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君が恋しい5

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「ディアス坊ちゃん、ヨシュア坊っちゃまの事をマリア嬢ちゃんが知ったら・・・」
流石のアリスもディアスの告白に青ざめ小刻みに震えていた。ディアスの言葉はアリスにとって、衝撃の告白だった。

まさか、母親の様に慕って居たヨシュアがマリアを1人の女性として見て居たなんて。いつからヨシュア坊っちゃまはマリア嬢ちゃんに・・・。

アリスは困惑していた。

アリスの中には今でもマリアに懐くヨシュアの姿は微笑ましいままで歪んだヨシュアを想像できないでいた。

「何かの間違いであって欲しいと思うのは・・・私も一緒だ」
アリスの気持ちを察したディアスは言ってテーブルのグラスの中の氷を人差し指で転がした。

「本当にヨシュア坊っちゃまはマリア嬢ちゃんに懸想されていたんですかい?」
アリスどうしても信じられずに再度ディアスに聞き直した。

ディアスはアリスの目を真っ直ぐ見て力強く頷いた。

「・・・そうですかい」
アリスは頭を左右に振ると一言呟いた。

「ヨシュアがマリアに懸想をしているのが分かってからは宮廷騎士団の知り合いにヨシュアの仕事の量をかなり増やして貰った。更にマリアの側には必ずメイドの誰か付けた。騎士団の仕事が溜まり過ぎたヨシュアはマリアの結婚式も出れずじまいだ。---と言いたいが、ヨシュアは元々マリアの結婚式には出るつもりがなかった様だ。クロードとのマリアの結婚に反対していたからな」

一気に話し終わると、ふうと一息ついてディアスはテーブルに置いてあった琥珀色の酒を一口で飲み干す。

「ヨシュア坊っちゃまが出席出来ないと知った時のマリア嬢ちゃんの落ち込みようは側から見ていて辛かったですよ。まさかそんな事情があっただなんて---ディアス坊ちゃん私も一杯いただけますか?」

アリスの言葉にディアスは氷と琥珀色の液体の入ったグラスをアリスに渡した。

アリスはグイッと一口飲むと『こんな話!飲まずにできますか』と言って更に残りの酒を飲み干した。

「ところでアリス、そろそろディアス坊ちゃんは辞めてくれないか?私も40のいい大人だ、しかもシュタール家の当主でもある。流石にメイド達の視線が痛い」

ディアスはアリスにディアス坊ちゃんと呼ばれる度に屋敷のメイド達の口角が上がるのを知っていた。

アリスに頭が上がらない最近のディアスの悩みでもあった。

そんなディアスを尻目にして、アリスは部屋を出て行こうとしてソファーから立ち上がった。

「そろそろお暇しますね旦那様」
アリスはニコリと笑うとソファーから立ち上がる。同時にドアを叩く音がした。
アリスとディアスの意識がドアに向いた。

家令の『よろしいでしょうか旦那様』の声に「どうした」とディアスが声を掛けると、家令が申し訳なさそうに『お客様がいらっしゃいました』と告げてきた。

こんな夜更けに?何の用だ!火急の用なのか?

「こんな夜更けに一体誰が来たんだ」
ディアスは次から次へと問題が発生する事に忌々しそうに言った。


「夜分申し訳有りません舅殿、マリアがまだ家に帰って来ないもので迎えに来ました。マリアはどこですか?連れて帰ります。早くマリアを連れて来て下さい」
クロードはドアの前に立つ家令を押しのけて部屋に入ってきた。

ディアスもアリスもクロードを見て呆然としていた。

普段のクロードにはあり得ないほど髪が乱れていた。
まるでマリアを数時間探し回った様な感じのクロードは取り乱している様子だった。

「マリアはそちらに居ないのか?クロード君」
ディアスは突然入ってきたクロードに驚いたがすぐにクロードの言葉に反応した。

「・・・・」
一瞬にしてクロードの顔が歪んだ。

「・・・それが答えの様だねクロード君」
ディアスはクロードの沈黙を理解した。

マリアはクロードの側に居なかった。

クロードとの生活に未来は無い。そ言う事かマリア。これがお前の答えなら仕方がない。
私も腹をくくるしかない様だ。

「マリアはもう子供でも無い、もし、自分で出て行ったのなら放っておいて欲しい」

「マリアを返す気は無いと?」
クロードの歪んだ顔が醜悪の表情になる。
クロードもこんな顔もするのかとディアスは思った。
まるで悪鬼の様だ。

これではマリアも逃げ出しても文句は言えない。

結婚前のクロードの瞳はマリアを見るたび愛おしそうに見つめていた。そんな彼ならマリアも幸せになれるだろうと思った。

昔の人はよく言った。目は口程に物を言う。と。昔カルバンがライラを見る時と同じで、そんなクロードとマリアが遠い昔の様に思える。

クロードならマリアを大事にしてくれるのではないかと思っていたが、どうやら私の幻想の様だ。

この結婚は間違いだったのだろう。

「この屋敷に居ないものは居ない」

「・・・本当ですね」
「ああ」

「その言葉を信じましょう。それではカルバンは何処の宿にいます?」

「それを聞いてどうするのかね、クロード君」

「マリアを連れ戻します」
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