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「一体どういうつもりなんですか!」
もう我慢の限界にきていた。
期末テストの最終日、私はじっくりと話し合うつもりで松田先輩を部室に呼び出した。
だけど。
のほほんとした松田先輩の顔を見たら何故だか無性に腹が立ってきて自分でもビックリするような大きな声で松田先輩を怒鳴りつけていたのだ。
「待って!待って!いきなり怒鳴らないで」
「待って待ってっていつまで待てばいいんですか!」
松田先輩の言葉が癪に触り、更にキツく言い返してしまう。
ーーこんなはずじゃなかったのに!
とも思うのだけど、もうどうにも止められない。
何もかも松田先輩が悪いのだ。
「あれからもう三ヶ月ですよね?」
「・・・そう、だね・・・」
私の勢いに気圧されたのか松田先輩の口からでる言葉はしぼんだ風船から漏れる空気のような頼りないモノ。けれどそれが余計に私の心に油を注いでしまい、つい口が滑ってしまった。
「先に言い出したのは松田先輩のほうですよね!」
自分で言っておきながら『これはズルイ』と思ってしまう。松田先輩が言い出さなくても自分から動くつもりで準備はしていたのだから。
でも言ってしまったものはしょうがない。
あとは松田先輩の返答しだい。
「・・・うん・・・」
カチンときた。
その煮え切らない返事に。態度に。
怒りに良く似た激しい感情が私を突き動かす。
ガタン!!
と大きな音を立ててパイプ椅子が床に転がる。
ドンッ!!
という鈍い音は松田先輩の背中あたりから発せられた。
「ググッ・・・」
松田先輩の口からカエルのような声が聞こえる。
恐らく呼吸が上手く出来ないのだろう。
簡単な事。
私が両手で松田先輩の襟首を掴み上げ身体を壁に強く押し付けているからだ。
ダメ押しに先輩の両脚の間に私の膝を割り込ませる。
いざとなったら、そのまま蹴り上げる覚悟だ。
「三ヶ月ですよ?三ヶ月。何一つ進んでいないじゃないですか!」
松田先輩を追い込む言葉が勢いを増す。釣られて襟首を掴む手の力も強くなってしまう。
「あの・・・その・・・」
ここまでしても松田先輩の態度は煮え切らない。
「その?なんですか?」
私は手の力は緩めずに言葉の勢いだけを少し抑える。ただし声のトーンは低い。
「こ、こういうの初めてだから・・・どう進めていいのか・・・よくわからなくて」
ようやく出てきた松田先輩の言葉。
けれどソレは私が望んだ言葉ではない。
「そんなの私も同じですよ!」
望んだ言葉を貰えなくて私の言葉に絶望の色が混じる。
「わからないなら私に直接聞いてくれればいいじゃないですか!!」
松田先輩に任せたのが悪かったのかもしれない。
私は精一杯我慢したのだ。
松田先輩が動いてくれると信じていた。
襟首を掴む私の手の上に松田先輩の手が重なる。
「ゴメン」
苦しそうな松田先輩の声が耳に届く。
もうダメだ。
抑えきれない。
ダンッ!!
私は松田先輩の身体を部室の壁に強く押し付け直し完全に身動きが出来ないように身体を密着させる。
「松田先輩」
その呼びかけに松田先輩がどんな顔をしたのかは確認出来なかった。
私はそのまま松田先輩の口を塞ぎ、閉じられた唇を無理矢理舌でこじ開けて届く限り松田先輩の内側を舐め回す。
そんなに長い時間ではなかったはずだ。
松田先輩の膝から力が抜け身体全体がズルズルと床に崩れていく。私は仕方なく塞いでいた唇から撤退し、強く掴んでいた襟首も解放する。
部室の床にペタンと座り込んだ松田先輩の瞳はまだ宙を彷徨っているみたい。
大好きだった松田先輩から告白されて三ヶ月。
未だに私の事を『さん』付けで呼ぶ先輩。
手を繋ぐ事もしてこない先輩。
優しさと臆病さは表裏一体。
私は限界だったのだ。
「臆病者」
そう呟きながら私は松田先輩の前に膝を付く。
「次は松田先輩から、ね」
もう我慢の限界にきていた。
期末テストの最終日、私はじっくりと話し合うつもりで松田先輩を部室に呼び出した。
だけど。
のほほんとした松田先輩の顔を見たら何故だか無性に腹が立ってきて自分でもビックリするような大きな声で松田先輩を怒鳴りつけていたのだ。
「待って!待って!いきなり怒鳴らないで」
「待って待ってっていつまで待てばいいんですか!」
松田先輩の言葉が癪に触り、更にキツく言い返してしまう。
ーーこんなはずじゃなかったのに!
とも思うのだけど、もうどうにも止められない。
何もかも松田先輩が悪いのだ。
「あれからもう三ヶ月ですよね?」
「・・・そう、だね・・・」
私の勢いに気圧されたのか松田先輩の口からでる言葉はしぼんだ風船から漏れる空気のような頼りないモノ。けれどそれが余計に私の心に油を注いでしまい、つい口が滑ってしまった。
「先に言い出したのは松田先輩のほうですよね!」
自分で言っておきながら『これはズルイ』と思ってしまう。松田先輩が言い出さなくても自分から動くつもりで準備はしていたのだから。
でも言ってしまったものはしょうがない。
あとは松田先輩の返答しだい。
「・・・うん・・・」
カチンときた。
その煮え切らない返事に。態度に。
怒りに良く似た激しい感情が私を突き動かす。
ガタン!!
と大きな音を立ててパイプ椅子が床に転がる。
ドンッ!!
という鈍い音は松田先輩の背中あたりから発せられた。
「ググッ・・・」
松田先輩の口からカエルのような声が聞こえる。
恐らく呼吸が上手く出来ないのだろう。
簡単な事。
私が両手で松田先輩の襟首を掴み上げ身体を壁に強く押し付けているからだ。
ダメ押しに先輩の両脚の間に私の膝を割り込ませる。
いざとなったら、そのまま蹴り上げる覚悟だ。
「三ヶ月ですよ?三ヶ月。何一つ進んでいないじゃないですか!」
松田先輩を追い込む言葉が勢いを増す。釣られて襟首を掴む手の力も強くなってしまう。
「あの・・・その・・・」
ここまでしても松田先輩の態度は煮え切らない。
「その?なんですか?」
私は手の力は緩めずに言葉の勢いだけを少し抑える。ただし声のトーンは低い。
「こ、こういうの初めてだから・・・どう進めていいのか・・・よくわからなくて」
ようやく出てきた松田先輩の言葉。
けれどソレは私が望んだ言葉ではない。
「そんなの私も同じですよ!」
望んだ言葉を貰えなくて私の言葉に絶望の色が混じる。
「わからないなら私に直接聞いてくれればいいじゃないですか!!」
松田先輩に任せたのが悪かったのかもしれない。
私は精一杯我慢したのだ。
松田先輩が動いてくれると信じていた。
襟首を掴む私の手の上に松田先輩の手が重なる。
「ゴメン」
苦しそうな松田先輩の声が耳に届く。
もうダメだ。
抑えきれない。
ダンッ!!
私は松田先輩の身体を部室の壁に強く押し付け直し完全に身動きが出来ないように身体を密着させる。
「松田先輩」
その呼びかけに松田先輩がどんな顔をしたのかは確認出来なかった。
私はそのまま松田先輩の口を塞ぎ、閉じられた唇を無理矢理舌でこじ開けて届く限り松田先輩の内側を舐め回す。
そんなに長い時間ではなかったはずだ。
松田先輩の膝から力が抜け身体全体がズルズルと床に崩れていく。私は仕方なく塞いでいた唇から撤退し、強く掴んでいた襟首も解放する。
部室の床にペタンと座り込んだ松田先輩の瞳はまだ宙を彷徨っているみたい。
大好きだった松田先輩から告白されて三ヶ月。
未だに私の事を『さん』付けで呼ぶ先輩。
手を繋ぐ事もしてこない先輩。
優しさと臆病さは表裏一体。
私は限界だったのだ。
「臆病者」
そう呟きながら私は松田先輩の前に膝を付く。
「次は松田先輩から、ね」
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