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そのまた後の小犬
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「那月!」
自分を呼ぶ声にハッとして慌てて振り返ると、教室の入り口に、いつもより少し硬い表情の九条がそれでも綺麗に微笑んで立っていた。
その顔を見ると、那月はなんとなく九条にこの場を見られたことが気まずいような気持ちになる。
そういえばと思い急いで辺りを見回すと、さっきまで教室に残っていた人達は、どうやら帰った後らしく自分達の他には誰もいなくなっていた。
「遅くなってごめんね、早く帰ろうか」
「う、うん。……あ、あの」
そう言って教室に入って来た九条に頷きながらも、話がまだ途中なのも気になりオロオロと二人を交互に伺う。
だけど今もまだ少し硬い表情をした九条の事が気になって、那月はそっとその顔を見上げた。
九条君たぶん今の話聞いてたのかも……。
「じゃあね、白井、九条」
「あっ!」
そんな二人を見て、クラスメイトはさっとカバンを持つとあっという間に教室を出て行ってしまう。結局那月は、告白された事にたいして何も言えないままになってしまった。
ぐずぐずしていたから断るタイミングを逃してしまった……。
「那月」
後悔しながらクラスメイトを目で追っていた那月は、九条にいつもとは違うこわばった低い声で名前を呼ばれてドキッとして急いで振り返る。
けれど続けて小さくため息が聞こえてくると、初めてのことに動揺して身体が震え九条の顔が見れず俯いた。
「……あ、あの」
「……何ですぐに断らなかったの?」
やっぱり九条はさっきの話を聞いていたのだ、少し咎める様に那月に尋ねてきた。
「……そ、その、突然で驚いちゃって……」
「那月が優しいのは知ってるよ、だけど俺からしたらああいうのはすぐに断って欲しいな。那月には俺がいるんだから」
「そ、そうだよね」
「それにあんな風に言ったら、あの人だって那月が付き合ってくれると思っているかもしれないよ?」
そんなつもりは本当になかった。那月は震えながらもおずおずと顔を上げる。
そうすると九条は綺麗な形の眉を寄せて、悲しい様な怒っている様な何とも言えない目で、那月の事を真っ直ぐと見つめていた。
いつもとは全然違う九条に那月は後悔する。自分がちゃんとしなかったから駄目だったんだ。
「……あ、明日、すぐに話をするから」
「そうして……」
「う、うん、ごめんなさい」
「…………俺もごめん。……本当はこんな風に那月のことを責めたいわけじゃないんだ。たださっきの話を聞いたら気持ちが焦ってしまって……。那月のこと信じているけど不安で……」
そう言って九条は那月の腰を緩く抱き寄せる。
「俺は那月のことが好きだけど、那月はそうじゃないから……。那月がもし俺から離れていってしまったらと思うとつい……ごめん。那月にはいつだって優しくしたいのに……」
「九条君……」
近すぎる距離に躊躇いながらも、那月は九条を真っ直ぐと見つめ返した。九条にこんな目をさせてしまった事に胸が痛む。
確かに二人は嘘がきっかけで付き合い始めて、その後は九条にお願いされて付き合い続ける事になったから、那月の気持ちはまだ全然九条には追い付いていない。
だけど那月は、九条を裏切るようなことをするつもりなんて絶対ない。自分への九条の気持ちはちゃんと分かっているつもりだ。
だから那月は九条を見つめたまま、その背中に初めておずおずと腕をまわした。
自分を呼ぶ声にハッとして慌てて振り返ると、教室の入り口に、いつもより少し硬い表情の九条がそれでも綺麗に微笑んで立っていた。
その顔を見ると、那月はなんとなく九条にこの場を見られたことが気まずいような気持ちになる。
そういえばと思い急いで辺りを見回すと、さっきまで教室に残っていた人達は、どうやら帰った後らしく自分達の他には誰もいなくなっていた。
「遅くなってごめんね、早く帰ろうか」
「う、うん。……あ、あの」
そう言って教室に入って来た九条に頷きながらも、話がまだ途中なのも気になりオロオロと二人を交互に伺う。
だけど今もまだ少し硬い表情をした九条の事が気になって、那月はそっとその顔を見上げた。
九条君たぶん今の話聞いてたのかも……。
「じゃあね、白井、九条」
「あっ!」
そんな二人を見て、クラスメイトはさっとカバンを持つとあっという間に教室を出て行ってしまう。結局那月は、告白された事にたいして何も言えないままになってしまった。
ぐずぐずしていたから断るタイミングを逃してしまった……。
「那月」
後悔しながらクラスメイトを目で追っていた那月は、九条にいつもとは違うこわばった低い声で名前を呼ばれてドキッとして急いで振り返る。
けれど続けて小さくため息が聞こえてくると、初めてのことに動揺して身体が震え九条の顔が見れず俯いた。
「……あ、あの」
「……何ですぐに断らなかったの?」
やっぱり九条はさっきの話を聞いていたのだ、少し咎める様に那月に尋ねてきた。
「……そ、その、突然で驚いちゃって……」
「那月が優しいのは知ってるよ、だけど俺からしたらああいうのはすぐに断って欲しいな。那月には俺がいるんだから」
「そ、そうだよね」
「それにあんな風に言ったら、あの人だって那月が付き合ってくれると思っているかもしれないよ?」
そんなつもりは本当になかった。那月は震えながらもおずおずと顔を上げる。
そうすると九条は綺麗な形の眉を寄せて、悲しい様な怒っている様な何とも言えない目で、那月の事を真っ直ぐと見つめていた。
いつもとは全然違う九条に那月は後悔する。自分がちゃんとしなかったから駄目だったんだ。
「……あ、明日、すぐに話をするから」
「そうして……」
「う、うん、ごめんなさい」
「…………俺もごめん。……本当はこんな風に那月のことを責めたいわけじゃないんだ。たださっきの話を聞いたら気持ちが焦ってしまって……。那月のこと信じているけど不安で……」
そう言って九条は那月の腰を緩く抱き寄せる。
「俺は那月のことが好きだけど、那月はそうじゃないから……。那月がもし俺から離れていってしまったらと思うとつい……ごめん。那月にはいつだって優しくしたいのに……」
「九条君……」
近すぎる距離に躊躇いながらも、那月は九条を真っ直ぐと見つめ返した。九条にこんな目をさせてしまった事に胸が痛む。
確かに二人は嘘がきっかけで付き合い始めて、その後は九条にお願いされて付き合い続ける事になったから、那月の気持ちはまだ全然九条には追い付いていない。
だけど那月は、九条を裏切るようなことをするつもりなんて絶対ない。自分への九条の気持ちはちゃんと分かっているつもりだ。
だから那月は九条を見つめたまま、その背中に初めておずおずと腕をまわした。
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