旗が掲げられている。王国軍の勝利を祝うものだ。
流石に今日は教会での務めもない。枢機卿からも「自由にしてよい」と言われている。
大通りまで歩くと、群衆で溢れかえっていた。皆、凱旋するアルベール殿下を一目見ようと集まっているのだ。
あの日、殿下を癒した後、私は護衛の兵士に頼み込み戦場を離れた。私の癒しの力は一人につき一度きり。任務は完了したと自分に言い聞かせて。
王都に逃げ帰り、枢機卿に事情を説明すると、いつも通りの生活に戻った。そう。道具としての氷の聖女に。
人垣の中に身を埋めていると、どんどん熱気が増してくる。そして、歓声が近づいてきた。
背を伸ばして見ると、騎馬隊が堂々と進んでいる。
戦場から戻ってそのままなのだろう。煌びやかなパレードというより、平原での覇気を纏ったまま荒々しい行軍。その雰囲気がより人々を熱狂させているように思えた。
騎馬隊が私の前を通る。
その中央には脇を近衛兵に固められたアルベール殿下の姿。
あぁ。良かった。ご無事だった。
私はホッとして気が抜ける。そして、教会に戻ろうと人混みを掻き分け──。
「エマ!」
私を呼ぶ声がした。おかしい。そんな筈はない。
「エマ! 待ってくれ!!」
どよめきが起こる。パレードに背を向け立ち去ろうとする私の方に誰かが来る。
後ろから手を握られた。ゴツゴツとしてあたたかい。私はこの感触を知っている。
そのまま抱き寄せられた。何が起こっているのだろう? 私は確かに殿下に癒しの力を使ったのに。何故、私のことを覚えているの……?
「ありがとう。エマ。君のおかげで私は無事だ。帝国を退けることも出来た」
物凄い歓声が沸き起こる。
「エマ。私と一緒にいてくれ。ずっとだ」
殿下の顔は真剣だ。断ることなんて出来ない。それに、私もずっと側にいたい。
「……はい。喜んで」
手を引かれ、そのまま殿下の騎馬に乗せられる。二人乗りになってパレードは再開した。
「皆! 私とエマを祝福してほしい!!」
殿下の声に人々は応える。勝利のパレードはいつしか、私達を祝福するものへと変わっていた。
#
アルベール殿下曰く、「あの時、私は一度死んだのだ。それを君が呼び戻してくれた」ということらしい。
癒しの神様の私への啓示はこうだ。
『癒しは一人に対して一度だけ。癒しを受けた相手は死ぬまで、お前のことを忘れたまま。そして、お前のことを避ける』
なるほど。生き返った者のことまでは考えていなかったらしい。
なんとなく神様を出し抜いたような気分になる。
「あら、エマ様。楽しそうですね」
教会の個室。私の荷造りを手伝ってくれていたシスターが、揶揄うように言った。
「そうね。新しい暮らしが待っているもの」
教会で暮らすのは今日まで。国王にアルベール殿下との婚姻を認められた私は、居を王城に移す。
「エマ様の笑顔は素敵です。ずっと笑っていてください」
「きっとそうなるわ」
もう、私が氷の聖女と呼ばれることはないだろう。アルベール殿下とずっと一緒なのだから……。
流石に今日は教会での務めもない。枢機卿からも「自由にしてよい」と言われている。
大通りまで歩くと、群衆で溢れかえっていた。皆、凱旋するアルベール殿下を一目見ようと集まっているのだ。
あの日、殿下を癒した後、私は護衛の兵士に頼み込み戦場を離れた。私の癒しの力は一人につき一度きり。任務は完了したと自分に言い聞かせて。
王都に逃げ帰り、枢機卿に事情を説明すると、いつも通りの生活に戻った。そう。道具としての氷の聖女に。
人垣の中に身を埋めていると、どんどん熱気が増してくる。そして、歓声が近づいてきた。
背を伸ばして見ると、騎馬隊が堂々と進んでいる。
戦場から戻ってそのままなのだろう。煌びやかなパレードというより、平原での覇気を纏ったまま荒々しい行軍。その雰囲気がより人々を熱狂させているように思えた。
騎馬隊が私の前を通る。
その中央には脇を近衛兵に固められたアルベール殿下の姿。
あぁ。良かった。ご無事だった。
私はホッとして気が抜ける。そして、教会に戻ろうと人混みを掻き分け──。
「エマ!」
私を呼ぶ声がした。おかしい。そんな筈はない。
「エマ! 待ってくれ!!」
どよめきが起こる。パレードに背を向け立ち去ろうとする私の方に誰かが来る。
後ろから手を握られた。ゴツゴツとしてあたたかい。私はこの感触を知っている。
そのまま抱き寄せられた。何が起こっているのだろう? 私は確かに殿下に癒しの力を使ったのに。何故、私のことを覚えているの……?
「ありがとう。エマ。君のおかげで私は無事だ。帝国を退けることも出来た」
物凄い歓声が沸き起こる。
「エマ。私と一緒にいてくれ。ずっとだ」
殿下の顔は真剣だ。断ることなんて出来ない。それに、私もずっと側にいたい。
「……はい。喜んで」
手を引かれ、そのまま殿下の騎馬に乗せられる。二人乗りになってパレードは再開した。
「皆! 私とエマを祝福してほしい!!」
殿下の声に人々は応える。勝利のパレードはいつしか、私達を祝福するものへと変わっていた。
#
アルベール殿下曰く、「あの時、私は一度死んだのだ。それを君が呼び戻してくれた」ということらしい。
癒しの神様の私への啓示はこうだ。
『癒しは一人に対して一度だけ。癒しを受けた相手は死ぬまで、お前のことを忘れたまま。そして、お前のことを避ける』
なるほど。生き返った者のことまでは考えていなかったらしい。
なんとなく神様を出し抜いたような気分になる。
「あら、エマ様。楽しそうですね」
教会の個室。私の荷造りを手伝ってくれていたシスターが、揶揄うように言った。
「そうね。新しい暮らしが待っているもの」
教会で暮らすのは今日まで。国王にアルベール殿下との婚姻を認められた私は、居を王城に移す。
「エマ様の笑顔は素敵です。ずっと笑っていてください」
「きっとそうなるわ」
もう、私が氷の聖女と呼ばれることはないだろう。アルベール殿下とずっと一緒なのだから……。
0
お気に入りに追加
30
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる