小犬の気持ち

はづき惣

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そのまたまた後の小犬

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「那月? 大丈夫?」


 そんな声掛けと共に優しく肩を譲られて、那月はふっと我に返る。

 いつの間にやらぼんやりとしていたらしい。

 気が付けば那月の周りでは沢山の学生達がザワザワと騒がしく昼ご飯を食べている。それなのに、この煩さが今まで全く気にならなかった。

 昼休みに那月は九条と一緒に学食に来ていたのだ。

 慌てて隣を振り返ると、少し眉を下げ困った様に笑った九条がテーブルの上を指差している。

 そこには唐揚げが一つコロリと転がっていた。


「あれ?」

「那月の箸から落っこちたんだよ。大丈夫? 眠いのかな? それとも調子悪い?」

「箸から」

「ポトって」

 あぁ、大好物の唐揚げが……。


 そんな那月の事が心配になったのか、九条が額に手を当ててきた。

 それに那月は赤くなって何度もフルフルと首を横に振る。


「だ、大丈夫だよ。ちょっとぼうっとしてたみたい」

「それならいいけど。何かあったのかな?」

「……何もないよ」

「そう? でも何度も名前を呼んだけど全然気付かないし、途中から俺の話も聞いてないみたいだったよ」


 九条はまだ心配そうに那月を見つめている。でもそう言った時の顔がちょっとだけ拗ねているようにも見えた。

 そういう九条が何だか可愛くて、那月はつい小さく笑ってしまう。

 いつもが落ち着いていて大人っぽいから、余計そう感じるのかもしれない。但し、斉木が絡むとそうじゃ無い時が割とあるけど。

 最近の九条はそんな表情もする様になって、それを知るのが那月は結構楽しいし新鮮に感じていたりもする。


「ごめんね。少し考え事してただけだから。それで九条君の話って?」

「そんな那月も可愛いけどね。さっきは夏休みの那月の予定を聞いていたんだよ」

「夏休みかぁ。今のところはお盆に田舎に行くくらいかな? あとはバイトとか?」

「でもこの学校、基本バイト禁止だよね?」


 すぐに那月が謝ると、あっという間に機嫌の治ったらしい九条は、もういつもの顔に戻ってニコニコと優しく微笑んでいる。

 
 やっぱり九条君は笑ってる顔が、
 一番綺麗でかっこいいな。


 そんな事をこっそり思いながら、那月は頷き話を続ける。


「そうなんだよね。内緒でやって先生にみつかったら面倒だし、許可を取るのも何だか面倒だし」

「ふふっ、面倒ばかりだね。那月はバイトしたいの?」

「うーん? やってみたいような、そこまででもないような」

「じゃあ夏休みは結構暇なのかな?」

 それは……、暇でしかない気がする……。


 高校生にもなって夏休みに大した予定もない自分に、那月は少しだけ悲しくなった。

 だけど元々どちらかと言えばインドア派で、夢中になるような趣味もないし、多少は友達と出掛けたりはしても、大抵夏休みはゴロゴロしていて終わってしまうのだ。


「もし那月が暇なのなら、色々出掛けたり遊びに行ったりしたいな」

「色々?」

「うん。那月としたい事がいっぱいあるんだ」

「…………したい、事」


 薄い色の瞳をキラキラと輝かせる九条に、全然違う話なのに、何故だか那月はさっきまで考えていた事がまた蘇ってきてしまう。

 固まる那月にかまわずに九条は更に言う。


「うん。また家にも来て欲しいし、那月の家にも行ってみたいし。それに普段では行けない少し遠くに遊びに行くのもいいよね。泊まりで旅行とか」

「…………泊まり」

 
 実は、少し前に那月がぼんやりと考えていたこととは、朝に藤沢と話した例のアレの事なのだ。那月はあの話が何だか妙に少し……いや、大分心に引っかかっていたりするのだった。


 く、九条君もやっぱりそういう事、
 したいと思ってるのかな……?

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