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6母の対戦
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いざ家へ。早退上等。今は非常事態だ。授業もやってなかったし。
家の近くまで来る。すると途中で、杖をついて早歩きをしているおじいさんを見つけた。
そして、おじいさんの後ろには、巨大な魚。俺の知識ではマグロだかカツオだか判別できないが、ビッチビチと勢いよくはねながら、おじいさんへと近づいている。間違いない。あれはジェムーンだ。
「危ない、おじいさん!」
魚の動きは遅いが、おじいさんも距離を上手くとれていない。ここは絶対助けなければ。
「危ないわ、おじいさん。ここは私に任せて!」
そこで、俺より一足早く、ストールを首に巻いた母さんが現れた。あ、母さんだ、良かった、無事だ!
「な、なんじゃいったい。あんたも逃げなさい。巨大魚が、やって来よるぞ!」
おじいさんは、そこで母さんを見る。
「いいえ、大丈夫よおじいさん。私は正義の味方。人妻カード使い、青美。名前は必ず憶えてね。誰かが危険なら、すぐかけつける。それが私の使命よ!」
「母さん、何やってるんだ!」
無事だったのはいいが、このままだと魚におそわれるぞ!
「さあ、来なさいお魚さん。いざバトル!」
「イカー!」
あ、よく見ると母さんの肩に、イカが乗ってる。しかも、魚と母さんの間にテーブルが現れて、ジェムカウントの勝負が始まってしまった!
この先、どうなるんだ!
「対戦、よろしくお願いします!」
母さんはそう言ってデッキをシャッフルし、テーブルに置いた。魚側にも、デッキが現れる。
「まずは第一ターン目!」
母さんが五枚のカードを引く。そして更に、もう一枚ドローした。
「ドロー。お魚さん、用意ができたならいくわよ。レッツアレンジ、私は浜辺少女アサセをセレクト!」
母さんがカードを出すと、テーブルの上に少女の立体映像が現れた。そして魚の方は、ロボットが一瞬現れるけど、すぐに消える。
あれはまさか、ネズミのジェムーンも使っていた、オールドブラックか?
「母さん、敵は自分から裏返しになるカードを使った。たぶん、次から強い効果を発揮してくるぞ。気をつけるんだ!」
「あら、そうなのね。でも大丈夫、だって正義は負けないから。というか、あら赤輝、どうしたのこんなところで。学校はどうしたの?」
「今それどころじゃないんだ。母さんも目の前を見ての通りで、怪物がたくさん現れて、戦わないと皆が危険なんだよ!」
「ああ、それならここは安心よ。だって私が戦っているもの。正義の味方として、近所の平和を守るわ!」
「けど、心配だよ。もし母さんに何かあったら!」
そこで母さんは、俺にウインクした。似合わない。
「大丈夫。母さんの強さを見てなさい。すぐ怪物を倒してみせるわ!」
ばたんっ。ばたばたんっ。
ここで、魚の怪物が大きく、激しくじたばたした。
「ああ、ごめんなさい、お魚さん。そうね、今は対戦に集中しなくちゃ。それじゃあ、対戦再会ね。アサセの効果発動。場に出た時に、カードを一枚引く!」
これで母さんの手札が6枚になる。母さんのデッキには、少女のカードが入っているのか。
「カウントタイム、そしてヒールタイム。さあお魚さん。あなたのカードを一回分回復させて!」
ここで勝手に魚が出したカードが裏返しからタップ状態になる。やはり相手のカードはオールドブラック。そして次は、2ターン目か。
「ドロータイム、ドロー。アレンジタイム、私は波打ち際のアサリをセレクト!」
母さんの場に新たに出たのも、少女。一方、相手が出したのは、やはりオールドグレーだった。
「母さん、きっと相手はこのターンに、新しく出したカードがパワーアップしてバトルをしかけてくる。ここでアサセを狙われたら不利になるよ!」
「心配ご無用。アサリの効果発動。場に出た時カードを一枚引く。そして私の手札が6枚以上なら、相手はなるべくこのカードを選ぶ。つまりバトルされても、アサリが受け止めてくれるわ!」
「アサリー!」
アサリの立体映像もやる気まんまんだ。そして、オールドグレーとアサリがバトルして、アサリが負けた。相手のオールドグレーが+1ゾーンに移動し、母さんはアサリをタップする。
けど母さんはこれで、次のターン二枚分のコストを使えるぞ。これはなかなか、いい戦いかもしれない。
「カウントタイム。私が0で、あなたが2ね。でも勝負はこれから。更にいくわよー!」
母さんは、まだ余裕な表情だ。笑っている。これなら、大丈夫かも?
「ドロータイムドロー、アレンジタイムにレッツセレクト。私は高波ザブンナを場に出すわ!」
母さんの場に第3の少女が現れた。いや、少女というより、大人になりたての小麦肌のお姉さんって感じだ。
一方魚の場には、初めて見るロボットが一瞬現れて、すぐに消えた。どうやら、裏返しになったようだ。
「ザブンナの効果発動。カードを一枚引く。そして手札が7枚以上なら、このターン私は+1ゾーンにカードを一枚移動させることができて、更に相手はこのターンの間+1ゾーンにカードを移動させられない。私はザブンナを+1ゾーンへ移動!」
おお、これで母さんのジェムが増えた。これなら、ひょっとしたら次あたりでジェム数十までいけそうか?
「カウントタイム。私はジェム数4。お魚さんは1。ふふ、逆転ね。このまま一気にいくわよ。観念しなさいお魚さん!」
母さん、テンション高いな。まあ、高い方が良いかもしれないけど。
「ドロータイム、ドロー。そしてアレンジタイム、私は、津波寸前タカインをセレクト!」
母さんの場にタカインが現れた。貝殻水着に魚の足だけど、見た目は美女という感じだ。決して若くは見えない。
ギロッ!
「ひいっ」
今、タカインが俺を見た。見間違いじゃない。ガン見し続けてる。
ひょっとして、若くないって思ったのがばれた?
こく、こく。
うなずかれてる、二回もうなずいてるー!
「ご、ごめんなさいー!」
「赤輝、どうしたの?」
俺がラーレに心配されている間に、魚の方にもクリーチャーが現れる。なんだか、ドラム缶を強そうにしたようなロボットだ。
「あれは、初めて見るけど、いったいなんだ?」
「ええと、なになに。リバースマシンリューゾッテ。このカードが場に出た時、自分の裏返しのカードの数だけ、相手のタップ状態のカードを裏返しにする。なるほど、なかなか強そうなカードね」
母さんがテーブルをじっと見ながらそう呟く。なるほど、相手の動きを封じるカードか。これは、きびしいかもしれない。少なくとも、このターンで決着はつかないだろう。
「けど、私のタカインにはそんな効果通用しないわ。なぜなら、このジェムカウントでは相手に与える効果よりも先に、自分に与える効果が発動されるんですもの。よってまずはタカインの効果が発動。自分の場に出ているタップ状態のカードを一枚選んで、そのコスト+2の数だけ、手札のカードをデッキの一番上か下に好きな順で戻せば、そのカードをアンタップできる。それを好きな回数続ける。私の手札は今8枚。いくわよ、名づけて必殺、タカインウエーブフォース!」
「タカインウエーブフォース!」
「ラーレ、気にしなくていいよ」
母さんはうれしそうに手札のカードを4枚デッキの一番上に置いた。
「4枚カードをデッキに戻して、2コストのザブンナをアンタップ!」
「ザブーン!」
母さんがザブンナをアンタップする。
「続いて3枚のカードをデッキに戻して、1コストのアサリをアンタップ!」
「アサリー!」
母さんがアサリをアンタップする。
「残念ながら、私の手札は残り1枚。2枚デッキに戻してアサセをアンタップさせることはできないけど、でもこれで十分。例えアサセを裏返しにされても、もう今の私には10のジェムがそろっているのよ!」
「おー正義の味方青美すごーい!」
「ラーレ、正義の味方は言わなくていいぞ」
「その身に受けなさい、悪のお魚さん。必殺、ブルービューティフルジェムシャイン!」
「ブルービューティフルジェムシャイン!」
「ラーレ、言わなくていいぞ」
俺達が見ている前で、魚の全身が母さんによって完成された光の円の中に吸い込まれていく。
これで、勝ったのか。最初はヒヤッとしたけど、無事勝ってくれてよかった。
「か、怪物が、消えた。ありがとうございます、市舞さん。おかげで助かりました」
おじいさんが母さんに頭をさげる。あ、このおじいさん、母さんのこと知ってたんだ。なんだか、正義の味方とか言ってるところを見られて、俺がはずかしいな。
「いえいえ、困った時はお互い様です。この緊急事態が去ったら、またゲートボール大会で活躍してくださいね」
「ええ、そうします。市舞さんちのお父さんには余裕で勝てるんですが、怪物から逃げるのは、骨が折れますねえ」
「もう少しの辛抱ですよ。避難所まで行けば休憩できますから、一緒に行きましょう」
「いいんですか、ありがとうございます。怪物を倒せる市舞さんがいてくだされば、安心です」
「そうです。安心してください!」
とびっきりの笑顔をおじいさんに見せてから、母さんが俺を見る。
「ところで赤輝。いったいどこでそんなとびきりの美少女につかまえられちゃったの。こんなところを警察や独身男性の方に見られたら、袋叩きにされちゃうわよ」
「警察は袋叩きなんてしないよ。彼女はラーレ。たぶん、母さんの肩に乗ってるイカと同じ存在だよ」
「赤輝。イカさんと女の子を一緒みたいな言い方したらダメよ。イカさんは私の肩に乗るの上手なんだから」
「イカー」
「あの、そろそろ行きませんか?」
おじいさんにそう言われて、俺と母さんはそろってうなずき、言った。
「はい、そうしましょう」
歩きながらの説明後、母さんとおじいさんは驚いた顔を見せた。
「そうなの。ジェムーン、このイカさん達が。まさか、そんなことになっていたなんて。私のイカさんはそういうこと喋ってくれないから、本当に驚いたわ」
母さんがそう呟く。確かに、イカがイカしか喋らなかったら、何を言われてもさっぱりだろう。俺のパートナーになったジェムーンがラーレで良かった。ずっとだきついてくるのはちょっと大変だけど。
「では、全員がそのジェムカウンなんとかを持っていなければ、いけないのかのお。今の時代のマスクみたいに。わしは、そういう今時の新しい物というのはさっぱりわからんのじゃが」
おじいさんも、現状をはっきりと理解した。こうして皆怪物に正しく対応できるようになれば、混乱や被害は少なくすむのかもしれない。
幸い怪物の倒し方は、命の心配をするかわりに軽作業だし、きっと広まってくれるはずだ。
「そういえば、母さんもジェムカウント持ってたんだ」
「ええ。ダーリンからもらったの。このカードのおかげで、私は今正義の味方よ!」
「青美、正義の味方かっこいいよ!」
「イカー!」
「うふふ、ありがとう。ラーレちゃん、イカさん。私、若い子にはまだまだ負けないわよー!」
「母さん、楽しそうで何よりだよ」
「もちろんよ。あ、でも、遊び感覚でやってるわけじゃないんだからね。ちゃんと本気なんだから」
本気の方が嫌だよ。
「そうだ、赤輝もちゃんと、正義の味方を名乗るようにしなさい。そうした方が活入るわよ!」
「いいです。十分活入ってるんで」
この時、目の前に巨大スズメと巨大エビが現れた。間違いない、ジェムーンだ。
「現れたわね、悪のジェムーン。あなた達はこの私、正義の味方、人妻カード使い青美が倒すわ!」
「母さん、そういうのいいから、母さんはエビを相手して。俺はスズメを倒すから!」
その後。対戦は俺と母さんの有利で終盤に入った。
「マグマアローの効果発動。二枚のカードをアンタップ。これでジェムを十個以上そろえきったぞ!」
「タカインウエーブフォースを発動。これでとどめよ。必殺、ブルービューティフルジェムシャイン!」
二人ほぼ同時に、危なげなくジェムーン二体を倒す。二人いるから倒すスピードは倍だけど、やっぱり町はまだまだ危険だ。気が抜けない。
「正義は勝つ!」
「母さん、決めポーズしなくてもいいよ」
「これで二体やっつけたわね。でも、やっぱりまだまだジェムーンはたくさんいる。だから、赤輝。ここは別行動をとりましょう。そうすれば、少しでもジェムーンを倒す機会が増えるはず。私もおじいさんを避難所に連れて行ったら、またジェムーンとの戦いに戻るから、あなたも頑張ってちょうだい」
「母さん、でも、母さんだけで大丈夫なの?」
「もちろんよ。なんと言ったって私は正義の味方、人妻カード使い青美だもの。さあ、わかったら行きなさい。あなたがジェムーンにおそわれてしまった誰かを助け、同時に新たにおそわれる人も救うのよ!」
「!」
そ、そんなこと言われたら、行かずにはいられないじゃないか!
「わかったよ母さん。それじゃあおじいさんを頼んだよ!」
「ええ、任せておきなさい。ラーレちゃんも、うちの息子を守ってちょうだいね」
「うん、わかった。青美、私がんばる!」
「イカー!」
こうして、俺は母さんと一旦別れ、ジェムーン退治に向かった。
いったいどれだけの人がジェムーンに恐怖していることだろう。ここはガラじゃないが、正義の味方になって駆け回ってやる!
家の近くまで来る。すると途中で、杖をついて早歩きをしているおじいさんを見つけた。
そして、おじいさんの後ろには、巨大な魚。俺の知識ではマグロだかカツオだか判別できないが、ビッチビチと勢いよくはねながら、おじいさんへと近づいている。間違いない。あれはジェムーンだ。
「危ない、おじいさん!」
魚の動きは遅いが、おじいさんも距離を上手くとれていない。ここは絶対助けなければ。
「危ないわ、おじいさん。ここは私に任せて!」
そこで、俺より一足早く、ストールを首に巻いた母さんが現れた。あ、母さんだ、良かった、無事だ!
「な、なんじゃいったい。あんたも逃げなさい。巨大魚が、やって来よるぞ!」
おじいさんは、そこで母さんを見る。
「いいえ、大丈夫よおじいさん。私は正義の味方。人妻カード使い、青美。名前は必ず憶えてね。誰かが危険なら、すぐかけつける。それが私の使命よ!」
「母さん、何やってるんだ!」
無事だったのはいいが、このままだと魚におそわれるぞ!
「さあ、来なさいお魚さん。いざバトル!」
「イカー!」
あ、よく見ると母さんの肩に、イカが乗ってる。しかも、魚と母さんの間にテーブルが現れて、ジェムカウントの勝負が始まってしまった!
この先、どうなるんだ!
「対戦、よろしくお願いします!」
母さんはそう言ってデッキをシャッフルし、テーブルに置いた。魚側にも、デッキが現れる。
「まずは第一ターン目!」
母さんが五枚のカードを引く。そして更に、もう一枚ドローした。
「ドロー。お魚さん、用意ができたならいくわよ。レッツアレンジ、私は浜辺少女アサセをセレクト!」
母さんがカードを出すと、テーブルの上に少女の立体映像が現れた。そして魚の方は、ロボットが一瞬現れるけど、すぐに消える。
あれはまさか、ネズミのジェムーンも使っていた、オールドブラックか?
「母さん、敵は自分から裏返しになるカードを使った。たぶん、次から強い効果を発揮してくるぞ。気をつけるんだ!」
「あら、そうなのね。でも大丈夫、だって正義は負けないから。というか、あら赤輝、どうしたのこんなところで。学校はどうしたの?」
「今それどころじゃないんだ。母さんも目の前を見ての通りで、怪物がたくさん現れて、戦わないと皆が危険なんだよ!」
「ああ、それならここは安心よ。だって私が戦っているもの。正義の味方として、近所の平和を守るわ!」
「けど、心配だよ。もし母さんに何かあったら!」
そこで母さんは、俺にウインクした。似合わない。
「大丈夫。母さんの強さを見てなさい。すぐ怪物を倒してみせるわ!」
ばたんっ。ばたばたんっ。
ここで、魚の怪物が大きく、激しくじたばたした。
「ああ、ごめんなさい、お魚さん。そうね、今は対戦に集中しなくちゃ。それじゃあ、対戦再会ね。アサセの効果発動。場に出た時に、カードを一枚引く!」
これで母さんの手札が6枚になる。母さんのデッキには、少女のカードが入っているのか。
「カウントタイム、そしてヒールタイム。さあお魚さん。あなたのカードを一回分回復させて!」
ここで勝手に魚が出したカードが裏返しからタップ状態になる。やはり相手のカードはオールドブラック。そして次は、2ターン目か。
「ドロータイム、ドロー。アレンジタイム、私は波打ち際のアサリをセレクト!」
母さんの場に新たに出たのも、少女。一方、相手が出したのは、やはりオールドグレーだった。
「母さん、きっと相手はこのターンに、新しく出したカードがパワーアップしてバトルをしかけてくる。ここでアサセを狙われたら不利になるよ!」
「心配ご無用。アサリの効果発動。場に出た時カードを一枚引く。そして私の手札が6枚以上なら、相手はなるべくこのカードを選ぶ。つまりバトルされても、アサリが受け止めてくれるわ!」
「アサリー!」
アサリの立体映像もやる気まんまんだ。そして、オールドグレーとアサリがバトルして、アサリが負けた。相手のオールドグレーが+1ゾーンに移動し、母さんはアサリをタップする。
けど母さんはこれで、次のターン二枚分のコストを使えるぞ。これはなかなか、いい戦いかもしれない。
「カウントタイム。私が0で、あなたが2ね。でも勝負はこれから。更にいくわよー!」
母さんは、まだ余裕な表情だ。笑っている。これなら、大丈夫かも?
「ドロータイムドロー、アレンジタイムにレッツセレクト。私は高波ザブンナを場に出すわ!」
母さんの場に第3の少女が現れた。いや、少女というより、大人になりたての小麦肌のお姉さんって感じだ。
一方魚の場には、初めて見るロボットが一瞬現れて、すぐに消えた。どうやら、裏返しになったようだ。
「ザブンナの効果発動。カードを一枚引く。そして手札が7枚以上なら、このターン私は+1ゾーンにカードを一枚移動させることができて、更に相手はこのターンの間+1ゾーンにカードを移動させられない。私はザブンナを+1ゾーンへ移動!」
おお、これで母さんのジェムが増えた。これなら、ひょっとしたら次あたりでジェム数十までいけそうか?
「カウントタイム。私はジェム数4。お魚さんは1。ふふ、逆転ね。このまま一気にいくわよ。観念しなさいお魚さん!」
母さん、テンション高いな。まあ、高い方が良いかもしれないけど。
「ドロータイム、ドロー。そしてアレンジタイム、私は、津波寸前タカインをセレクト!」
母さんの場にタカインが現れた。貝殻水着に魚の足だけど、見た目は美女という感じだ。決して若くは見えない。
ギロッ!
「ひいっ」
今、タカインが俺を見た。見間違いじゃない。ガン見し続けてる。
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こく、こく。
うなずかれてる、二回もうなずいてるー!
「ご、ごめんなさいー!」
「赤輝、どうしたの?」
俺がラーレに心配されている間に、魚の方にもクリーチャーが現れる。なんだか、ドラム缶を強そうにしたようなロボットだ。
「あれは、初めて見るけど、いったいなんだ?」
「ええと、なになに。リバースマシンリューゾッテ。このカードが場に出た時、自分の裏返しのカードの数だけ、相手のタップ状態のカードを裏返しにする。なるほど、なかなか強そうなカードね」
母さんがテーブルをじっと見ながらそう呟く。なるほど、相手の動きを封じるカードか。これは、きびしいかもしれない。少なくとも、このターンで決着はつかないだろう。
「けど、私のタカインにはそんな効果通用しないわ。なぜなら、このジェムカウントでは相手に与える効果よりも先に、自分に与える効果が発動されるんですもの。よってまずはタカインの効果が発動。自分の場に出ているタップ状態のカードを一枚選んで、そのコスト+2の数だけ、手札のカードをデッキの一番上か下に好きな順で戻せば、そのカードをアンタップできる。それを好きな回数続ける。私の手札は今8枚。いくわよ、名づけて必殺、タカインウエーブフォース!」
「タカインウエーブフォース!」
「ラーレ、気にしなくていいよ」
母さんはうれしそうに手札のカードを4枚デッキの一番上に置いた。
「4枚カードをデッキに戻して、2コストのザブンナをアンタップ!」
「ザブーン!」
母さんがザブンナをアンタップする。
「続いて3枚のカードをデッキに戻して、1コストのアサリをアンタップ!」
「アサリー!」
母さんがアサリをアンタップする。
「残念ながら、私の手札は残り1枚。2枚デッキに戻してアサセをアンタップさせることはできないけど、でもこれで十分。例えアサセを裏返しにされても、もう今の私には10のジェムがそろっているのよ!」
「おー正義の味方青美すごーい!」
「ラーレ、正義の味方は言わなくていいぞ」
「その身に受けなさい、悪のお魚さん。必殺、ブルービューティフルジェムシャイン!」
「ブルービューティフルジェムシャイン!」
「ラーレ、言わなくていいぞ」
俺達が見ている前で、魚の全身が母さんによって完成された光の円の中に吸い込まれていく。
これで、勝ったのか。最初はヒヤッとしたけど、無事勝ってくれてよかった。
「か、怪物が、消えた。ありがとうございます、市舞さん。おかげで助かりました」
おじいさんが母さんに頭をさげる。あ、このおじいさん、母さんのこと知ってたんだ。なんだか、正義の味方とか言ってるところを見られて、俺がはずかしいな。
「いえいえ、困った時はお互い様です。この緊急事態が去ったら、またゲートボール大会で活躍してくださいね」
「ええ、そうします。市舞さんちのお父さんには余裕で勝てるんですが、怪物から逃げるのは、骨が折れますねえ」
「もう少しの辛抱ですよ。避難所まで行けば休憩できますから、一緒に行きましょう」
「いいんですか、ありがとうございます。怪物を倒せる市舞さんがいてくだされば、安心です」
「そうです。安心してください!」
とびっきりの笑顔をおじいさんに見せてから、母さんが俺を見る。
「ところで赤輝。いったいどこでそんなとびきりの美少女につかまえられちゃったの。こんなところを警察や独身男性の方に見られたら、袋叩きにされちゃうわよ」
「警察は袋叩きなんてしないよ。彼女はラーレ。たぶん、母さんの肩に乗ってるイカと同じ存在だよ」
「赤輝。イカさんと女の子を一緒みたいな言い方したらダメよ。イカさんは私の肩に乗るの上手なんだから」
「イカー」
「あの、そろそろ行きませんか?」
おじいさんにそう言われて、俺と母さんはそろってうなずき、言った。
「はい、そうしましょう」
歩きながらの説明後、母さんとおじいさんは驚いた顔を見せた。
「そうなの。ジェムーン、このイカさん達が。まさか、そんなことになっていたなんて。私のイカさんはそういうこと喋ってくれないから、本当に驚いたわ」
母さんがそう呟く。確かに、イカがイカしか喋らなかったら、何を言われてもさっぱりだろう。俺のパートナーになったジェムーンがラーレで良かった。ずっとだきついてくるのはちょっと大変だけど。
「では、全員がそのジェムカウンなんとかを持っていなければ、いけないのかのお。今の時代のマスクみたいに。わしは、そういう今時の新しい物というのはさっぱりわからんのじゃが」
おじいさんも、現状をはっきりと理解した。こうして皆怪物に正しく対応できるようになれば、混乱や被害は少なくすむのかもしれない。
幸い怪物の倒し方は、命の心配をするかわりに軽作業だし、きっと広まってくれるはずだ。
「そういえば、母さんもジェムカウント持ってたんだ」
「ええ。ダーリンからもらったの。このカードのおかげで、私は今正義の味方よ!」
「青美、正義の味方かっこいいよ!」
「イカー!」
「うふふ、ありがとう。ラーレちゃん、イカさん。私、若い子にはまだまだ負けないわよー!」
「母さん、楽しそうで何よりだよ」
「もちろんよ。あ、でも、遊び感覚でやってるわけじゃないんだからね。ちゃんと本気なんだから」
本気の方が嫌だよ。
「そうだ、赤輝もちゃんと、正義の味方を名乗るようにしなさい。そうした方が活入るわよ!」
「いいです。十分活入ってるんで」
この時、目の前に巨大スズメと巨大エビが現れた。間違いない、ジェムーンだ。
「現れたわね、悪のジェムーン。あなた達はこの私、正義の味方、人妻カード使い青美が倒すわ!」
「母さん、そういうのいいから、母さんはエビを相手して。俺はスズメを倒すから!」
その後。対戦は俺と母さんの有利で終盤に入った。
「マグマアローの効果発動。二枚のカードをアンタップ。これでジェムを十個以上そろえきったぞ!」
「タカインウエーブフォースを発動。これでとどめよ。必殺、ブルービューティフルジェムシャイン!」
二人ほぼ同時に、危なげなくジェムーン二体を倒す。二人いるから倒すスピードは倍だけど、やっぱり町はまだまだ危険だ。気が抜けない。
「正義は勝つ!」
「母さん、決めポーズしなくてもいいよ」
「これで二体やっつけたわね。でも、やっぱりまだまだジェムーンはたくさんいる。だから、赤輝。ここは別行動をとりましょう。そうすれば、少しでもジェムーンを倒す機会が増えるはず。私もおじいさんを避難所に連れて行ったら、またジェムーンとの戦いに戻るから、あなたも頑張ってちょうだい」
「母さん、でも、母さんだけで大丈夫なの?」
「もちろんよ。なんと言ったって私は正義の味方、人妻カード使い青美だもの。さあ、わかったら行きなさい。あなたがジェムーンにおそわれてしまった誰かを助け、同時に新たにおそわれる人も救うのよ!」
「!」
そ、そんなこと言われたら、行かずにはいられないじゃないか!
「わかったよ母さん。それじゃあおじいさんを頼んだよ!」
「ええ、任せておきなさい。ラーレちゃんも、うちの息子を守ってちょうだいね」
「うん、わかった。青美、私がんばる!」
「イカー!」
こうして、俺は母さんと一旦別れ、ジェムーン退治に向かった。
いったいどれだけの人がジェムーンに恐怖していることだろう。ここはガラじゃないが、正義の味方になって駆け回ってやる!
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