緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 導師の言葉により、先程の現象にはリアスと呼ばれたこの青年が関わっている、と感じ取ったキールとシャール、そしてシリウスの側近ロッドとガイは、彼を注視した。

「久しぶりです、ライ老師。――緑の塔へようこそ」

 しかし、特に説明するでもなくそのまま扉を開け、淡々と塔の中へと促すリアスに、たまらなくなった四人は個々に訴えだした。

「一体、何がどうなっている?」

「あなた! あの三人を何処へやったの?」

「どうか私もシリウス様のところへ!」

「一緒のところへ行かせてください!」

 そこへ、宥める様に、導師が声をかけた。

「まあ、落ち着け。――続きは、とにかく塔の中へ入ってからじゃ」

 さっさとリアスに続いて塔の中へと入っていく導師にも促され、残りの者達もしぶしぶ後に続く――しかし、扉をくぐり抜け、一つ目の角を曲がった途端、皆息を呑んだ。

 広間から延々と横たわる、おびただしい人の影――シャールは思わず口に手を当てて、悲鳴を押し殺した。

 シリウスの側近、ロッドとガイも思いもかけぬその光景にたじろぎ、低く尋ねる。

「これは、――皆死んでいるのか?」

「正確には、いいえ。……限りなく、死に近い状態ですけどね」

 謎めいたリアスの返答を聞き、ロッドは彼に掴みかかった。

「――死にかけた病人を、ただ床に転がしてるだけなのかよっ!」

 そのままリアスを殴りつけそうなロッドの勢いに、導師が間に割って入った。

「やめんかっ! ……リアスよ、もう少し丁寧に事情が分かるよう説明してやることは、出来んのか……」

 冷たく整った容貌を導師に向け、ただ眉を上げて、何故私がそのような面倒を――と雄弁に訴えたリアスの仕草に、導師はため息を吐いた。

「相変わらずじゃな、そなた。……よくここまで手助けをしたものじゃ」

 基本的に、リアスは自らが望んだこと以外、人がどうなろうと気にしない性格だったことを思い出し、導師が呟くと、

「まあ、惚れた弱みですからね」と、意外なことにこれには返事があった。

 そういえば、リアスはヴィーネの母親であるリーシアにべた惚れだった――という事実に思い至った導師は、何となく事の次第が分かった気がした。

「心配はいらぬ、ロッド。……リアスは性格には問題があるが、優れた癒し手じゃ。彼は時空を操る、特異な才を持っておってな、――恐らく後がなくなった患者を仮死状態にして、時を止めたのじゃ。この空間に在る限り、有効なように――リアスよ、緑の塔全体を、他の時空で覆ったな?」

 肩をすくめてみせたリアスを、そのまま肯定と受け取って、導師は説明を続ける。

「こう見えても、リアスは銀の癒し手として名高い。……癒し手にあるまじき性格じゃが、癒し手としての実績は、他の追随を許さぬほど、な。それは、リアス固有の能力を使い、癒しの手法に時の狭間に患者をおくという、他に例のない方法を取るからじゃ。――現在のように、時間勝負の状況下では、このやり方は非常に有効といえる。患者は時を止めて解決方法を待つことが出来るじゃろうし、他の次元に緑の塔を重ねる事によって、被害も小さく出来よう――そういうわけで、この状態はただ病人を放置してあるのではないのじゃ。分かったかな、ロッド?」

 頷いたロッドは、リアスに向き直り謝罪した。

「早とちりして、悪かった。――何か俺に出来ることはあるか?」

 高位な騎士にしては素直で潔いロッドの態度に、リアスは軽く目を見張ったが、直ぐに頭を振った。

「現段階では、ないな。患者を収容するだけだ。……次の段階に入れば、とても忙しくなるが……」

 リアスは人の心を見通すような青灰色の瞳を軽く伏せ、誰にというわけでもなく呟く。

「変異の原因とリーシアは、念のためにもう一つ別の次元へと移した。――恐らく、リーシアの娘と他の二人は、そちらに跳んだのだろう。限界は近い。今、何とかならねば、もうどうにもならないところまで来ている」

 その言葉に息を呑む周囲には目もくれず、リアスは導師を見て微笑んだ。

「ライ、リーシアはすごいぞ。さすがこの私が見込んだ女性だ。ぎりぎりのところで踏みとどまって、しかも患者達の魂全てを内に抱え込んでいる。彼女があそこまで死力を尽くし事態に立ち向い、それでも駄目ならば悔いはない。私は運命を共に出来て本望だ。――あれぞまさしく、命を愛し、生命力を司る緑の者、レオナに相応しい」

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