小犬の気持ち

はづき惣

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小犬の気持ち

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 九条に誤解されたまま、斉木にまで誤解されて、もう本当どうすればいいのか、那月は分からなくなった。

 何度も違うと言うチャンスはあったけど、全然うまくいかない。

 このままでは那月は、九条と本当に付き合う事になってしまう。
 
 
 九条君は本気だ、それはすごく分かる。

 おれの事、好きだ、可愛いって
 めちゃくちゃ言ってくるし……。

 もう、このまま付き合うか……。
 
 
 だけど、九条は那月を好きでも、那月は九条を好きではないのだ。
 
 そんな気持ちで、付き合えるわけがない。
 
 
 それに、いくら九条君が綺麗で優しくても、
 おれだって男なんだし……。
 
 
 色々な事を考えていた那月が、やっぱり無理かもしれない、と思っていた所に、


「ただいま、那月」

「!!」


 九条が職員室から、帰って来てしまった。
 
 後ろから、キュッと優しくお腹の辺りを抱きしめられて、那月は心臓が止まりそうなくらい、驚いてしまう。

 声だけでも、その腕が九条のものだと分かった。

 
 結局、斉木君にも何も言えないまま、
 九条君が帰って来てしまった……。


「斉木! 職員室に先生いなかったけど、本当に頼まれたの?!」


 那月にかけた、優しい声とは全く違う怖い声で、九条は斉木に問い詰めている。


「え~! おかしいね~、いなかったの~?」


 それに、明後日の方を見て、斉木はとぼけた。

 たぶんそれは、那月に本当の事を、話したかった斉木が、九条を遠ざける為についた嘘だ。

 那月にとっても、真実を話せる、最大のチャンスだった。

 
 なのに、斉木君があんなんだから……。
 話、全然聞いてくれないし……。
 
 
 いつの間にか、那月の目には、だんだんと涙が溜まってきてしまう。


「那月、どうしたの? 少し震えてる。もしかして斉木に何かされた?」


 それに気が付いた九条は、那月を抱きしめたまま、背後から顔を覗き込み、心配そうに頬を撫でた。


「何にもしないよ~! 九条はそうやって、すぐオレだけ悪者にして~! 小……白井くんとは、九条のこと話してただけだし~」

「それは本当なの? 那月?」

「ホントだよ~! 小……白井くんも、九条のこと好きなんだって~! ホントよかったね、白井くんに付き合ってもらえて~」

「付き合うのは当たり前だろ。那月から俺に、告白してくれたんだから。でも、何だか少し、言い方が変だけど……斉木?」

「!! ちょ、ちょっと、間違えただけでしょ~!」


 自分の言い間違いに、斉木が慌てて誤魔化そうとしている。でもあれではすぐに、那月の告白が嘘だとバレそうだ。


「そうだよね? 那月。俺の事、前から好きで、告白してくれたんだよね?」


 ……おれは、何て答えればいいの。

 肯定? 否定?
 
 あんなに好きだと言ってくれる、
 九条君には悪いけど……否定だよね。

 
 帰って来てから、ずっと那月を抱きしめていた、九条の腕にギュッと力が入る。

 
 ……もう言うなら、今しかない。
 
 ……本当に、今しかない!

 
 那月は今度こそと決意し、自分を抱きしめる九条を振り返った。


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