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第8章 東方諸島セイホウ王国

第8章第031話 地震の後始末

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第8章第031話 地震の後始末

・Side:ツキシマ・レイコ

 セイホウ王国で起きた地震。
 あれから順番に救助のお手伝いしましたが。日が暮れる前には、私たちが着く前にほとんど救助されていました。
 地震が多い国ということもあって、屋根は台風に耐えられる程度でできるだけ軽くしてあるとかで。人海戦術で救助も可能だったようです。
 私が救助したのは、防火の為の石壁が崩れて梁を動かせなくなったからで。稀というか不運というか。

 不幸中の幸いというか、私たちが救助に当たっていた範囲では、怪我人は多数でたものの死者は出ませんでしたが。首都テルローグ全体では五名ほどが亡くなったそうです。
 数十万規模の街の被害としては小さいと言ってもいいのでしょうが。建物の倒壊以外に、地震にびっくりしたお年寄りが亡くなったり、驚いて暴走した馬車に轢かれたりなんてのも含まれています。


 診療所の方では、消毒と縫合をセイホウ王国軍の軍医さんに伝授しています。
 負傷後の化膿等の対策には傷口を清潔にしておく必要があるというのは認識されていて、強い酒での洗浄が予後に効くというくらいは知られていましたが。積極的な対策としての消毒の原理と効能について講釈されるのは初めてだそうです。顕微鏡とかも持ってくれば良かったですね。
 傷口を解放しておくのが不味いというのも経験則的に理解してくれましたが。傷口を布で押さえる程度までで、縫うという発想はなかったそうです。まぁ傷口に針を刺すなんて、考えるだけでも痛いですからね。
 ただ、消毒も縫合も痛いのですが、その後の傷の治る速度は段違いですから。最初は戸惑っていた軍医さん達も、数日で効能を理解してくれました。



 一週間位して街中も平穏さを取り戻した頃。市場に出かけるとなんかネイルコード船団のみなさんがまとめて人気者です。
 地震当日の救助活動が広まったのか。通りがかりに食べ物くれたり、買い物にオマケ付けてくれたりと、結構な歓迎ぶり。

 「あっ! 怪力のお姉ちゃん!」

 あら。助けた女性の娘さんですね。

 「お父さん!このお姉ちゃんがお母さん助けてくれたんだよ!」

 どうも父親は市場勤めのようで。母親は家で療養中、代わりに娘が手伝いに来ているそうです。

 「妻を助けていただきありがとうございます …え?竜? え? もしかして西の大陸の赤竜神の巫女様?」

 頭の後ろから顔を出したレッドさんに戸惑っています。
 こんな離れた国でも知られているというのも、なんかこっぱずかしいですが。

 「お母さんはもう大丈夫?」

 「まだ杖でも歩くのはきつそうだけど。ご飯も食べれているよっ! 骨が治ったら元通りだってっ!」

 杖で歩けるのなら、骨折は細い方の骨だけ済んだのかな? けっこう擦り傷負っていたと思いましたが。食事が出来るのならもう大丈夫でしょう。

 「住むところとか大丈夫?」

 あの家は、全壊判定…というより、文字通り潰れてしまいましたしね。

 「うん。今は避難所に立てられたお家に住んでるけど。長屋の方は、あの石壁の商店が建て直してくれるって」

 こちらでも六六のような簡易住宅の建築手法があるみたいです。
 通りに面した建物の石壁は、防火のために必須だそうですが。それの再建も兼ねて長屋の方も件の商店が建てることになったそうです。


 セイホウ王国の人にとっても大きめの揺れではありましたし。死者もいくらか、負傷者多数となりましたし。震度三くらいの余震も何回かありましたが。火災は最優先で消し止められ、ガレキの撤去も進んでいますし。再建計画もスムーズに進んでいるようで。三日目くらいからは普段通りの生活が始まっています。
 この辺、けっこう念入りな防災運営がされているようで。政府側の有能さが垣間見えますね。



 なんか巷では、ネイルコード船団の船員が救助活動したってのが評判になっているようです。
 皆、外国の船員服でしたからね。集団でいると結構目立っていたのですが…
 実は、一番目立っていたのが、セレブロさんとマーリアちゃん。馬サイズの銀狼(実は猫科)のセレブロさん。銀髪紅眼の超絶美少女のマーリアちゃん。セイホウ王国でも、歩いていて二度見しない人の方が珍しいくらいです。

 マーリアちゃんの、常人よりは力持ちですから、救助活動では活躍していましたし。下敷きになっていた人を的確に見つけ出したセレブロさん…実はレッドさんとの共同作業ですが。 まぁレッドさんは小さいので、遠目だと識別し辛いようで。もちろん、目にとまれば注視されますが。目立つ度ではセレブロさんに負けています。
 私? まぁ髪が黒い以外は普通の女児にしか見えないですからね。逆に心配される側でしたよ。

 船員さん曰く。ネイルコード船団の服だと分かると、タダで持っていけなんて言ってくれる店も多く。予算管理しているからタダだと困るなんて話をしてやっと払わせてもらえたとか。それでも、おまけをたくさんもらえて荷物が大変だったそうです。

 マーリアちゃんももちろん人気ですが。逆に高貴に見えて近付きがたい感じでしょうか、市場とかでは注目はされてもちょっと遠巻きにされています。
 ただ。

 「セレブロさん~っ!」

 「おっきいワンワン~っ!」

 「え? こわくないの? すごくでかいよ?」

 逆に子供の集まるのがセレブロさん。あの助けた母親の娘さんが最初に懐きまして。首元のモフモフに頭埋めているもんですから。市場に居る子供達も集まってきて。最初は恐る恐る、次第に大胆に、最後は香箱座りしているセレブロさんに登ったり。
 子供の扱いは馴れているセレブロさんですからね。あっというまに大人気です。…暑くありませんか?セレブロさん。



 そして。
 ロトリーの租借地であるネールソビン島からの先触れの返答が来た…と、連絡が入りましたので。私、マーリアちゃん、ネタリア外相、オレク司令と共に御館の方に出向きました。

 「遭難した同胞の救助に感謝するという回答と共に、ネールソビン島への寄港も許可されました。ただし、条件として寄港して良いネイルコードの船は一隻だけとのことです」

 「先触れの船も一隻で航行されていたと言うことですし、海域に特別危険は無いのでしょうが。艦隊司令としては、一隻での単独行動は承認致しかねますが…」

 オレク司令が苦言を呈します。
 まぁ他国の大使に外相が乗っているわけですから、VIP船としては警戒は怠りたくないでしょうね。

 「向こうとしても、セイホウ王国以外の国から公式の使者を迎えるのは初めてですからな、いろいろ警戒しているのでしょう。代わりと言っては何ですが、セイホウ王国の船を一隻着けてもよいことになったのですが」

 「失礼ながら、貴国の帆船とでは足並みが揃わないでしょうな。"いざ"という時を考えるに、まだ一隻だけの方が良いのではないかとも」

 行き来に時間がかかれば問題が出る可能性は上がりますし。一隻で逃げ出したともなれば、外交問題になりかねません。痛し痒しですね。

 「…話を聞くに、その島まではだいたい一日の距離で、航路も陸地が見えないところまで外洋に出るわけではないそうで。セイホウ王国から案内人を出していただけるのなら、単艦でも致し方無しですか」

 安全面の配慮で意見が交換されましたが。ここはプリンス・アインコール号一隻で行くことになりました。
 他の二隻は途中まで一緒に行き、一番最東の漁港沖で待機することになりました。
 初めての海で一番恐いのは暗礁ですが。一応航路が確定した以降、座礁遭難したことはないそうで。ここは水先案内人の腕を信じることになりました。


 スケジュールが一通り決まってところで。先日の地震の話題に。

 「ぶしつけではありますが、ネイルコードの船団が災難を運んできたと言う輩も当初いたのですが。不幸中の幸いといっていいのやら、船団の方々の救助活動の話が広まるとそういう噂も払拭されたようです」

 「地震がネイルコードのせいですか?」

 「…隠さずに言えば。レイコ殿を帝国の魔女に見たてて、魔女の再来だという噂までありましたな。セイホウ王国を滅ぼしに来たのだと」

 ああ、そういう見方をされていたんですね。

 「ただ今では、小竜神様と合わせて、西の大陸に現れて魔獣の群を一掃した聖女の方に見たてる話の方が多いそうです。さらにそちらのマーリア様と銀狼殿、西の大陸の女神と神獣とまで呼ぶ者も」

 「女神と聖獣…マーリアちゃんが赤竜神の巫女のライバルに」

 もちろん冗談ですけどね。
 私自身は、仰々しく扱われないよう見た目だけでも地味を心がけてましたけど。今更マーリアちゃんになすりつけたいとは思いませんが…やっぱルックスも私より数段目立ちますからね、マーリアちゃんは。エイゼル市ではファンも多いですし。

 「レイコ、勘弁してよ…」

 神獣セレブロさんは、我関せずと欠伸をするのでした。

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