オニが出るよ 番外編

つぐみもり

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転校後

雪比古の番犬

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 小学校の正面玄関。靴箱の前で、俺は途方に暮れていた。
 目の前の靴箱は空っぽ。上履きが行方不明。
 要するに、誰かに隠されたのだ。
 同じクラスの誰かか、もしくは別のクラスの者か。犯人に心当たりはないが、隠される理由はいくつか思いつく。
 田舎からの転校生。しかもアルビノで白い肌と髪、赤い目と目立つ容貌をしている。
 ただ、奇異の目で見られたり遠巻きに噂されることには慣れたが、直接的に手出しされたのは初めてだった。
「雪比古、どうしたの?」
 なかなか靴を履き替えない俺を、桂吾が覗きこんできた。
 出来れば知られたくなかったと、無理なことを思った。
「上履きが無くなった。職員玄関でスリッパを借りてくるよ」
 何でもないように聞こえるように努めて言い、スニーカーを脱いで靴下で廊下を歩き出した。
「誰がこんなことをしたんだよ!」
 予想通り、桂吾は怒ってくれた。ただ、このことが桂吾をクラスメートから孤立させる要因になるのではないかと、それだけが心配だった。

 来客用スリッパを履いて教室に入ると、どこからか押し殺した笑い声が聞こえた。後ろの方の席。時々あからさまに陰口を言ってくる男子の三人組だった。
 とっさに桂吾を抑えようと手を伸ばしたが、逆に振り払われた。
 桂吾は三人組の方へ肩を怒らせて進んでいく。
「おい! 雪比古の上履きを隠したのはお前たちか?」
 震える声で糾弾する。
「さあね」
「知らねえよ」
「お前に関係ないだろ」
 三人組は口々にしらばっくれる。それはそうだろう、簡単に白状する犯人なんていない。
 追いついて桂吾の肩に触れて、振り向かせる。
「もういいよ。俺は大丈夫だから」
 桂吾は今にも嚙みつきそうな顔で三人組を睨んでいたが、いったん引くことにしたようだ。
「誰がそんな気持ち悪い奴の靴なんか触るかよ」
 三人組の捨て台詞が最悪だ。桂吾が一瞬で沸点まで到達する。
 叫び声を上げて、犯人たちに飛び掛かっていた。

 格闘技を齧っている桂吾は、直接的な拳は振るわなかった。三人組のリーダー格の襟を掴み、締め上げる。
「雪比古は気持ち悪くなんかない! 謝れ!」
 あとの二人は反撃してくるかと思ったが、桂吾の気迫と、だんだん顔色の変わっていくリーダー格の状態に恐れをなしたのか、慌てて掃除用具入れから俺の上履きを取り出して持ってくる。
「ほら、これ返すから、返すから!」
「もうやめろって、ヒロトが死ぬ!」
 野生動物みたいな荒い息を吐く桂吾の肩を叩き、手を離させた。
 へたり込むリーダー格は、とぎれとぎれの声で「ごめん」と言った。
 すべて終わった頃に担任教師が到着し、互いに謝って手打ちとなる訳はなく、結局双方の親(俺は後見人の誠二さん)が呼び出される騒ぎとなった。
 それでも、なんだかんだで三人組とは今は友達になっている。
 ついでに言うと、乱闘騒ぎの翌日から、桂吾に『雪比古の番犬』という名誉なんだか不名誉なんだか分からないあだ名が付いた。
 桂吾は気に入っているようだったが、俺はひたすらに困っている。
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