玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす

文字の大きさ
上 下
231 / 343
第7章 Welcome to the world

第7章第004話 産婆さん!

しおりを挟む
第7章第004話 産婆さん!

・Side:ツキシマ・レイコ

 アーメリア様のお腹の中の赤ちゃんは、女の子だと分かりました。
 懐妊されたアーメリア様には、専門の産婆さんが付くことになりました。
 ノーヴァ・ボサタンゴさんという産婆さんだそうで。この方、普段は王都の下町に居を構え、そこで産婆さんとして活動しているそうで、一部からは王都の聖女と呼ばれているそうです。70歳越えてるそうですけどね。
 王都では王族に並ぶくらいの有名人で、今までで取り上げた赤ん坊は万を超えるそうです。取り上げた赤ちゃんの数では大陸一とも言われているとか。

 王家とは、ローザリンテ殿下のご出産の時からの懇意だそうです。
 最初は一部貴族の反対があったそうです。平民相手の産婆よりうちのお抱えの医者を…という感じでの取り入りですね。
 ただ。出産に貴族と庶民で違いがあるのか? 彼女より経験のある産婆が居るのか? ローザリンテ殿下の鶴の一声で一発論破だったそうです。そりゃ貴族しか相手にしない医師とは、三桁は経験が違うでしょう。

 妊婦さんへは妊娠初期からもいろいろアドバイスをくれるそうで。今日も王宮に来られる予定なので会って欲しいとアーメリア様に頼まれました。

 「ふむっ。今夜あたりに生まれそうなのが居るから、今日は早めに返りたいんだけどね」

 王侯貴族を前にしても媚びないって雰囲気の頑固お婆さんです。とはいえそれでもアーメリア様のところに来てくれるあたりは、悪い人でもないようですね。
 …某有名アニメに出てくる女海賊みたいです。眼力も凄いですよ。

 「相手が誰だかなんてお産の前には関係ないからね。王様だって平民だって、母親のお腹から生まれてくることには変わりないんだ。王宮のお姫様だからって、お産で特別なことなんか何一つありゃしない」

 うーん。良い意味でプロ意識ですね。これは男の人では頭が上がらないでしょうね。

 「ノーヴァ様、こちらが赤竜神の巫女レイコ様ですよ」

 「わたしゃノーヴァというただの産婆だよ。お腹の中の子の性別が分かるってのは…その赤いのかい? まぁ生まれてくる子供の性別なんて二の次三の次だがね」

 「はいまったく仰るとおり、母親と子供が無事なのが一番ですからね。あ、私はツキシマ・レイコです。この子がレッドさんです。」
 
 ん? 私の反応が意外って顔していますね。

 「…まぁ分かっているようだね。わたしゃ赤子が無事生まれてくるように全力を尽くすだけだよ」

 「よろしくお願いします。ノーヴァ様」

 アーメリア様も頭を下げます。

 「やめとくれ。王族に様付けされるような身分じゃないのでね」

 いえ。私よりよほど様付けしていい人ですよ、ノーヴァ様は。
 ローザリンテ殿下だけではなく、カルタスト殿下とクリスティーナ様を取り上げられたのもこのノーヴァ様だとか。
 昔から王族の出産に立ち会ってきたと伺って、

 「…もしかして、夫…カステラード様を取り上げられたのも?」

 「もちろん私だよ。第一王子を取り上げたのはエイゼル市だったが。二人目のときには王宮に呼ばれたので、びっくりしたもんさね。あんときはすんなりと生まれてきてくれたね」

 カステラード殿下が微妙な顔をされています。まぁ、子供のころとか赤ん坊のころを知っている人はいても、取り上げてくれた人に会う機会なんてそうそう無いでしょう。

 「小竜神様だったか。この子の見立てだと、あと170日で女の子で、今のところ異常無しかい…それだけ分かるのなら楽になることはあるさ。アーメリア様だっけ? この時期にしておいてほしいこと、してはいけないこと、食べた方が良い物だめな物。その辺を一通り教えるから、頭に叩き込むんだよ。なによりお腹の子のためだからね」

 「はい。ノーヴァ様」

 「レイコ…様でいいのかい? あなたのことは、ローザリンテ殿下に言い含められている。まだこの国では知られていないような赤竜神様の世界の知識をいろいろ持っているとか」

 急に真剣な顔でこちらに問いかけてきます。

 「私のいた所では常識という範囲の知識ですが。一般人の嗜み程度には…」

 まぁ日本の教育では、こういうのはいろいろ学ぶ機会が設けられているもんです。

 「それでは、アーメリア様への指導にもレイコ様に付き合って欲しい。そして、もしあんたの目から見て間違っている知識があったら指摘して欲しい。今後それで助かる命が増えるのなら、取り入れない理由は無いからね」

 「承知しました、ノーヴァ様」

 「様は止めとくれ。ただの産婆だよ」

 「ではノーヴァさんで。私にも様はいらないですよ」

 「うん、私はそれで十分だけど。仮にも赤竜神の巫女様をどうして皆がレイコ殿と呼んでいるのかと思ったら、そういうことかい」


 医療機器や薬が無い状態では、出来ることには限りはありますが。地球での一般常識範囲でいろいろ口を出しました。
まぁ注意点は太りすぎないことってくらいで。一部では、赤ちゃんの養分と出産の体力のためということで太ることが推奨されていた時期もありますが、これは間違い。適度な運動で適切な体重をキープということで。あと高血圧にも注意、塩は控えめに。
 よくカルシウム取れという話もあったりしましたが。普段の食事でのカルシウム吸収率そのものが高くなるので、特別カルシウムを多く含んだ食べ物を取る必要はありません。ただしこれは普段からカルシウムを不足なく取れていることが前提ですので、意識して取ることは悪くないのですけどね。
 取らない方がいい食べ物…過剰なビタミンAとヨウ素ですが。特定の食材を食べ過ぎなければ問題にはなりません。アルコール、カフェインは止めるべきですね。

 以前アイリさんとエカテリンさんに教えた栄養学あたりの話は、王宮の厨房まで届いているそうです。普段の食事はバランス良く、食材の種類を多めにすれば自然と偏らなくなるものです。気をつけると言ってもこんな所ですか。

 ノーヴァさんの知識がだいぶ正確なのには驚きました。流石に万の赤ん坊を取り上げたベテランです。経験則でここまで昇華できるとは。


 しばらくお話しした後、ノーヴァさんの助手がやって来まして、街の方で世話している妊婦さんが産気づいた様子を伝えてきました。
 ノーヴァさんとそのお仲間に関しては、関や城門での通行許可などいろいろが免除や優先されたりしているそうです。…そう言えば日本の江戸時代でも、産婆は大名行列を横切って良いって話もありましたね、そんな感じです。
 王宮に勤める人で彼女の顔を知らない人はいないくらいです。まぁあの眼光のお婆さんは、そうそう忘れられる物ではないですが。もうVIP扱いですね。

 「私が知っている様なことは、すでにローザリンテ王妃殿下とファーレル妃殿下にもした指導だからね。彼女らの言うことをよく聞くこと。あと不安や疑問があったら、きちんとわしに話すこと。いいね」

 そう言ってノーヴァさんは、王宮で手配した護衛付きの馬車で王都の街に帰っていきました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ハイエルフの幼女は異世界をまったりと過ごしていく ~それを助ける過保護な転移者~

まぁ
ファンタジー
事故で亡くなった日本人、黒野大河はクロノとして異世界転移するはめに。 よし、神様からチートの力をもらって、無双だ!!! ではなく、神様の世界で厳しい修行の末に力を手に入れやっとのことで異世界転移。 目的もない異世界生活だがすぐにハイエルフの幼女とであう。 なぜか、その子が気になり世話をすることに。 神様と修行した力でこっそり無双、もらった力で快適生活を。 邪神あり勇者あり冒険者あり迷宮もありの世界を幼女とポチ(犬?)で駆け抜けます。 PS 2/12 1章を書き上げました。あとは手直しをして終わりです。 とりあえず、この1章でメインストーリーはほぼ8割終わる予定です。 伸ばそうと思えば、5割程度終了といったとこでしょうか。 2章からはまったりと?、自由に異世界を生活していきます。        以前書いたことのある話で戦闘が面白かったと感想をもらいましたので、 1章最後は戦闘を長めに書いてみました。

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

祖母の家の倉庫が異世界に通じているので異世界間貿易を行うことにしました。

rijisei
ファンタジー
偶然祖母の倉庫の奥に異世界へと通じるドアを見つけてしまった、祖母は他界しており、詳しい事情を教えてくれる人は居ない、自分の目と足で調べていくしかない、中々信じられない機会を無駄にしない為に異世界と現代を行き来奔走しながら、お互いの世界で必要なものを融通し合い、貿易生活をしていく、ご都合主義は当たり前、後付け設定も当たり前、よくある設定ではありますが、軽いです、更新はなるべく頑張ります。1話短めです、2000文字程度にしております、誤字は多めで初投稿で読みにくい部分も多々あるかと思いますがご容赦ください、更新は1日1話はします、多ければ5話ぐらいさくさくとしていきます、そんな興味をそそるようなタイトルを付けてはいないので期待せずに読んでいただけたらと思います、暗い話はないです、時間の無駄になってしまったらご勘弁を

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

処理中です...