上 下
1 / 5

癒しの力の代償

しおりを挟む
 聖女はその絶大な癒しの力と引き換えに、何かしらの代償を負う。

 ある聖女は癒しの力を使う度に寿命が縮まり、若くして亡くなった。

 またある聖女は誰かを癒す度に、激痛に襲われたという。しかし、痛みに耐え奥歯がボロボロになっても、力を使うことはやめなかった。

 歴代の聖女に比べれば私はまだ、癒しの神に好かれているのかもしれない。

 私が癒しの力を使うと、相手は私のことを忘れてしまう……。

 どれだけ親しい人だったとしても、怪我や病気が治った途端に全くの他人になる。そしてそれ以降、私に関わろうとはしない。

 癒しの神様曰く『癒しは一人に対して一度だけ。癒しを受けた相手は死ぬまで、お前のことを忘れたまま。そして、お前のことを避ける』らしい。

 これは力に目覚めた後、しばらく経ってから啓示されたのだけれど……。


#


 私が癒しの力に目覚めたのは九歳の時。

 まだ片田舎の農村に住んでいた。父親は村に三人いた猟師のうちの一人で、毎日のように森に入り山鳥や猪、時には魔物も仕留めて持ち帰る。それを村人に分け、代わりに農作物をもらう。

 決して豊かではないが、穏やかな生活。ある日突然、それが崩れた。

 きっかけは父親の大怪我だった。森で出会した魔物にやられたのだ。

 千切れかけた右腕を左手で押さえながら、血みどろで村に帰ってきた様子を今も鮮明に覚えている。

 村に医者などいないし、いたとしてもどうしようもない怪我だ。母親は狼狽え、父親は出血によりどんどん弱り、やがて意識を失った。

 神様、どうか父を助けてください。私はどうなっても構いません。

 泣きじゃくりながら何度も何度も祈った。そして、それは通じてしまう。

 私の手に白くあたたかな光が灯ったのだ。その手を父親の右腕にかざすと、時を巻き戻すように骨が繋がり、傷が塞がった。

 母親は奇跡が起きたと飛び上がる。

 やがて意識を取り戻した父親は、元通りになった右腕をさすりながら「お前は誰だ」と私に言った。

 それから父親は私を避けるようになった。母親が「エマはあなたの娘よ!」と何度訴えても聞く耳を持たない。次第に母親も諦める。

 私は家で孤立するようになった。


 私が癒しの力に目覚めてから二年が経った時だ。村に教会からの使者がやってきたのは。私の噂が行商人を通じて広まっていたのだ。

 使者は私に教会に来るように言った。その頃には何度も癒しの力を使ったせいで、私は村の中で疎まれる存在となっていた。

 ちょうどいい。もう村にはいたくない。

 私が母親に「教会で暮らす」と伝えた時、ホッとした表情を浮かべたのは、きっと仕方のないことだったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

会うたびに、貴方が嫌いになる

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。 アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。

処理中です...