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その後の小犬
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しおりを挟むそんなこんなで斉木が去っていき、ようやく九条の家にお邪魔する頃には、那月の緊張も程よく解れていた。
それに斉木はあんな事を言っていたけど、多分そういう事はないだろうと、那月は思っている。
一月程付き合ってみて、まだ恋愛的な意味で、九条を好きにはなれていないし。それに那月が色々と躊躇うと、九条も無理にはしなかったから。
おれが告白したと思っている九条君は、
少し変に感じているかもしれないけど……。
今の所、何も言わない九条の優しさに、那月は少し申し訳なく思いつつも、ホッとしてるし甘えていた。
「那月、どうぞ」
そう言って、笑顔を浮かべた九条は、玄関の扉を押さえてくれている。
初めての、しかも九条の家だという事に、那月は少しだけ緊張しながら、開けて貰った扉の中へと入った。
そうして玄関を上がると、エスコートするみたいに九条が、片手を腰に回してきたので少し慌てる。
ちらりと隣を伺えば、優しく微笑む九条とパチリと目が合ってしまった。
九条君は結構すぐに、くっつきたがるなあ……。
おれも友達とはくっついたりするけど、
今は少し何だかちょっと恥ずかしい気が。
「那月、そう言えば、聞くのを忘れていたんだけど」
玄関に近い部屋のドアの前で、九条がそう言って一度立ち止まった。
「今更だけど、那月は犬は平気? 嫌いなら違う部屋にするけど?」
「大丈夫、犬好きだよ。触った事ないけど」
「ごめんね、すっかり聞き忘れてて。でも那月が犬を好きで本当によかった。那月には絶対に、会いに来て見てほしかったから」
「見てほしいって、犬だったの?」
那月が、そんなに犬に?と少し不思議に思い聞くと、そうだよと言って九条は、すごく嬉しそうに笑う。
自慢したい位、可愛いって事かな?
友達の中にも、写真を見せてくる人もいるし。
犬は好きだけど飼った事もないし、よく分からないけど犬を飼ってる人って、そんな感じなのかなと那月は納得する。
そしてドアを開けると、黒い小さい犬がシッポを振りながら、入って来た九条に嬉しそうに駆け寄ってきた。
大人しい犬なのか吠えもしないで、九条の足元に目をキラキラさせて、チョコンとお座りをする。
「ただいま、ハル。那月お兄さんが来てくれたよ」
「……ん?」
足元にいる犬を優しく抱き上げながら、そんな風に言う九条を、犬飼さんてそんな感じとまた思う。
「那月、よかったら抱っこしてみない?」
「おれ、犬を飼った事ないし、抱っこした事もないけど大丈夫かな?」
少し躊躇いもあったけど、ぎこちない手付きで九条からそっと受け取ると、その犬は大人しく那月に抱っこされてくれた。
フワフワだし、あったかい、可愛い。
初めて犬を抱いた、那月の顔がふわりと綻ぶ。
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