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第8章 東方諸島セイホウ王国

第8章第010話 出発進行!

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第8章第010話 出発進行!

・Side:ツキシマ・レイコ

 お弁当屋の前で私に膝を突こうとするセイホウ王国のカラサーム・ハルク・ビシャーラン大使。

 「うふふふふ。レイコ殿は相変わらずね」

 なんとか止めていただきましたが。
 …リシャーフさん、笑っていないで助けてくださいよ、こんな往来で。

 「失礼いたしました。赤竜神の巫女様」

 「その巫女様ってのも止めていただけると…」

 「事前に申し上げた通りですカラサーム殿。ここは"レイコ殿"で妥協してくださいな」

 しかたありませんねという仕草のカラサーム大使。
 
 「分かりました。公式の場ではそうも行きませんが、崩した場所ではレイコ殿と呼ばせていただきます」

 じっと見てくるカラサーム大使。
 うーん、なんか観察されていますね。まぁこんな小娘に礼を尽くすなんてと嫌がる貴族は今までもいましたが。なんか興味津々って感じです。
 雰囲気は六六の教会のザフロ祭司に似ているように思います。やり手のおじさんって感じですか? ただ、老獪さは感じますが、悪人っぽさはないですね。
 視線が私と一緒に居るタロウさん達にも移ったので、タロウさんも挨拶します。

 「お初にお目もじいたします。ランドゥーク商会エイゼル市支店会頭補佐のタロウ・ランドゥークと申します」

 さすが大商会の跡取り。貴族にも慣れている感じの挨拶です。

 「「「はじめまして」」」
 「ヒャー。はしめまして」
 「ククークッ!」

 子供達とアライさんとレッドさんも、一緒に挨拶します。うんうん、微笑ましいですね。

 「これはこれはご丁寧にありがとうございます。セイホウ王国から来たカラサームと申します。にしても、小竜神様にもご挨拶いただけるとはこの上ない光栄ですね。…ふむ、そしてそちらの方は…」

 タロウさんの後ろにいたアライさんに気がついたようです。

 「ラクーンのアライさんです。遙か南東の国へ遭難してたどり着いたらしいんですが。いろいろあって今ではうちで暮らしています」

 「アライままなんだよっ!」
 「食堂で働いてるんだっ!」
 「一緒に寝るともふもふなんだよっ!」
 「ヒャー」

 「ふむ」と考え込むようなカラサーム殿。やはりアライさんは物珍しいですかね?
 ただ、そろそろ時間も押しております。

 「もう式典会場の方に顔出さないと。リシャーフさんも列席されるんですよね?」

 「はい。メインは今夜の王宮での晩餐会ですが、こちらにも出席しますよ。では一緒に行きますか?」

 「そうですね」



 私とリシャーフさん達は、まず控え室の方へ向かいます。この式典が終わったら始発列車の出発です。
 タロウさんたちは見学席の方に向かいます。列車に乗るときにまた合流ですよ。

 「レイコ!」

 「マーリアちゃん!」

 はい、朝ぶりです。
 マーリアちゃんは、今日はアイズン伯爵名代ブライン様と嫡男クラウヤート様らと一緒に行動しています。まぁその方がトラブルを避けられますしね。
 この後マーリアちゃんは、セレブロさんやフェンちゃんも一緒に馬車での移動です。ブライン様とクラウヤート様は列車のパノラマカーの方です。

 「この鉄道の開業は、ネイルコード王国の歴史に大きな一ページを刻むことになるだろう。人と物がこれによって潤沢に流れることになる、それは国土がより狭く近くになることに等しい。すでに列車を見た物も多いと思うが、あの力強さは国の発展はさらなる加速をする原動力となるのは明白である……」

 カステラード殿下の演説に賓客紹介と、一時間かからないくらいの式典です。
 鉄道の意義。今後の延伸計画等が簡単に説明されます。
 ネイルコード王国だけではなく大陸がこの鉄道で結ばれることになります。半分くらいの人にはまだピンときていないかもですが。
 国土が狭くなる、良い例えですね。

 最初、私にも挨拶しないかという誘いがありましたが。はい、丁重にお断りしましたよ。そういうのは庶民にはきついです、はい。
 レッドさんを抱きかかえて、カステラード殿下のとなりでの会釈だけで済ませていただきました。
 それでも、レッドさんが翼を広げてアピールすると、なんか盛り上がりましたね。



 ポーッ! 汽笛が鳴ります。

 「しゅっぱつしんこーっ!」
 「「しんこーっ!」」
 「クックルーッ!」
 「ヒャー、うこきはしめましたっ」

 式典が終わってタロウさん達と合流し、客車に乗り込みました。
 列車が動き始めます。子供達は席でじっとしていられずに、窓にかじりついています。その後ろで、揺れる車内で危なくないようにアライさんが子供達をフォローしているのがさすがですね。

 時速三十キロくらいですか。日本の電車と比べると、えらくのんびりに感じます。
 ガタンゴトンという線路の継ぎ目を越える音も、なんとも懐かしいですね。
 川を渡ったあたりで、お弁当も食べます。流れる景色を見ながらのお弁当。サンドイッチも美味しいですが、おにぎりとかも欲しいところですね。

 通路を挟んで反対側の席は…"影"の人ですね。任務中の人に声かけはしませんが、目が合ったら会釈されました。ほんとご苦労様です。
 あまり外の風景は見ていませんが。こちらもしっかりお弁当は買ってきていたようです。


 軍学校前の駅で停車、王都の方からくる対向列車を待ちます。
 引き込み線も作られていて。将来はここから王国各地へ軍隊を派遣する拠点にもなる駅です。迅速な兵力移動は、各地に常駐させている軍の規模を減らすことにも繋がります。今のところ、人材は鉄道の方にスライドさせているので、放逐されるわけではないですよ。
 ユルガルムの方では職人…地球風に言うとエンジニアの需要が爆上がりですし。人材というリソースの再配置が顕著なネイルコード王国です。

 「お弁当いかがですか~っ? お茶も付きますよ~っ!」

 ホームを駅弁売りが何人か歩いています。
 列車の旅もあと残り半分しかないですが。お弁当食べている人を見ていたら食べたくなったのか、エイゼル市でお弁当買っていなかった人が買い求めていますね。…あ、速攻で売り切れた。
 「少なく見積もりすぎたか?」「どうしよう?」なんてつぶやきが、集まった売り子さん達から聞こえてきます。


 ポーーーッ!

 警笛を鳴らしながら、王都からの列車がホームの反対側に滑り込んできます。

 双方の機関車の運転席から運転手が降りてきて。客車の方からは車掌さんも出てきます。
 駅長さんでしょうか、偉そうな人も何人か出てきています。車掌さん立ち会いの元、運転手さんが丸い輪っか状のタブレットを交換。

 「エイゼル線区、タブレット受け取りました!」

 「王都南線区、タブレット受け取りました!」

 互いに敬礼します。ピシッとしたその姿勢、皆が軍人出身って感じですね。
 列車が走るには、必ずその線区のタブレットが必須…というルールです。線区にタブレットは一つだけですから、単線の区間を走っている列車も一つだけ。これなら衝突事故は防げます。
 複線化するまではこの運用ですね。一応、土地は四線分を確保しています。複線は当然として、新幹線なんかも想定していますよ。

 運転手さんと車掌さんがそれぞれ戻って、汽笛と共に列車が再び動き出します。
 残念ながら、下り列車の方にはお弁当販売はありませんでした。

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