打ち抜きレッドライン〜平々凡々な僕と噂のビッチゲーマーが大会Lv.99へ挑戦する〜

プロローグ

その１ 報道「革新的なゲーム」

「おはようございます。7時50分。朝のニュースにまいりましょう」

　とある交差点に設置された大画面液晶テレビから、元気な声が流れている。

「では、次のトピックです。急速な技術革新により進化したシリーズ物のゲームが大人気です。さて、そのゲームとは？」

　ニュースのトピックの一つ、『CBF（Crowded・BattleField）』が取り上げられる。

「ゲームの世界に革新が訪れてから約5年が経過しようとしています。その最新作、HMD（ヘッドマウントディスプレイ）技術を開発した『A』社の発表に、今日は先行予約で大行列ができているとのことです。大人気の最新作ゲームについて、我々は『A』社に取材に行ってまいりました！その最新技術を導入したゲームに迫ります！VTRをどうぞ」

　ニュース番組を務める司会者が淡々と語り、映像がCG画面からVTR映像に切り替わる。

　我が『A』社は、最先端技術を公表してから約5年が経とうとしています。このゲームはその節目を告げるものであり、技術の発展が交わった自信作です。

　前回作では、HMDは誰でも簡単に扱えるように設計され、その没入感には多くの反響をいただきました。

　皆様の応援のおかげで、ここ数年の技術の発展に、我が社の技術が世に貢献できていることを実感しています。

　我が社は皆様に「エンターテイメント」を提供したいと考えており、そのお返しとして感謝の意を新たな環境技術の開発及び発展とともに、皆様が期待するゲームをお届けできればと思っております。

　それはHMDと環境技術の融合であり、皆様にとっても待ち望んでいるものであると信じています。

　皆様の中には、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。このゲームは皆様のご意見をもとに開発されました。

『CBF（Crowded・BattleField）』をぜひご期待ください。詳細は近日中に該当ページにてお知らせいたしますので、乞うご期待ください──

　VTRには、中年の男性が映っており、その身振り手振りは気持ちの高ぶりに合わせて徐々に大袈裟になっていった。

「先日の『A』社の最新作の発表は大騒ぎですね。先行予約を開始した店舗では、警察が出動するほどの行列ができていると聞いております。そのゲームとは一体どのようなものでしょうか。本日お越しいただいている境界大学の佐藤彰浩教授にお話を伺いたいと思います。本日は、よろしくお願いいたします」 
「よろしくお願いいたします」

　司会者は、スーツ姿の白髪交じりの男性に会釈しながら話を進めていく。教授も同様に会釈を返す。

「さて、佐藤教授。『A』社が先日公表したゲームとは、具体的にどのようなものでしょうか？ぜひ御意見をお伺いしたいです」 
「そうですね、詳細を申し上げると、トラッキング技術と視界全体を覆うHMD技術により、従来よりも没入感が増します。ただし、その運用には周囲に注意を払う必要がある、といった欠点も存在します。そこを環境技術の投入により、より高精度なトラッキングと環境調整が可能な融合技術へと進化しているということでしょう。

　完全に没入するVRとは異なり、我々の多くはAR技術を利用しています。そもそもARとは「Augmented Reality」の略で、「拡張現実」とも呼ばれます。これは、実際には視認できない映像やCGが視覚情報として重なる技術のことを指します。したがって、そうした環境技術は、普段の視界に新たな情報を加える、「第二の目」とも言えるものだと思います」 
「なるほど。つまり、衝撃や匂いといった現実では感じられない情報をゲーム内で体験できるようになるわけですね？」 
「簡単に言えば、そうなりますね」

　教授は司会者の問いに頷きながら答える。

「ですが、従来の技術と同様に、周囲への配慮や視覚・聴覚、さらには今回の技術によって得られる新しい感覚の抑止についてのご懸念もあるかと思います。それにより、犯罪行為や不正行為に繋がる危険性があるのではという声も」
「そうですね、その点がまさに環境技術の意義ですね。周囲への配慮が不要な安全な環境を提供し、物理的に犯罪を抑止するというシンプルかつ確実な解決策をとっていると私は考えています」
「確かに、その通りですね」

　少しの間の静かな沈黙の後、司会者のもとに一枚の資料が手渡され、司会者はCG画面に視線を向けるように身振りをする。

「はいはい……えー、では『A』社の『CBF』の詳細を見ていきましょう。こちらをご覧ください」

　CG画面に投影された映像が切り替わり、『A』社の公式ホームページが表示される。そこには最新ゲーム情報として、『CBF (Crowded BattleField)』の詳細が整然と羅列されている。

「これは基本メニューといったところでしょうかね」

「そうですね」と、司会者に同意する教授。しばらくホームページを眺めていた二人の前で、画面の脇に動く指が現れる。それに気づいた司会者は慌てて口を開く。

「えーー、では、上から順を追って、皆様にお伝えしたいと思います。時間が許す限りお付き合いください！」

　司会者はCG画面に広がる項目を上から順に指で示しながら、説明を始める。

「まず、このゲームには容姿キャラメイクという機能が備わっているようですね。これはー？」
「こちらには容姿としか記載されておりませんが、従来の操作キャラは没入感をより精密にするために、身長などの設定変更ができませんでした。そういったクレームもあったようですので、今作は仕様変更という形をとったと聞いています」
「節目の作品ということで、コンセプトの変更などがあったのでしょうかね？」  
「没入感を重視するゲーム会社ですからね。骨格が変わると感覚が鈍るなどの乖離が起こり得ますから。プレイヤーの要望を一心に受け止めた、最新作という粋な計らいですね」
「なるほど！プレイヤーの間でも今作への期待が高まる理由がわかります。次の項目では、”職業能力スキル”という機能も実装されているようですね。銃撃戦ゲームにおける職業とスキル、これは一体どう繋がるのでしょうか？」

　再び、スタジオ内は静まり返る。くるくると指を回すしぐさに注目する司会者が、少し緊張した様子で口を開く。

「もう少し、語っていたいところですが、お時間のようです。より詳しい情報は番組の公式ホームページからリンクをクリック！それでは次は、天気予報に移ります」

　カメラの下に視線を寄せた司会者は、慌ただしくも天気予報に切り替わるCG画面を追って、そのまま天気予報に移行していった。