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倉中一夜3
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俺を通したドアが勝手に閉まる。
それはいつものことだったが、俺はここで思考を止める。
部屋の中に、テーブルは無かった。
そのかわり目の前に、ほぼ壁のように存在する急な上り坂があった。その坂は俺の身長よりも高い。ジャンプして手を伸ばしても上には届きそうにない。
そして坂の真ん中には、ロープが坂の上からたれさがっている。
「要するにのぼれってことかよ。わかりやすいなーおい!」
俺は覚悟を決めて、カメラを置いた。
「俺が両手を使うとどうなるか知ってるか。それはつまり、本気を出すということだ!」
何回か両肩を回してから、ロープに近づく。
「絶対、のぼってやる!」
そう言ってから、ロープを両手で握る。そして、足を坂につけてロープをのぼり始める。
「よし、のぼれる。のぼれるぞ!」
右手、左手、少しずつ、上がっていく!
「坂は急だが、これならいける。何も問題なんてねえ。のぼればいいだけなんて簡単じゃねえか!」
右手、左手、右手、左手!
どんどんのぼれる、どんどん上がれるぜ。やったー!
「楽勝、圧勝、全勝、完勝。良い部屋選んだぜ、俺!」
そして、その時。
なぜかロープが、ヌルッとした。
「へ?」
ロープをつかんだ手が、ズルズルとすべっていく。そこから先へは、のぼれない。
これは、まさか、油?
「なんで、なんで油なんて、ぬってあんだあ!」
つかめない、つかめない、つかめない!
坂はまだ途中。半分ほどだ。それなのに、これ以上上にはロープでのぼれない!
「っだー!」
意を決して、ロープを手放した。
そして、坂を這ってのぼろうとする。
けど。
「だあああああ!」
体はそのまま坂を滑って、一番下まで戻ってしまった。
「こんなのありかよ、ロープが使えないのかよお!」
そこで、あの音楽が聞こえる。
ふと、ここで一夢と俊二と季目の顔を思い出す。
そうすると、自然と俺の心に闘志の炎が燃え上がった。
「絶対負けない、絶対負けないからな、俺はこんなところで、負けたりしない!」
そして、すぐに坂のいたるところをベタベタ手で触って、何かないか探し始めた。
「助けてやる、皆。俺は助かる、必ず。ここから出るんだ、出るんだ!」
そしてとうとう右端で、坂の一部が押すと凹み、手や足が入るくぼみになるしかけを発見した。
ここで頭にのぼっていた血が、いくらか下がる。
「ふっ、そんなことだろうと思ったぜ。ここからのぼる!」
押したら現れるくぼみを手探り足探りで見つけていきながら、坂の右端をのぼっていく。
すると、かなり簡単にロープでのぼった地点をこえた。
「よし、このまま。このままいく!」
上へ。上へ。ひたすら上へ。
すると、あともう少しで坂の頂上に届くというところまでこれた!
「やったぞ、ゴールだ!」
そして、とうとう坂の頂上に指をかけた時。
ガコン。
なぜか、坂の頂上が大きく傾き、次の瞬間、今指と足先をひっかけているくぼみが無くなり、全部つるっつるな坂になった。
「な、あっ」
くぼみに入れておけなくなった片手と両足が、坂を滑り、体が下へとおりてしまう。
「なああああ」
これはまさか、罠。坂の頂上が、くぼみを消すスイッチになってる?
つまり、端をのぼるのも間違いだっていうのか!
「いいやっ。いいや、まだだ。いいところまで行けたんだ。きっと何かある!」
とは思いつつも、一応左端の坂も調べる。
すると、左端にもところどころくぼみになるしかけがあった。
「左からでもいいのか?」
半信半疑ながらも、坂をのぼる。
くぼみに手を入れ、足先を入れ、手を入れ、足先を入れ、順調にのぼっていく。
そして、やっと手が坂の頂上に届くというところで、俺は一度止まった。
「もしかしたら、こっちにもあのスイッチがあるかもしれない。ここから一気にとび上がって、滑り落ちないところまで行くんだ」
体を上下にゆらして、最高に高くジャンプできるタイミングを作る。
1、2、3!
「うおおお!」
とんで、そして、肘まで坂の上に届かせる!
そこで、坂の上がかたむいて、スイッチが作動する!
そして、何もつかめず、体を支えられない俺は、またもや体を坂の下へとすべらせてしまう!
「くっそおおお!」
思わず坂を両手で叩く。何が簡単だ。何が楽勝だ。想像以上にヤバいぞ、この部屋は!
「もう一度だ。もしかしたら、坂の途中に何かあるかも!」
俺は諦めず、また左端をのぼる。既に見つけた以外のくぼみも探しつつ、9割がたのぼりきる。
そして、坂の上に手が届くというところで、必死に右側を探ると、とうとう見つけた。今の位置から右側に、新しいくぼみがあった。
「よっしゃあ、これでいける!」
俺は右に移動する。そして更に上へ、あるいは右へ行くくぼみを探す。
けれど、喜べたのはここまでだった。
「ただ右に移動できる、だけ?」
なんだそれ。なんだそれは。なんなんだよそんなのありかよ!
「こ、ここだけスイッチになってないとか」
か細い糸をたぐりよせるように、上へと手を伸ばす。
しかし。
また坂の上はスイッチになっていて、くぼみが消え、俺の体はすべりおちた。
「ちっくしょう、ちっくしょうう!」
まだあきらめる時間じゃない。次は右だ。右のくぼみを使ってまたのぼるんだ!
右端をのぼり、頂上付近で、左へ行くくぼみを探す。それから上へ、または右へ、もしかしたらと思い下に新しいくぼみがないかも探る。
けど、それ以上は何も見つからず、結局坂の上のスイッチを起動させ、すべり落ちてしまう。
「こんなの、こんな」
無理だ。不可能だ。
そこまで考えてしまった時、ぐっと口を閉じる。
その言葉だけは、決して口にしてはいけない!
この館に行こうって言いだしたのは俺で。
あいつらは、一緒に来てくれて、特に季目は怖がっていたのに、がんばってくれて。そして、なぜかわけのわからないものにさらわれて。
そして俺は、役立たず。
そんなの、そんなの許せるかよ。誰も許さねえよ!
「絶対、皆と家に帰って。明日からは、普通の日常があって、今日の記憶は、だんだんうすれて忘れていく。そうなるんだ。そうなってほしいんだ。だから、だから!」
ここで、音楽が止まった。
「みいつけた」
なぞの少女の声が、聞こえた。
「だから、皆家に帰らせてくれよ!」
熱くなる思考のまま、ドアの方を見る。
俺はまだ、イスに座れていない。
だから、俺はこれからあの何かにやられるだろう。
すっごくくやしい。すっごく悔いる。けど。
けど、希望だけは、捨てない!
ドアが開く。
大量の髪の毛が部屋に入ってくる。
「清美、お前が皆を救うんだ!」
力の限り、精一杯叫ぶ。
絶対、最後には皆で笑ってやるんだ!
だから、だから、だからー!
そして、髪の毛が俺の体にまきついて、まきついてきて!
うわあああああ!
この部屋のしかけですが。
この部屋の右壁には、坂と同じ、押せばくぼみが現れるしかけがありました。
そこをのぼって、壁づたいに坂の上に行き、玉を手に入れるというのがこの部屋の攻略法でした。
それでは、話の続きをお楽しみください。
それはいつものことだったが、俺はここで思考を止める。
部屋の中に、テーブルは無かった。
そのかわり目の前に、ほぼ壁のように存在する急な上り坂があった。その坂は俺の身長よりも高い。ジャンプして手を伸ばしても上には届きそうにない。
そして坂の真ん中には、ロープが坂の上からたれさがっている。
「要するにのぼれってことかよ。わかりやすいなーおい!」
俺は覚悟を決めて、カメラを置いた。
「俺が両手を使うとどうなるか知ってるか。それはつまり、本気を出すということだ!」
何回か両肩を回してから、ロープに近づく。
「絶対、のぼってやる!」
そう言ってから、ロープを両手で握る。そして、足を坂につけてロープをのぼり始める。
「よし、のぼれる。のぼれるぞ!」
右手、左手、少しずつ、上がっていく!
「坂は急だが、これならいける。何も問題なんてねえ。のぼればいいだけなんて簡単じゃねえか!」
右手、左手、右手、左手!
どんどんのぼれる、どんどん上がれるぜ。やったー!
「楽勝、圧勝、全勝、完勝。良い部屋選んだぜ、俺!」
そして、その時。
なぜかロープが、ヌルッとした。
「へ?」
ロープをつかんだ手が、ズルズルとすべっていく。そこから先へは、のぼれない。
これは、まさか、油?
「なんで、なんで油なんて、ぬってあんだあ!」
つかめない、つかめない、つかめない!
坂はまだ途中。半分ほどだ。それなのに、これ以上上にはロープでのぼれない!
「っだー!」
意を決して、ロープを手放した。
そして、坂を這ってのぼろうとする。
けど。
「だあああああ!」
体はそのまま坂を滑って、一番下まで戻ってしまった。
「こんなのありかよ、ロープが使えないのかよお!」
そこで、あの音楽が聞こえる。
ふと、ここで一夢と俊二と季目の顔を思い出す。
そうすると、自然と俺の心に闘志の炎が燃え上がった。
「絶対負けない、絶対負けないからな、俺はこんなところで、負けたりしない!」
そして、すぐに坂のいたるところをベタベタ手で触って、何かないか探し始めた。
「助けてやる、皆。俺は助かる、必ず。ここから出るんだ、出るんだ!」
そしてとうとう右端で、坂の一部が押すと凹み、手や足が入るくぼみになるしかけを発見した。
ここで頭にのぼっていた血が、いくらか下がる。
「ふっ、そんなことだろうと思ったぜ。ここからのぼる!」
押したら現れるくぼみを手探り足探りで見つけていきながら、坂の右端をのぼっていく。
すると、かなり簡単にロープでのぼった地点をこえた。
「よし、このまま。このままいく!」
上へ。上へ。ひたすら上へ。
すると、あともう少しで坂の頂上に届くというところまでこれた!
「やったぞ、ゴールだ!」
そして、とうとう坂の頂上に指をかけた時。
ガコン。
なぜか、坂の頂上が大きく傾き、次の瞬間、今指と足先をひっかけているくぼみが無くなり、全部つるっつるな坂になった。
「な、あっ」
くぼみに入れておけなくなった片手と両足が、坂を滑り、体が下へとおりてしまう。
「なああああ」
これはまさか、罠。坂の頂上が、くぼみを消すスイッチになってる?
つまり、端をのぼるのも間違いだっていうのか!
「いいやっ。いいや、まだだ。いいところまで行けたんだ。きっと何かある!」
とは思いつつも、一応左端の坂も調べる。
すると、左端にもところどころくぼみになるしかけがあった。
「左からでもいいのか?」
半信半疑ながらも、坂をのぼる。
くぼみに手を入れ、足先を入れ、手を入れ、足先を入れ、順調にのぼっていく。
そして、やっと手が坂の頂上に届くというところで、俺は一度止まった。
「もしかしたら、こっちにもあのスイッチがあるかもしれない。ここから一気にとび上がって、滑り落ちないところまで行くんだ」
体を上下にゆらして、最高に高くジャンプできるタイミングを作る。
1、2、3!
「うおおお!」
とんで、そして、肘まで坂の上に届かせる!
そこで、坂の上がかたむいて、スイッチが作動する!
そして、何もつかめず、体を支えられない俺は、またもや体を坂の下へとすべらせてしまう!
「くっそおおお!」
思わず坂を両手で叩く。何が簡単だ。何が楽勝だ。想像以上にヤバいぞ、この部屋は!
「もう一度だ。もしかしたら、坂の途中に何かあるかも!」
俺は諦めず、また左端をのぼる。既に見つけた以外のくぼみも探しつつ、9割がたのぼりきる。
そして、坂の上に手が届くというところで、必死に右側を探ると、とうとう見つけた。今の位置から右側に、新しいくぼみがあった。
「よっしゃあ、これでいける!」
俺は右に移動する。そして更に上へ、あるいは右へ行くくぼみを探す。
けれど、喜べたのはここまでだった。
「ただ右に移動できる、だけ?」
なんだそれ。なんだそれは。なんなんだよそんなのありかよ!
「こ、ここだけスイッチになってないとか」
か細い糸をたぐりよせるように、上へと手を伸ばす。
しかし。
また坂の上はスイッチになっていて、くぼみが消え、俺の体はすべりおちた。
「ちっくしょう、ちっくしょうう!」
まだあきらめる時間じゃない。次は右だ。右のくぼみを使ってまたのぼるんだ!
右端をのぼり、頂上付近で、左へ行くくぼみを探す。それから上へ、または右へ、もしかしたらと思い下に新しいくぼみがないかも探る。
けど、それ以上は何も見つからず、結局坂の上のスイッチを起動させ、すべり落ちてしまう。
「こんなの、こんな」
無理だ。不可能だ。
そこまで考えてしまった時、ぐっと口を閉じる。
その言葉だけは、決して口にしてはいけない!
この館に行こうって言いだしたのは俺で。
あいつらは、一緒に来てくれて、特に季目は怖がっていたのに、がんばってくれて。そして、なぜかわけのわからないものにさらわれて。
そして俺は、役立たず。
そんなの、そんなの許せるかよ。誰も許さねえよ!
「絶対、皆と家に帰って。明日からは、普通の日常があって、今日の記憶は、だんだんうすれて忘れていく。そうなるんだ。そうなってほしいんだ。だから、だから!」
ここで、音楽が止まった。
「みいつけた」
なぞの少女の声が、聞こえた。
「だから、皆家に帰らせてくれよ!」
熱くなる思考のまま、ドアの方を見る。
俺はまだ、イスに座れていない。
だから、俺はこれからあの何かにやられるだろう。
すっごくくやしい。すっごく悔いる。けど。
けど、希望だけは、捨てない!
ドアが開く。
大量の髪の毛が部屋に入ってくる。
「清美、お前が皆を救うんだ!」
力の限り、精一杯叫ぶ。
絶対、最後には皆で笑ってやるんだ!
だから、だから、だからー!
そして、髪の毛が俺の体にまきついて、まきついてきて!
うわあああああ!
この部屋のしかけですが。
この部屋の右壁には、坂と同じ、押せばくぼみが現れるしかけがありました。
そこをのぼって、壁づたいに坂の上に行き、玉を手に入れるというのがこの部屋の攻略法でした。
それでは、話の続きをお楽しみください。
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