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短編向け

本編・下

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 あの事件から約5年後。
 今までリハビリを続けて来た成果もあり、今は漫画家やタレントなどの事件前にしていた仕事にも巍は復帰する事が出来た。
 あの事件は、発生当時から、かなり長い期間ニュースなどで取り上げられていた。その上、様々な専門家の解説も付いていた。
 巍は当然だが、驚いていた。まさか......と。
 しかし、当時の巍は、それしか考えられなかった。
 先ほど言ったように、巍は麻痺のリハビリに励んでいたからだ。
 おかげでさっき言ったように、事件前にしていた仕事にも復帰する事が出来たのだ。
 巍は良かったと思っていた。

 もう、こんな事件は起こらないで欲しい。

 巍は心からそう願っていた。
 しかしこの後、またそのような事件が起きるとは巍は知る由はなかった。

 ━━2024年5月13日 某テレビ局 第一スタジオ

 その日、巍は復帰した事に対する復帰記念の特別番組に出演していた。
 番組の途中、マネージャーから呼び出された

「巍さん、大変です! あ..... 秋音さんが!」
「え!? 秋音に何かあったのか?」
「今から5年前に起こったあの事件の犯人と思われる人が秋音さんを......」
「な、何だってぇぇぇ!!」
「とりあえず、車の準備を要請したので行きましょう!」
「ああ......!」

 それから、巍とマネージャーは秋音の病院へと向かった。
 病院の個室に行くと、そこには眠っている秋音がそこに居た。

「あ、巍さん、来ましたか......」
「秋音は......秋音は大丈夫なんですか!?」
「一命を取り留めましたが、助かるかは今はまだ......」
「そ、そんな...」

 その医師によると...

 医師が回診に行っている間、秋音ともう一人の看護師の2人でナースステーションに居たらしい。
 医師が回診から帰ってくると、1人の男がナースステーションから出てきた。嫌な予感を察知した医師は急いでナースステーションへ入ると、そこには床に横たわっている秋音1人を見つけたそうだ。
 秋音と一緒にナースステーションにいた看護師に話を聞くと、トイレに行っている間に事件が起こったらしい。
 それから医師は応急処置をしたが、意識は未だ戻らないまま現在に至る訳だそうだ。
 秋音は頭を殴られていたそうだ。
 そう、五年前の巍のように
 それから巍は、秋音の傍で秋音の手を握り続けていた。

(助かってくれ!秋音!)

 巍はそう力強く願った。

 翌朝も巍は秋音の手を握り続けていた。しかし、空が薄く明るくし始めた頃、その手の熱は巍の手から急速に抜けて行ってしまった......

 ピーーーーーーーーーーーーー......

 心拍数を測る機械の反応なしという高音が聞こえて来た。

「あ、秋音......? 秋音? あきねぇぇぇ!」


 巍の願いは虚しく、秋音は先立ってしまった......
 それから犯人はやはり五年前、巍を襲った男だった。
 今回は秋音がターゲットになっていたのが悪かった......
 それから裁判が行われ、犯人は無期懲役の判決が下された。
 当然の報いだろう。
 しかし秋音を失った巍の心には、ポッカリと穴が空いたような気がしていた。

 裁判があった日の夜。巍は秋音をまつっている仏壇の前に座って合掌をした。

(俺は......俺はこれから、どうすればいいんだ......? 秋音......俺は......俺は、お前を守ることが......出来なかった......!)

 巍は泣きながら、そう心の中で叫んだ。

(そんなことないよ! 巍!)
(あぁ......これは幻聴か......幻聴が聞こえてきたんだ。秋音を失った事で幻聴が聞こえてるんだ......)

 巍の言ったことに反応するかのように、秋音の声が聞こえて来た。
 巍はその声が幻聴だと捉え、悲しい気持ちになっていた。

(幻聴じゃないよ! 巍!)
(幻聴以外の何物でもない、気にしないでおこう)
(......もう......巍ったら......まるで信じちゃいない)
(信じろ、だと?)

 巍が後ろを振り返るとそこに居たのは......

「あ、秋音!?」
(やっと気付いてくれた......)
「ど、どうして!」
(ごめんね......巍一人置いて先立っちゃって......)
「そ、そんな事ないよ......!」
(でもさっき弱音吐きまくりだったよね......?)
「う......それは聞かなかった事にしてくれ...」
(聞いて欲しくて言ったんじゃなかったの?)
「それは......そうだけど......」
(さあさあ、多分巍とこうやって会えるのは最後だろうから沢山話そ?)
「ああ」

 それから巍と秋音は、昔話に花を咲かせた。
 話していくにつれて、巍はいつの間にか涙が溢れていた。
 そして、気が付くと眠りについていたようで、もう外は明るくなっていた。

 巍がふとテレビをつけると、秋音の特集がされていた。
 よく話を聞いていると、あの犯人。元々小説家なのだったらしい。
 書いた小説の構成や話の質が悪くてストレスが溜まっていたらしい。そこで俺の話を聞いて、羨ましくなったらしい。
 しかも今回は秋音が襲われた上、死んでしまった事でより大きく取り上げられていた。
 また、ファンレターが沢山届いていた。今回は数百でも数千でもない、数万通も届いていた。
 その内容は秋音を亡くした事への慰めやこれからの応援だった。
 また再び巍は涙が溢れてしまった。
 やっぱり俺らは愛されているんだな、と巍が実感した出来事だった。



 ━━それから巍は小説や漫画を描きまくって、テレビに出まくったりして、かなり有名になって行った。

 それから約40年後、80代で巍はこの世を去ってしまった。
 それまでに届いたファンレターの数は約100万通だった。
 俺はこの人生、とても充実していたと巍は思っていた。
 この人生を恵んでくれた神様に感謝しよう。

 そして、巍はふと地上を見据えてみると、そこには驚くべき光景があった。

 『故 巍殿
  今までありがとう! 天国でも元気で!』

 巍の葬式であった。
 花に書かれる名前のプレートにそう書いてあった。
 嬉しくて巍はまた涙が溢れていた。
 そして巍の横に秋音が立っていて、巍の手を取って空の彼方へと飛んで行ったのだった......


 ━━おしまい
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