小犬の気持ち

はづき惣

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そのまたまた後の小犬

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 那月と九条が付き合い始めて三ヶ月。二人が本当の恋人同士になってから二ヶ月が過ぎた。

 ここまでそれなりに色々あったけれど、最近では二人の関係も少しだけ恋人同士らしくなってきた……かもしれない。

 と言うのも、那月が恋愛に初心者過ぎてそう何かが大きく進展をしたわけではないからだ。

 それでも何となく二人の気持ちが同じ方向を向いたこともあり、ようやく少し前に進めそうな雰囲気にはなってきていた。




 そんな、夏休みも近づいてきた七月のある日。

 暑さを避けるために早めに登校した那月が、まだ人もまばらな教室で鞄から教科書を出していると、やはり早めに来たらしいクラスメイトが声を掛けてくる。


「白井、おはよう。最近早いねえ」

「おはよう、藤沢君も早いね」

「元々オレはいつもこの時間だよ。遅いと電車が混んで嫌だからねえ。この時間だとまだましなんだあ」

「確かにそうかもね」


 お互い教科書をしまいながら、そんなたわいもない話をする。

 彼は例の那月に告白をしてきた、あの時のクラスメイトである。

 那月はあの後すぐに、その例の彼の藤沢と話をして、嘘をついた事と付き合えない事をきちんと謝罪していた。

 そうすると藤沢も、那月がついた嘘は仕方のない事だと理解を示してくれて、二人はその後から何となく話をするようになったのだ。

 藤沢曰く、相手が九条じゃねえと早々に那月のことは諦めたらしい。最近では割と普通に友達として仲良くしていたりする。
 

「それで白井はもうしたわけ?」

「何を?」


 脈絡のない藤沢の話に、那月は目を丸め不思議そうに聞き返す。


 藤沢君の話って時々主語がなくて、
 突然で分かりにくい時があるんだよね。


 何かやる事あったかなあと那月が考えていると、藤沢はニヤリとしながら耳打ちしてきた。
 

「九条と」

「九条君と?」

「SEX」

「ぶっ!!」


 声は出来る限り顰められてはいたけれど、朝からあんまりな内容に那月は思い切り吹き出してしまう。

 そんな那月の反応に、何事かと教室に数人いたクラスメイト達が不思議そうに二人を伺っている。

 その人達に那月は急いで手を振りながら、何でも無いとアピールをした。


「その反応だとまだかあ」


 真っ赤になって細かく震える那月のことを、まだニヤリと笑ったままの藤沢が興味深そうに見つめてくる。


「だって付き合ってもう三ヶ月でしょう?」

「……」


 九条と付き合っていることは話したが、詳しい事は何も知らない藤沢からしたら疑問に思うらしい。

 まあ高校生なんてそんなものかもしれない。興味があって当たり前な年頃だ。

 それに那月はハッキリとは聞いていないけど、どうやら藤沢は同性愛者みたいで、何となく同性と付き合った事や経験もあるように感じた。


「白井がそんなだからかなあ?」

「……藤沢君!」

「アハっ、顔赤すぎ」

「……もうこの話は終わり!」


 そう言って那月がプイッと顔を背けると、まだニヤニヤしている気配はするものの、藤沢はそれ以上その話をするのはやめてくれる。

 はっきりと言えば、那月と九条はまだまだそんな事の前の段階でもだもだしているのだ。


「まあ何かあったら話くらいは聞くよ。なかなか他の人には言いにくいだろうからねえ」


 あんな事を躊躇なく聞いてはくるけど、なんだかんだで藤沢は結構いい人だ。性格もサッパリしているし話してみると案外付き合いやすい。

 ある意味那月にとっては、九条の事が話せる貴重な友人が出来たのかもしれなかった。

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