小犬の気持ち

はづき惣

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小犬の気持ち

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 那月は平凡だ。

 可もなく不可もなく、どこにでもいる普通の高校生である。 

 性格的にも目立つ方では無いし、特に波乱もなく平穏に毎日を過ごしてきた。

 那月自身もそれが、一番平和なのだと信じて、今まで生きてきた。


 なのに……。


「……っう……あのさっ……」

「どうしたの?」


 誤解を解こうと、那月が声をしぼりだすと、九条は甘く優しい声で聞いてくる。


「……その……手紙っっ

「すごく嬉しかった! 絶対に無理だと思っていたから! 君も俺も男だし諦めていたんだ。でもまさか! お互い好きだったなんて! 幸せだ!」


 机にバンッと、勢いよく手をつき、身を乗り出しながら、九条は一気にまくしたてる。

 途中から那月が顔色を悪くし、ピシリと固まっている事に気づいていないらしい。


「絶対に大切にするよ! 君にふさわしい恋人になれる様に努力する! だから俺達付き合おう!」

「っ……まっ……まって

「君が俺の恋人だなんて! これからはずっと俺の傍にいて欲しい!」

「…………」


 もはや那月の小さな震え声は、熱く語る九条には届かない。  

 九条はどうやら本気だ。

 那月をからかっているようには見えない。

 手紙を出したのが自分ではないと、那月が九条に言えないうちに、話はどんどんと進んでいる。

 それに、那月はますます震えた。

 早く誤解を解かないと、このままでは九条と付き合う事になってしまう。


 こんなのヤバ過ぎる、
 なんとか誤解を解かなくちゃ、
 九条君の事は、好きでもなんでもないんだから。


 と気持ちだけは焦って、うまく話せない那月は、もはや涙目だ。


「……可愛い」


「……えっ?」


 ポツリと呟かれた、九条の言葉の意味がわからず、那月はそっと顔を上げる。

 そうすると、甘く蕩けた笑顔で自分を見つめる九条と、パチリと目が合ってしまった。


「本当に可愛い! 可愛い君を、こんなに近くで見ることが出来て嬉しい! 幸せだ!」

「っか…………かわ…………」


 自分の容姿は普通だ。
 誰に聞いても、そう答えるはずだ。

 目が少し大きくて、女子に羨ましがられることが時々あるけど、特徴と言ったらそれくらいで……。

 可愛いはないな、と那月は少し冷静になる。

 九条は今すぐ眼科に行った方がいいと、心の中だけでつっこんだ。

 だけど、ふと見た九条の顔が、嘘をついている様には見えなくて、那月は戸惑う。

 愛おしそうな目で那月を見つめ、綺麗な顔で微笑んでいる。

 その顔を見てしまうと、那月は何だか妙にドキッとして、顔が熱くなってきた。

 
「好きだよ、那月」


 改まって真摯に告げる九条は、本当にとんでもなくかっこいい。

 那月は呆然として、真っ赤な顔のままで、九条を見ている事しか出来なかった。


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