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第6章 エイゼル市に響くウェディングベル

第6章第039話 新年めでたいですねほんと色々と

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第6章第039話 新年めでたいですねほんと色々と

・Side:ツキシマ・レイコ

 今日は日本で言うところの大晦日。私がこちらの世界に転生して…再生されて、二度目の新年を迎えようとしております。
 毎度大晦日には、ファルリード亭は深夜まで営業しております。食堂がフードコートとして拡充されたのもありますが、今年はさらに繁盛しています。

 限定の試験メニュー、"すき焼き"も好評です。っても、材料を各卓で鍋に…ではなく、出来上がったものを出す形になります。この辺将来的にはお鍋と一緒に各卓で作って貰う形式にする予定です。
 限定な理由は砂糖ですね。蜂蜜や果実で使用量は減らしていますが、甘辛いすき焼きタレには必要ですから、日常に出すにはコストが嵩みます。卵は解いた物を出すことになります。まぁ一個の大きさがダチョウクラスですから致し方なし。
 ボア肉、ネギっぽい野菜、豆腐、葉物と、けっこう豪華ですよ。私としては、さらにご飯が欲しいところですが…さすがに家で食べる分の在庫すら心許ないので… 来年こそは!
 鍋が見送られたのは、"見た目質素すぎる"からですね。へたするとお湯で煮ているだけに見えますから。まぁこの辺はお試しメニューとしてから浸透させていくことになるでしょう。


 さて。いつもは王都に詰めているタロウさんのご両親のケーンさんとリマさんが年末年始のお泊まりに来ていまして。宿泊はファルリード亭ではなくアイリさん家の客室を用意しておりますが。私とマーリアちゃんとアライさんがファルリード亭の方を手伝うと言うことで、ではお風呂と食事はそちらでと言うことで、皆さんで来ております。

 「王都の家の方にも風呂は付けたが。でかいお風呂ってのもまた格別だな。是非王都にも銭湯の支店を出して欲しいもんだ」

 お湯を沸かすのはマナ板で簡単にできますし、手押しポンプもそこそこ出回り始めましたので。浴槽と給排水さえ出来ればお風呂は設置できるようになりました。貴族街や比較的裕福なところでは浴室建築が増えていますし。庶民でも六六とかでお金を出し合って風呂桶を買ったりしているようです。風呂桶なら樽の延長ですしね。
 そのうち水不足になるのでは?とは思いましたが。王都を通りエイゼル市に流れ込むカラスウ河以外にも、周囲の山から流れてくる小川や井戸水など、水事情は結構潤沢な地域です。アイズン伯爵の施策で灌漑用水路もガンガン掘っていますしね。人口の増加に合わせて、王都とエイゼル市周辺の農作地や水道も拡張され続けているそうです。

 真冬のお風呂というご馳走の後は、個室で一家水入らずで御会食。こちらもすき焼きですが、こちらは部屋で具を鍋に並べて作っていきます。
 アイリさんは家の方で試したときに手順は習得しています。まず脂身を焼いて、肉を並べてタレを足して。具材を並べて煮えるのを待ちます。

 「こうやって家族で食卓に着くのは久しぶりだな、タロウ」

 「アイリさんがお嫁に来てくれて。なんか食事も華やかよね」

 お嫁さんと一緒に両親と会食と言うことで、なんかタロウさんの方が照れくさそうですね。アイリさんは姉さん女房発揮して、タロウさんに色々鍋の指示をしています。
 すき焼きや鍋は家族でつつくには最適の料理です。

 「肉への火の通り方を自分で決められるのはいいな。堅くなるギリギリを見極められる」

 「お野菜も美味しいけど。この豆腐ってのも面白いわね。本当に豆から出来ているの?これ」

 概ね好評でなによりです。
 生卵はまだ解禁とはならないところが残念ですが、産みたての玉子をすぐ洗浄消毒するという方向で研究中です。石けんに使ったソーダがここでも使えそうです。

 アイリさんは、肉、野菜、豆腐とルーチンで食べることを覚えました。お昼もきちんと食べているはずなのに健啖ですね。
 まぁ普段はダイエットの為に節制していますので。大晦日くらいわね。


 …と思ったら。
 貴族街の教会の鐘が聞こえたころ、アイリさんが気持ち悪くなったのかお手洗いに駆け込みました。
 その様子に察するところがあったのか、リマさんが付いていきます。ん?お手洗い脇でなんか話していますね。
 …なんか様子が変ですが。戻ってきたアイリさんが爆弾発言!

 「レイコちゃん…どうも出来ちゃったみたい。…赤ちゃん」

 「「「「え~~~~っ!!!」」」」


 衝撃の報告ですっ!。 …タロウさんまで一緒になって驚いていますけど、おいっ!

 「おめでとうございます!アイリさんっ! うわ~楽しみですね」

 「アイリさんおめでとう! きっとかわいい赤ちゃんなんだろうな」

 皆がお祝いを言う中。ん? なんか気まずそうですねミオンさん。

 「実は…わたしもね… 多分三ヶ月ちょっと」

 「「「「え~~~~っ!」」」」

 おおっとここにきてダブルでおめでたですか?
 …カヤンさんは驚いていません。うん、これが普通でしょう。あれ? モーラちゃんも落ち着いていますね。

 「カヤンさんとモーラちゃんは知ってたの?」

 「うん。まぁ大げさにしたくないって黙ってたんだけど」

 そう言えば、今日はモーラちゃんがいつもよりミオンさんに纏わり付いていると思ったら。そういうことでしたか。

 「よーしっ! おじいちゃん頑張っちゃうぞっ! 義娘とお世話になっているファルリード亭女将の懐妊祝いだ! 今ここに居るお客達の勘定は全部私が持つっ! あと、酒も追加で配ってくれ!」

 「「「おおおっ!」」」

 ケーンさんがまたもや大盤振る舞いです。
 食堂もでかくなっていますし、ファルリード亭も安い方じゃないですし、皆さん年越しの宴会の最中ですから。驕るにしても総額けっこう凄いことになりますよ? あ、はい、問題なしですか。流石大商会の次期会頭です。

 居合わせた客達が、次々に祝いの杯を上げてくれますが。祝わられたアイリさんは真っ赤になっています。タロウさんも縮こまってますね。…ちょっとデリカシー無かったかな?ケーンさん。
 反面ミオンさんは肝っ玉ですね、平然としています。流石にミオンさんに酒をすすめる人はいませんが、逆にミオンさんが小さめの樽持って注いで回っています。モーラちゃんとアライさんも給仕で忙しくなりました。私も手伝いに出ますか。


 「なになに? なんか盛り上がっているねっ! って、え~っ!アイリおめでとうっ!」

 エカテリンさんが護衛の交代にやってきました。といっても、これから正月明けまで私達の家で一緒に過ごすみたいな感じですけどね。なんか同僚からは、新年のシフトをエカテリンさんが肩代わりしてくれることに感謝されているそうです。
 さらに! エカテリンさんからも衝撃の報告がありました。

 「今朝くらいに連絡が来たんだけどね。カステラード軍相夫人アーメリア様ご懐妊。さらに、ユルガルム辺境候嫡男ウードゥルが夫人ターナンシュ様、第二子ご懐妊。これは新年早々、慶事が続くねぇ」

 これはまたあちこちからおめでたい話が舞い込んできますね。
 ファルリード亭で食事していた人からもさらに歓声が上がります。

 「第二王子妃様と、アイズン伯爵の娘様が二人目をご懐妊か! こりゃめでたいなっ!」

 「乾杯だっ!乾杯っ!」

 カステラード殿下には最初のお子様。ターナンシュ様には、シュバール様に次いで二人目。
 …これはまた秋に、アイズン伯爵を護衛してユルガルム領行きですかね?

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これにて6章終わりです。
劇中では2年経ちました。キャラが時間経過で変化していくって、いろいろ難しいですね。
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