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一章

第7話 兄の秘密

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 健一は、ソファに座りながら携帯端末をいじっていた。リラックスした様子でスクリーンをタッチしていると、妹の声が耳に入った。

「お兄ちゃん、昨日は遅かったね。なんでだろう?」

 妹は、楽しそうに口角を上げ、好奇心丸出しの表情で話しかけてくる。健一はそっと目を逸らしながら、その問いに対して少し困ったように返した。

「なんのこと?」
「すっとぼけても無駄だよ。デートしてたんでしょ?美佳ちゃんが教えてくれたよ」
「美佳ちゃんは何者なんだよ。お兄ちゃんと会ったこともないくせに」

 妹の表情は一層、その好奇心を強める。まるで、自分が探偵にでもなったかのように、健一の反応をじっと見つめていた。

「お兄ちゃんどうなの?」
「さ、さぁ……」

 妹が再度問いかけるのを誤魔化しているとその瞬間、携帯が鳴り響いた。緊急の音が部屋にこだまする。

「例の人から?」

 妹が期待を込めた視線を向けてくる。健一は妹の視線を避けながら、電話に出ることにした。相手は後輩の真理だった。

「先輩、昨日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ。本当にありがとう。昨日の帰りにデバイスも買えたよ。たまたまゲリラ販売してたんだけど、それでも3時間は並んだ」

 健一は軽く笑いながら答えた。

「それはよかったです。今、少しお時間いいですか?」
「どうした?」
「実はですね、イベントのレイドバトルがありまして、昨日の場所にも定期的にレイドバトルがあるんです。『小悪魔リリー〈DevilLilly〉』と検索してもらってもいいですか?」

 指先で「小悪魔リリー〈DevilLilly〉」と入力してみる。結果がすぐに表示された。それはどんな風に行われるか、地域によって出現するモンスターの違いや、EXTRAレイドがどうなっているかを詳細に解説しているものだった。特定の武器を手に入れるためには、その製作過程を繰り返す必要がある。しかしそれだけではなく、イベント参加でドロップする可能性があることもわかった。

 EXTRAレイドは、一週間に一度の頻度で、時には二度実施されることもあるのだ。今の段階では情報が少なく、プレイヤーは材料を集めることに熱を上げている。

「つまり、参加してさえいれば、武器がドロップしなくても素材が手に入るから、武器を強化することができるってこと?」

「ですです」と真理の声には嬉しそうな響きがあった。健一は心の中で思う。正直楽しそうだ。彼女ともう少しだけ話したい、そして少なからずこのゲームに興味が湧いていたからこそ、あの安くもないデバイスを購入したのだ。

「私は参加しようと思いますけど、先輩はどうかなって」
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
「本当ですか?」

 驚きと嬉しさが交じり合った声が真理から返ってきた。

「今、声が嬉しそうだったけど」
「いや?」

 そのやりとりを聞いていた妹は、不思議そうに微笑み、さらにその様子を楽しんでいるようだった。健一は「見るな」と言わんばかりにドアの方へ視線をやり、無意識に鼻で笑っていた。

「調べながら見ているんだけど、色々とあるんだな」
「発売してからそんなに経ってないですし、武器の製造方法も限られてますから。イベントでしか手に入らないアイテムや素材の需要が高いんですよ」

 いつも通り、ベッドに横たわりながら携帯端末でゲーム関連の掲示板を覗く。様々なプレイヤーの投稿が並び、戦略や情報が共有されていた。

 突然、妹の声が響いてきた。

「お兄ちゃーん!」

 驚いて顔を上げると、健一は少し辟易した表情を浮かべた。

「なんだよ?」

 電話をミュートにし、ふんと息をついて応じる。

「ごはん」

 一瞬戸惑ったが、冷静を装って返す。

「ごめん、ごはんだわ。イベントの時にまた教えてくれ」
「はい」

「お邪魔だった」と妹はからかうように言いながら部屋を出て行く。
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