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再会
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ジェットコースターにでも乗ったような気分だった。
猛スピードで運ばれて、上下左右に揺すぶられ、最終的には回転しながら放り出された。
吐き気を堪えながら体を起こすと、木の枝がたくさん敷かれた場所にいた。身体中がベトベトする臭い液体に塗れているのが、気持ちが悪かった。
隣を見ると、同じようにベトベトの液体に塗れた雪比古が倒れていた。
「雪比古!」
足元が悪い中、駆け寄って助け起こす。
体は温かい。息をしている。生きてる。雪比古が、生きてる。
程なくして雪比古は意識を取り戻し、呻きながら僕を見上げた。
僕たちは、抱き合いながら、互いの無事を喜んで泣いた。
一通り泣いて落ち着いてから、今の状況を確認してみる。
木の枝が何重にも重ねられていて、深皿みたいな形をしていて、広さはバスケットボールのコートぐらいだろうか。鳥の巣のように見える。オニの棲家ではないかと推測をした。
端の方に行って下を見てみると、地面に直接作られているようだ。大きすぎるので、木の上には作れなかったんだろうと、雪比古は分析している。
今はオニは留守にしているようだけど、いつ戻ってくるかは分からない。
早く逃げなければならないけど、逃げてもまた追いつかれるかもしれない。
対策が思いつかないまま、まずはこの巣から降りることにした。
「何か、おかしいよ」
真っ暗な空を見上げて、奇妙なことに気付いた。正確な時間は分からないけど、もう夜明けになってもいい頃なのに、いっこうに明るくなる気配がなかった。
オニの巣からの脱出は、足場がそこかしこにあったので、最初は簡単に思えた。
登るのは簡単だったけれど、外側はオーバーハングになっていて、最後は二人とも落ちて尻餅をついた。
緊迫した状況なのに、また二人でいられることが嬉しくて、顔を見合わせて笑った。
安心したのも束の間だった。近くの藪から、何かの影が飛び出してきた。
雪比古はすぐに身構えて、僕はそんな雪比古の腕にしがみついた。
「……爺さん?」
転がるように出てきたのは、雪比古と一緒に住んでいる、川辺のお爺さんだった。
作務衣に白髪の老人で、何故か顔の右目の周りに青いアザが、鼻と口の周りには血を拭ったあとがあった。
「山の、頂上に、突然これが」
荒い息の下、そう言ってオニの巣を指差す。
昨日までは無かったはずだから、オニの巣は山頂に突如現れたことになる。
お爺さんはもう喋るのも辛そうで、地面に座り込むと懐から何か取り出した。
一束の線香と、百円ライター。
まだあった、オニへの対抗手段が。
「持っていけ」
「爺さんも一緒に行こう」
雪比古の提案に、お爺さんは、首を横に振る。
「ワシはすぐには動けない。お前たちは線香を焚いて逃げろ。アレに見つけられないように、絶対に線香を絶やすな」
オニに狙われているのは、生贄の僕と雪比古だから、他の人間は大丈夫だとお爺さんは言う。
でも、叔父さんもオニに襲われていたから、巻き込まれて怪我をするかもしれない。
「子供たちだけに、責を負わせるわけにいかない。早く、逃げろ」
「……分かった」
雪比古が、僕の手を握る。強く、強く握る。
火を点けた線香を僕が持って、手を繋いだまま麓へ向かって走り出した。
猛スピードで運ばれて、上下左右に揺すぶられ、最終的には回転しながら放り出された。
吐き気を堪えながら体を起こすと、木の枝がたくさん敷かれた場所にいた。身体中がベトベトする臭い液体に塗れているのが、気持ちが悪かった。
隣を見ると、同じようにベトベトの液体に塗れた雪比古が倒れていた。
「雪比古!」
足元が悪い中、駆け寄って助け起こす。
体は温かい。息をしている。生きてる。雪比古が、生きてる。
程なくして雪比古は意識を取り戻し、呻きながら僕を見上げた。
僕たちは、抱き合いながら、互いの無事を喜んで泣いた。
一通り泣いて落ち着いてから、今の状況を確認してみる。
木の枝が何重にも重ねられていて、深皿みたいな形をしていて、広さはバスケットボールのコートぐらいだろうか。鳥の巣のように見える。オニの棲家ではないかと推測をした。
端の方に行って下を見てみると、地面に直接作られているようだ。大きすぎるので、木の上には作れなかったんだろうと、雪比古は分析している。
今はオニは留守にしているようだけど、いつ戻ってくるかは分からない。
早く逃げなければならないけど、逃げてもまた追いつかれるかもしれない。
対策が思いつかないまま、まずはこの巣から降りることにした。
「何か、おかしいよ」
真っ暗な空を見上げて、奇妙なことに気付いた。正確な時間は分からないけど、もう夜明けになってもいい頃なのに、いっこうに明るくなる気配がなかった。
オニの巣からの脱出は、足場がそこかしこにあったので、最初は簡単に思えた。
登るのは簡単だったけれど、外側はオーバーハングになっていて、最後は二人とも落ちて尻餅をついた。
緊迫した状況なのに、また二人でいられることが嬉しくて、顔を見合わせて笑った。
安心したのも束の間だった。近くの藪から、何かの影が飛び出してきた。
雪比古はすぐに身構えて、僕はそんな雪比古の腕にしがみついた。
「……爺さん?」
転がるように出てきたのは、雪比古と一緒に住んでいる、川辺のお爺さんだった。
作務衣に白髪の老人で、何故か顔の右目の周りに青いアザが、鼻と口の周りには血を拭ったあとがあった。
「山の、頂上に、突然これが」
荒い息の下、そう言ってオニの巣を指差す。
昨日までは無かったはずだから、オニの巣は山頂に突如現れたことになる。
お爺さんはもう喋るのも辛そうで、地面に座り込むと懐から何か取り出した。
一束の線香と、百円ライター。
まだあった、オニへの対抗手段が。
「持っていけ」
「爺さんも一緒に行こう」
雪比古の提案に、お爺さんは、首を横に振る。
「ワシはすぐには動けない。お前たちは線香を焚いて逃げろ。アレに見つけられないように、絶対に線香を絶やすな」
オニに狙われているのは、生贄の僕と雪比古だから、他の人間は大丈夫だとお爺さんは言う。
でも、叔父さんもオニに襲われていたから、巻き込まれて怪我をするかもしれない。
「子供たちだけに、責を負わせるわけにいかない。早く、逃げろ」
「……分かった」
雪比古が、僕の手を握る。強く、強く握る。
火を点けた線香を僕が持って、手を繋いだまま麓へ向かって走り出した。
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