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凱旋と……

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 王都では至る所に国旗が掲げられている。王国軍の勝利を祝うものだ。

 流石に今日は教会での務めもない。枢機卿からも「自由にしてよい」と言われている。

 大通りまで歩くと、群衆で溢れかえっていた。皆、凱旋するアルベール殿下を一目見ようと集まっているのだ。


 あの日、殿下を癒した後、私は護衛の兵士に頼み込み戦場を離れた。私の癒しの力は一人につき一度きり。任務は完了したと自分に言い聞かせて。

 王都に逃げ帰り、枢機卿に事情を説明すると、いつも通りの生活に戻った。そう。道具としての氷の聖女に。

 
 人垣の中に身を埋めていると、どんどん熱気が増してくる。そして、歓声が近づいてきた。

 背を伸ばして見ると、騎馬隊が堂々と進んでいる。

 戦場から戻ってそのままなのだろう。煌びやかなパレードというより、平原での覇気を纏ったまま荒々しい行軍。その雰囲気がより人々を熱狂させているように思えた。

 騎馬隊が私の前を通る。

 その中央には脇を近衛兵に固められたアルベール殿下の姿。

 あぁ。良かった。ご無事だった。

 私はホッとして気が抜ける。そして、教会に戻ろうと人混みを掻き分け──。

「エマ!」

 私を呼ぶ声がした。おかしい。そんな筈はない。

「エマ! 待ってくれ!!」

 どよめきが起こる。パレードに背を向け立ち去ろうとする私の方に誰かが来る。

 後ろから手を握られた。ゴツゴツとしてあたたかい。私はこの感触を知っている。

 そのまま抱き寄せられた。何が起こっているのだろう? 私は確かに殿下に癒しの力を使ったのに。何故、私のことを覚えているの……?

「ありがとう。エマ。君のおかげで私は無事だ。帝国を退けることも出来た」

 物凄い歓声が沸き起こる。

「エマ。私と一緒にいてくれ。ずっとだ」

 殿下の顔は真剣だ。断ることなんて出来ない。それに、私もずっと側にいたい。

「……はい。喜んで」

 手を引かれ、そのまま殿下の騎馬に乗せられる。二人乗りになってパレードは再開した。

「皆! 私とエマを祝福してほしい!!」

 殿下の声に人々は応える。勝利のパレードはいつしか、私達を祝福するものへと変わっていた。


#


 アルベール殿下曰く、「あの時、私は一度死んだのだ。それを君が呼び戻してくれた」ということらしい。

 癒しの神様の私への啓示はこうだ。

『癒しは一人に対して一度だけ。癒しを受けた相手は死ぬまで、お前のことを忘れたまま。そして、お前のことを避ける』

 なるほど。生き返った者のことまでは考えていなかったらしい。

 なんとなく神様を出し抜いたような気分になる。

「あら、エマ様。楽しそうですね」

 教会の個室。私の荷造りを手伝ってくれていたシスターが、揶揄うように言った。

「そうね。新しい暮らしが待っているもの」

 教会で暮らすのは今日まで。国王にアルベール殿下との婚姻を認められた私は、居を王城に移す。

「エマ様の笑顔は素敵です。ずっと笑っていてください」

「きっとそうなるわ」

 もう、私が氷の聖女と呼ばれることはないだろう。アルベール殿下とずっと一緒なのだから……。
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