小犬の気持ち

はづき惣

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小犬の気持ち

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「……だから~、お前達、今からキスでもするわけ~? そういうのは、二人だけの時にしてよ~」


 のんびりとした、さっきよりも、もっと呆れからかう声が、二人の側から聞こえてくる。

 那月がチラッと、目だけでそちらを見てみると、そこには九条の幼馴染だと、噂で聞いた事がある斉木が、笑いながら立っていた。

 九条には負けるけど、斉木もかなりのイケメンだ。

 しかし今は、その整った顔に、ニンマリと楽しげな、笑みを浮かべている。


 何だか、怖っ……。


 那月は少し、嫌な感じがした。


「斉木、那月は、恥ずかしがり屋だから、あまりからかわないで。それと那月、さっきも言ったけど、斉木は俺達のこと、知っているから、安心して」


 安心出来るわけない! 
 
 それに、恥ずかしがり屋でもないし!


 そもそも、手紙をあげたのは那月ではないし、九条を好きでもないし、ひとつも誤解を解くことが、出来ないままなのだから。

 ただでさえ、ややこしい事になっているのに、斉木にまで、知られているなんてと、那月は唖然とした。


 終わった……。


「それで、やっぱ二人は~、お付き合いするわけ~?」

「当たり前だろ」

「……っあ、違っ

「ふふふ~。九条、良かったね~、おめでとう~」


 斉木に祝福された九条は、満面の笑みで何だか誇らしげだった。

 那月はもう、いろいろな意味で、どうしたらいいのか分からない。


 でも、ここで諦めたらダメだ。

 今ならまだ、もしかして……。


 誤解を解くのに、まだ間に合うのでは、那月は密かに気合いを入れ直す。


「那月くんだっけ~。これから九条のこと、よろしくね~」

「斉木! 那月を名前で呼ばないで!」

「えぇ~。そんくらい、いいでしょ~」

「駄目だ! 名前で呼んでいいのは、俺だけだから!」


 さっきまで穏やかだった九条の、あまりにも怖い声に那月は驚き固まった。

 今まで、優しい九条しか、知らなかったから。いつの間にか知らないうちに、那月は震え出す。

 恐る恐る、チラッと顔を伺えば、その端正な顔を少ししかめ、あきらかに怒っている。

 美形なだけに、迫力があった。


 …………っ怖。


「はいは~い。了解で~す」


 だけどそんな九条に慣れているのか、斉木は軽く返事する。 

 でも那月には無理だった。


 怒った九条君が怖すぎる……。


 那月は小さく震えながら、さっきの気合いが消え失せていった。


 ビビりじゃないと思ってたけど、
 そうじゃないかも、自分はビビリかも。

 だって、ちょっと怒った九条君怖い。
 本気で怒ったら、きっとめちゃくちゃ怖い。

 今、本当のこと話したら……。
 絶対、言えない、言えるわけない!!
 

 那月の震えは、だんだんと大きくなる。

 もうどうすればいいのか、本当に分からなかった。



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