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手のひらの道化師8
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金持ちが集うサロンには貴重な珍しい産地の葉巻を堪能する者や、高級な酒を昼間から嗜む者達が所狭しとサロンを埋め尽くしていた。
珍しい産地の葉巻の香りは、東洋のお香の香りによく似ていた。
そんな葉巻の濃い匂いが立ち込めるサロンの一角の奥に重厚な扉が有る。扉の前には護衛の様な男が2人立っていて、サロンの入り口をジッと睨んでいる。
まるでサロンに入ってくる者を物色するかの様に、サロンで寛いでいる人達も護衛の男に目を合わせる事はしない。どうやらこのサロンでは何時もの光景の様だった。
扉の中はテーブルを挟んで向かい合った体の小さな老女と贅を施したドレスに身を包んだ女が座っていた。
そして女の背後に男が立っていた。
テーブルの上にはチェス盤があり、チェス盤の上にはチェス盤には似つかわしくない道化師の駒と騎士の駒がチェスの駒と一緒に置かれていた。
「これでやっと邪魔者は消えたと言う事ねセドリック」
道化師の駒を人差し指で弾くと駒は簡単にテーブルの上を転がって下に落ちていった。そして女は背後を振り向きもせず言うと「はい、大奥様」と言って背後に居た男は深々と頭を下げた。
「ご子息にまとわりついていた負の瘴気が下賤の女と一緒に消え去りました。よろしゅうございましたね、ジョセフィーヌ様」
「ええ、あの子の結婚相手は大変気に入りませんでしたがジャルスが言った様に、あの子の負の瘴気が無くなると思えば許しましたが、ふふふ、これであの小娘がクロードの負の瘴気を持って行ってくれた・・・オホホホ」
「おっしゃる通りでございます。」占い師ジャルスとクロードの母ジョセフィーヌは満足そうに笑った。
「・・・・・・・」
クロードの家令セドリックは2人の異様な親密さに眉間に力が入った。
占い師ジャルスの媚びる様な態度に全く気がついてい無い侯爵夫人ジョセフィーヌの関係は異常な物を感じた。
一見ジョセフィーヌが自分の意思で占い師のジャルスに命令をしている様に見えるが、セドリックには占い師のジャルスがジョセフィーヌを操っている様に見えた。
※※
マリアはいつの間にか公園のベンチに座っていた。
しかも日が落ちて辺りが暗くなりかけていた。
クロードの屋敷を出て、叔父のカルバンの泊まっている宿に行こうとしたが、今更カルバンに会って何を確かめると言うのだろうか?
真実を知っても、もう帰る場所も無い。
今更と言う言葉がマリアの心を蝕む。
それより、これからどうしようか?
誰も居なくなった公園に佇んでいると「マリア」と呼ぶ声がして、クロードの顔を思い浮かべてマリアは振り向いた。
「マリア」
もう一度呼ぶ声は、大好きな叔父のカルバンだった。
今までマリアを探して居た様子がハッキリと分かるくらいに肩で息をしていた。
「叔父様?どうしたの?」
何故カルバンは息を切らしてまでマリアを探していたのか理解できないでいた。
カルバンは黙ってマリアの頬から流れていた涙を手の指で拭った。
「ナミダ?私、泣いているの?」
マリアは自分の頬に手を触れて泣いていた事に気が付いた。
涙を流していた事すら分からないでいたマリアに少し驚いたカルバンは自分の手で優しくマリアを包み込んだ。
その優しさにマリアの心が初めて悲鳴を上げた。カルバンが居なかったらマリアは心の悲鳴すらあげる事は出来なかったであろう。
マリア瞳から大粒の涙が溢れては溢れていった。
カルバンに抱きついて子供の様に泣きじゃくった。
長い間カルバンの腕の中で泣いていたマリアは小さく呟いた。
「私は一体誰なの?」
その言葉に一瞬だがカルバンの体がビクンと跳ねた。
これだけでマリアは理解した。
「やっぱり私は私生児なのね」
言葉にすると胸が痛くなる。
カルバンはなにも言わなかった。
それと同時に自分を産んだ母親と母を捨てた父の事を知りたくなった。
母には、どうして自分を産んだのか?父は私が理由で母と別れたのか?
そして一番知りたいのは何故、シュタール伯爵家に貰われたのか?お母様は本当の娘に様に接してくれた。お父様もそれなりに愛情を注いでくれた。でなければ、行き遅れの娘に持参金増額なんてあり得ない。
知りたい。
真実を知りたい。
「叔父様は・・・私の両親を知っている?」
「・・・・・宿に行こうと、話はそれからだマリア!良いね?」
「知っている事を話してくれるの?」
カルバンは黙って頷いてマリアを抱きしめた。
「はい叔父様」
カルバンの答えを聞いてマリアはカルバンと一緒に宿へと向かった。
珍しい産地の葉巻の香りは、東洋のお香の香りによく似ていた。
そんな葉巻の濃い匂いが立ち込めるサロンの一角の奥に重厚な扉が有る。扉の前には護衛の様な男が2人立っていて、サロンの入り口をジッと睨んでいる。
まるでサロンに入ってくる者を物色するかの様に、サロンで寛いでいる人達も護衛の男に目を合わせる事はしない。どうやらこのサロンでは何時もの光景の様だった。
扉の中はテーブルを挟んで向かい合った体の小さな老女と贅を施したドレスに身を包んだ女が座っていた。
そして女の背後に男が立っていた。
テーブルの上にはチェス盤があり、チェス盤の上にはチェス盤には似つかわしくない道化師の駒と騎士の駒がチェスの駒と一緒に置かれていた。
「これでやっと邪魔者は消えたと言う事ねセドリック」
道化師の駒を人差し指で弾くと駒は簡単にテーブルの上を転がって下に落ちていった。そして女は背後を振り向きもせず言うと「はい、大奥様」と言って背後に居た男は深々と頭を下げた。
「ご子息にまとわりついていた負の瘴気が下賤の女と一緒に消え去りました。よろしゅうございましたね、ジョセフィーヌ様」
「ええ、あの子の結婚相手は大変気に入りませんでしたがジャルスが言った様に、あの子の負の瘴気が無くなると思えば許しましたが、ふふふ、これであの小娘がクロードの負の瘴気を持って行ってくれた・・・オホホホ」
「おっしゃる通りでございます。」占い師ジャルスとクロードの母ジョセフィーヌは満足そうに笑った。
「・・・・・・・」
クロードの家令セドリックは2人の異様な親密さに眉間に力が入った。
占い師ジャルスの媚びる様な態度に全く気がついてい無い侯爵夫人ジョセフィーヌの関係は異常な物を感じた。
一見ジョセフィーヌが自分の意思で占い師のジャルスに命令をしている様に見えるが、セドリックには占い師のジャルスがジョセフィーヌを操っている様に見えた。
※※
マリアはいつの間にか公園のベンチに座っていた。
しかも日が落ちて辺りが暗くなりかけていた。
クロードの屋敷を出て、叔父のカルバンの泊まっている宿に行こうとしたが、今更カルバンに会って何を確かめると言うのだろうか?
真実を知っても、もう帰る場所も無い。
今更と言う言葉がマリアの心を蝕む。
それより、これからどうしようか?
誰も居なくなった公園に佇んでいると「マリア」と呼ぶ声がして、クロードの顔を思い浮かべてマリアは振り向いた。
「マリア」
もう一度呼ぶ声は、大好きな叔父のカルバンだった。
今までマリアを探して居た様子がハッキリと分かるくらいに肩で息をしていた。
「叔父様?どうしたの?」
何故カルバンは息を切らしてまでマリアを探していたのか理解できないでいた。
カルバンは黙ってマリアの頬から流れていた涙を手の指で拭った。
「ナミダ?私、泣いているの?」
マリアは自分の頬に手を触れて泣いていた事に気が付いた。
涙を流していた事すら分からないでいたマリアに少し驚いたカルバンは自分の手で優しくマリアを包み込んだ。
その優しさにマリアの心が初めて悲鳴を上げた。カルバンが居なかったらマリアは心の悲鳴すらあげる事は出来なかったであろう。
マリア瞳から大粒の涙が溢れては溢れていった。
カルバンに抱きついて子供の様に泣きじゃくった。
長い間カルバンの腕の中で泣いていたマリアは小さく呟いた。
「私は一体誰なの?」
その言葉に一瞬だがカルバンの体がビクンと跳ねた。
これだけでマリアは理解した。
「やっぱり私は私生児なのね」
言葉にすると胸が痛くなる。
カルバンはなにも言わなかった。
それと同時に自分を産んだ母親と母を捨てた父の事を知りたくなった。
母には、どうして自分を産んだのか?父は私が理由で母と別れたのか?
そして一番知りたいのは何故、シュタール伯爵家に貰われたのか?お母様は本当の娘に様に接してくれた。お父様もそれなりに愛情を注いでくれた。でなければ、行き遅れの娘に持参金増額なんてあり得ない。
知りたい。
真実を知りたい。
「叔父様は・・・私の両親を知っている?」
「・・・・・宿に行こうと、話はそれからだマリア!良いね?」
「知っている事を話してくれるの?」
カルバンは黙って頷いてマリアを抱きしめた。
「はい叔父様」
カルバンの答えを聞いてマリアはカルバンと一緒に宿へと向かった。
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