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3話 なんか違う

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 秋葉原ダンジョン二階。遠くに見えるのはアイドル配信者の橋本マリナ、らしい。俺の視力では米粒にしか見えない。

 カメラマンのような男が二人ついている。稼げるようになると人を使えるのかぁ。羨ましい。

「うわぁ。取り巻きが二人もいますよ? これ、絶対にピンチになんかならないでしょ? 俺が近づいたら追い払われるんじゃないですか?」


『駆け出し配信者の癖に計算するな! とにかく突っ込め!』
『スタッフにボコられるとこ見てぇ!!』
『視聴者欲しいなら冒険しろ!!』
『とにかく頑張ってください! 死ぬ死ぬマンさん』


「みんな雑! もっと俺のことを労って!!」


『橋本マリナがスポンサーからもらった武器を試すらしいぞ』
『チャンスじゃん! 乱入ぼ!!』
『マリナの持ってる斧、めっちゃ厳つい』
『あれで叩かれると死ぬな』
『死ぬ死ぬマンさん、ピンチ!!』


「ちょっと待って!! なんで俺がやられる側になってるの!? 調子にのった橋本なんちゃらが浅い階層に現れたイレギュラーモンスターに襲われて! それを俺が助ける流れの筈でしょ!!」

 思わず大声を出してしまった。橋本マリナの撮影スタッフがこちらを見ている。


『おい、マリナの配信に死ぬ死ぬマンの声が入ってるぞ!』
『マリナが怒りだした』
『あーあぁ。死ぬ死ぬマン、南無。マリナ短気だからなぁ』
『ダンジョン内は日本の法律関係ないよ?』
『知ってた? マリナってゴア系アイドル配信者だよ?』


「ちょっと待って!! ゴア系アイドル配信者ってなによ!! 俺はダンジョン攻略ガチ勢の配信しか見ないからアイドル配信者は詳しくないの!!」

 やべえ。調子にのって騒いでいたら、マリナ御一行がこちらに近づいて来ている。絶対怒ってるでしょ、これ。

 それに、背後から別の気配も感じる。きっとグールだ。挟まれたのか……!?

「ちょっとアンタ! 私の配信の邪魔しないでよ!!」

 いつの間に距離を詰めていたのか……。目の前に巨大な斧を肩に担いだ女の子がいる。

「ご、ごめんなさい! 橋本なんちゃらさんのファンなんです!! 感動して騒いでしまいました!!」

「……死にたいよう、ねっ!!」

 ──ドシャッ!! と地面に斧が叩きつけられた。砕けた岩が周囲に飛び散る。

「ひぇぇ! なんちゃらマリナさん!! ごめんなさい!!」

「……決めた。今日はアンタを殺す! スクリーミング・ショウ!!」

 そう叫んだマリナはスイッチが切り替わったように表情を変えた。瞳が赤い。こいつ……やばいな。

 しかし背後からはグールの集団の気配。どうする? 頼みの綱は視聴者だが、今は何人だ?

「ステータスオープン!!」

 脳内にステータスが浮かぶ。


 【 名 前 】 八幡タケシ
 【 年 齢 】 18
 【 レベル 】 1
 【 魔 力 】 10
 【 攻撃力 】 10
 【 防御力 】 10
 【 俊敏性 】 15
 【 魅 力 】 2
 【 スキル 】 配信命
※【 H P 】 312/312


 よっしゃぁぁ! めっちゃ増えてる! これなら一撃ぐらい耐えられるだろ!!

「へいへいへーい! マリナちゃん怒ってるぅー」

 ダンッ! と踏み切る音がダンジョン内に響く。そして眼前に凶々しい斧。しかし──。

 ──カキンッ!!

「「えっ!!」」

 撮影スタッフ二人が声を揃えた。マリナの振るった鉄塊は俺の頭に当たる寸前で止まっている。これがHPの壁だ。一体、どれだけ減ったのか……!?

※【 H P 】 232/312

 全然大丈夫だ。まだまだいける。

「マリナの攻撃しょっぺえ!! ダメージ80しかないよ!!」

 斧を引いたマリナの顔が怒りで歪んだ。

「そんな顔してたらスポンサーが離れちゃうよ!!」

 そう言いながら、くるり踵を返しダッシュ! 流石に連続で攻撃を喰らうわけにはいかない。ここはグール達を巻き込んで乱戦にすべきだ。

 目の前には灰色の肌をした屍食鬼が四体。フラリ、フラリと寄ってくる。

「グールさん! 助けてー!! やばい女に犯されちゃう!」

「黙って死ねぇぇ!!」

 ──ブンッ!! と伏した頭の上を斧が通り過ぎる。体勢を崩し、そのまま硬い地面をぐるりぐるりと転がった。少しHPが減ったかもしれない。

「ウゥゥアァァ!」

 振り返るとグール達とマリナが対峙している。よし! 時間が稼げる! 回復しろHP!! 増えろ視聴者!!

 期待を胸にスマホを取り出した。
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